第8話

山崎とは忙しい理由で。

大会後に会う事になっている。

その為、俺達は直でやって来た。

チケットを確認されて予選会場内に行くと。

無駄にクソ馬鹿デカイプールが目に入る。

50メートルだっけ、このプールって。

思う、そのプールは。

とても綺麗になっていた。

水とかを丸ごと交換したのだろう。

更に、徹底的に掃除されている。

滅茶苦茶にピカピカだった。

選手も準備中。

俺達は客席に腰掛けて、山崎や他の選手の様子を観察する。

しかしなんだ。

女子の水着って貼っついていて、なんか。

えr.....


ギリギリギリ!!!!!


「痛い!!!!!」


「カイ?見過ぎ」


プイッと頬を膨らませて、そっぽを向きながら。

桜に思いっきり頬を抓られた。

俺は頬を抑えながら涙目で桜を見る。

いやいや、仕方が無いだろう。

健全な男子高校生はみんなこんな感じだ。

誰だって女子を見るんだから。


「あ、ほら。カイ。始まるよ」


「.....お。本当だ」


プールサイドにある、設置された3つのビニール屋根の一つの下から。

おっさんが、いや。

うちの校長が出てきた。

着こなしたスーツで、禿頭で、横に辛うじて有る髪の毛を揺らしながら。

中年の眼鏡、校長は。

おっほん、と一言、言う。

そして、マイクを持って、客席を見てきた。


「.....今日はお集まり頂き、誠に感謝します。今回、この場所で有るのは南ヶ丘高校との合同の予選大会です。全国大会への一歩となります.....」


そんな、校長の説明と。

招かれた南ヶ丘?高校の校長やら客人を説明されて。

俺は欠伸が出てしまった。

そんな説明は良いから大会を早くやってほしいという意味で。

横の桜が、もうっ。

と声を上げる。


「カイ。欠伸は駄目だよ」


「いやだって。眠いんだもん」


もう。

ともう一発、声を上げて、桜は前を見る。

俺はやれやれとため息を吐いて。

横を見た。

そこに、顎に手を添えて、興味深そうに見ている眼鏡少女が居た。

俺はその少女に対して、眉根を寄せる。

どっかで見た様な少女だ。

俺と同年代だった筈。


「まぁ。関わり合いが無いしな」


俺は呟いて、欠伸を消しながら。

目の前を見つめた。

その場所では、校長の話が終わって。

大会が始まろうとしていた。

審判がカッチンを鳴らそうとしている。

ようやっとか。

俺は真剣な目で。

前を見据えた。



大会が中間地点に到達した。

現在、山崎の順位は2位。

すげぇなアイツ。

こんなにも水泳に強かったなんて。

普段はあまり成績が良くないのに、才能が有る。


「.....喉が乾いたな」


俺はその様に思い、ネ●ターを取り出す。

因みに桜は休憩時間として、トイレに行った。

俺はトイレは良いか。

と思って、この場所に残っていた。

ネク●ーのタブを開ける。

そして、飲む。

甘く、桃の味がして。

美味しい。

流石はネ●ターである。

俺の大好物。

周りに甘い香りが漂う。


(グギュルルルルル.....)


「.....!?」


なんか聞こえた。

俺の腹か?

と思ったが、違う様だ。

俺は横を目だけ動かして見る。

音が聞こえた場所と同じ様な場所には、あの眼鏡少女が居る。

リボンを左右に付けた、なかなかのボディの少女。

よく見たら可愛いけど。

コイツか?

いや、まさかな。

その様に思い、●クターを桜の分を残しつつ、飲む。

すると。


(グゥ)


「..........」


明らかにあの少女だ。

知らん振りして居るが、明らかに。

アイツだ。

俺はため息を吐いて。

首を振った。

そして、ネ●ターの入った缶を横に置いて。

ポケットを漁る。

そしてカンロ飴を出した。


「.....君」


「.....何か?」


キッと俺を睨みつける、眼鏡少女。

童顔の、小ぶりな顔に。

大きな目、細い眉。

これで身長高かったらマジでミス・ユニバースとか出れそうなんだが。

そんな少女に俺は恐る恐る、続けて話す。


「いや、何かじゃなくて。なんか、さっきから腹が鳴ってるし。何も食ってない様だしさ。これ食わない?」


「.....」


「マズイもんは入ってないからな」


眉根を寄せたまま、目も鷹の様だ。

いや、俺を食うつもりですか?

この少女は。

顔を引きつらせながら思っていると、その女は。

俺の手からカンロ飴を奪い取った。

え、いや。

奪い取ったぞ!?この女!?


「.....有難う」


「.....いや、そこまで腹減ってたんならなんか食えよ.....」


まさかだろ。

日本ってそんなに食糧ねぇの?

俺はその様に思いながら。

元の場所に戻ろうと。

動き出す。

すると、その女が。


「.....私ね、水泳に憧れてるの。小学3年か4年ぐらいの時に.....顔は覚えてないんだけど、浅かったけど、川で溺れている時に同年代ぐらいの男の子に助けられて。水泳に憧れているの」


「.....そうなのか?」


ヤバい。

なんか面倒臭い事になりそうだ。

その様に思っていたが。

女の言葉に。

俺は昔の事を思い出した。

そう言えば、確か。

俺は母さんが亡くなって。

悲しい気持ちを晴らす為に浅瀬の河川敷とか良く歩いてたな。

その際になんか。

空いたペットボトルとかを使ったり、ストレスですぐ辞めたけど水泳で泳ぎ方とか習っていた俺は。

薄っすらだが、何か生き物を助けた気がする。

いや、まさかな?


「.....」


「格好良かったなぁ。その男の子。.....確か、名前が.....カイ?とか言ってた様な.....そんな感じの名前は日本中に居るだろうし、分からないけど.....会えたら.....嬉しいな」


いや。

まさかな?

俺は青ざめながら静かにその場を後ずさりする。

何故なら、この状況を。

桜に見られたらマズイのと。

この子、怖いのと。

面倒臭い事になりそうな感じがした。


「カイ?どうしたの?」


桜が帰って来た。

そして名前を。

俺は衝撃波を感じ取る。

爆弾がその場に落とされた気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る