第39話 事故

説教を受けてから。

桜と共に飯を食べて。

そして、フワフワした様な午後の授業を受けてから。

俺は桜とひなたと共に帰宅した。

山崎は部活が有るという事で。

合流しなかった。

そして、家で。


「兄貴!そっち並べたよ!」


「おう!」


由紀子さんと桜と親父と共に。

合同で忙しく動く。

和菓子を並べたり、作ったり、掃除したり、接客したり。

それらを繰り返すぐらい忙しかった。

参りそうになるが、それでも踏ん張る。

待っていてくれる人が居る限りは。

そう、思いながら。



「終わった.....」


「.....そうだね.....」


忙しく動いて、夕方。

着替え室で俺は肩を回す。

桜は項垂れて、真っ白になりそうだ。

本当に死に物狂いだな。

でも、これだけ人気だと嬉しいよな。

忙しくて死にそうになったけど。


「.....桜。大丈夫か?」


「.....死にそうだけど、大丈夫.....でも腰が痛い.....」


流石にそうなるわな。

俺も肩が痛くて。

そして眠気も有るな。

取り敢えず、風呂入って、飯食って、歯を磨いて、寝るか。

勉強は明日で。

じゃ無いとヤバい。


「.....」


なんか。

ふと、皆んなから告白された事を思い出した。

こんな俺を愛してくれる、みんなの事を。

これまでは不幸だと思っていたけど。

そんな事は無かったんだなって。


「.....兄貴?何考えているのかなぁ?」


「.....何を考えているか?そうだな。まぁ、お前から告白された事を考えていたよ」


「ちょ、え?!??.....あ。もしかして付き合う気になった?」


驚きの表情を浮かべた桜。

だが、次にニヤッとして、俺を突いてきてから。

その様に話した。

俺は優しく桜の額にデコピンした。

そして、笑みを浮かべる。

この幸せが何時迄も続くと良いな。

その様に、思いながら。

俺は桜を和かに見た。


「どうしたの?兄貴」


「.....いんや。どうもしてないよ。大丈夫」


そして、俺は立ち上がって、着替えよう。

その様に思い、ロッカーを開けた。

次の瞬間。


ピコン


「ラ○ン.....」


文章が入った。

ラ○ンだ。

画面を見ると、どうやら山崎からの様で。

山崎か、と俺はその文章を読んだ。

そして、真剣な顔になり、一気に青ざめる。

その様子を、桜が見てきた。


「.....」


「.....兄貴?」


「.....すまん。桜。用事が出来た。今から外出して来る」


あまりの事に。

衝撃を受毛てしまった。

俺はジャージを片手に走る。

そして扉に手をかける。

すると、桜が直ぐに俺の手を掴んできた。

その顔は心配げな顔をしている。


「どうしたの!?ねぇ!?」


その言葉に。

俺は目の前を見たまま。

小さく言葉を発した。

と言うか、小さくしか言葉が出なかった。

震えていて、だ。


「.....山崎が.....信号無視の車に跳ねられた.....と山崎の母親からだ.....」


「.....え」


俺はそれだけ小さく呟いて。

扉を蹴り破って、全てをぶち破る勢いで走った。

ヤバい。

マジで不安しかない。

何だろう。

あ、そうか。


『母さんはな.....死んだんだ』


『負けないからね!飯島カイくん!』


親父や。

山崎の。

その言葉が。

その光景が。

その全てが。

大きく頭を過ぎった。

目の前を見る。

フローリングの床、少し汚れた襖。

そういうのが見えてくる。


「.....」


最悪の展開に持っていく俺はクズだ。

だけど、昔の事があって。

どうしてもそうしかならない。

駄目だ山崎。

死ぬな。

今日、告白されたばかりなんだ。

俺を好きと言ってくれた女の子なんだ!

やめてくれよ神様。

フラフラ走る、俺は。

目の前が暗くなっていくのが分かった。


「あー、ヤバい」


駄目だ。

またショックで記憶失うかも知れない。

すまん、桜、親父、由紀子さん。

ショックで。

結構ヤバいかも。


「カイ!!!!!」


青ざめて、周りが見えなくなりながら。

全力疾走する俺の手を。

天使の手が掴んだ。

そして、握りしめる。

俺はその痛みに。

見開いて、視界が一気に開けた。

そして、背後を多少青ざめながら、見る。

そこには。

複雑な顔付きをしながらも和かな。

そういう顔をして?

と言わんばかりの、天使が。

居た。


「.....兄貴、落ち着いてとは言わない。だけど、一旦、深呼吸して。大丈夫だから.....!」


「.....!」


そうだ。

俺はもう、1人じゃない。

桜や、ひなた、栞。

みんなが居る。

そうだ。

その事を。

忘れて居た。


「..........桜。.....頼む。付いて来てくれ.....」


「当たり前だよ。カイの為なら!!!!!」


周りが見えなくなりそうな時。

俺の手を。

そっと、天使が握ってくれた。

もう。

1人じゃないと。

分かった。

俺達は駆け出して。

玄関を開けて、直ぐに走った。

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