第9話

「.....カイ?.....え.....」


あちゃー。

俺はその様に額に手を当てて思いながら。

横に居る女を見た。

桜の言葉に固まった女。

カンロ飴を噛み砕きつつ可愛らしい顔を唖然とさせている。

そして大きな目で瞬きを数回させて。

俺に口を開いて聞いてきた。


「.....あの。もしかして.....昔、私を助けてくれたりしました?」


「.....まぁ、確かに昔、俺は川で生き物を助けた覚えはあるけど.....それが女の子だったかは定かじゃないから.....」


女は、そんな俺の言葉に。

俺とは逆方向を見た。

そして、そ、そうですか。

なんて呟いてから。

間が空いた。


「.....」


赤くなっているのだろうか。

俺はその様に思いながら、女を見る。

すると、横から猛烈なオーラを感じた。


「.....あ」


「.....」


桜がプクッと膨れていた。

俺はため息を吐いて。

横を見て、桜に話した。


「いやいや、怒るなよ。ちょっと話してただけだろ」


「.....ふん!だ!なんか知らないけど。いい雰囲気ですね!!!!!」


あっちゃー。

面倒臭い。

俺はその様に思いつつ。

額に手を添えた。

頬を膨らませたままで、そっぽを向いて腰掛ける、桜。

俺はそんな桜に言う。


「すまんって」


「.....だって.....いい雰囲気が感じられたんだもん.....嫉妬しちゃうよ」


「.....ハァ.....」


駄目だな、こりゃ。

そんな感じで思っていると。

真横から視線を感じた、と思った次の瞬間。

水着の上に何か羽織った山崎が現れた。


「ヤッホー。みんな!って.....あれ?栞っちじゃん!」


「山崎さん.....」


山崎の黒髪。

濡れた髪が若干いやらしさを.....って。

そんな会話をするって。

なんだお前ら。

知り合いなのかよ。

俺は驚愕しながら、栞というその女を見た。

山崎の腋に挟まれた、栞は。

若干、嫌がりながらも嬉しそうに笑みを浮かべていた。

俺はその様子に口角を上げる。

すると、さっきまで怒っていた桜が山崎を見て。

そして立ち上がって頭を下げた。


「山崎先輩。今日は呼んでくれて、有難う御座います」


「.....」


「?」


ツインテールを揺らしながらクエスチョンマークを浮かべている、桜。

その理由は。

栞と戯れていた山崎が口に手を当てて開けて驚愕していたからだ。

なにこの子、すっごい可愛い。

という感じで。

ああ、そういや。

こいつらって会うの初めてか。

面倒臭いから山崎にあまり写真とか見せないし。

ってか、山崎とそんなに仲が良いとは思って無かったし。


「飯島の妹ちゃん?すっごい可愛い!」


その様に笑みを浮かべて呟いて。

突然と栞から離れて。

キョトンとしている桜の手を握る、山崎。

桜はそんな山崎の感じに滅茶苦茶に驚愕していた。

手を振ってから、桜より視線を外して。

山崎は俺を睨んでくる。


「こんな可愛い妹ちゃんを隠すなんて.....飯島、最低だね!」


「.....いや、最低って.....」


山崎のまさかの言葉に。

俺は息を吐いた。

すると栞が驚きながら、山崎に聞く。


「え、妹.....カイ.....君の妹ちゃんなの?全然似てないけど.....それに呼び捨てだったよ?」


「あ、えっと.....」


首を傾げながら困惑する、山崎。

俺はその様子に、静かに桜の元へ向かう。

そして、桜の横に俺は立ってから。

桜の頭をポンポンしつつ。

栞に話す。


「.....ちょっと理由があって血が繋がってないんだ。俺達は」


「.....!」


栞は。

俺達の様子に。

驚愕していたが、なるほど。

と納得して。

眼鏡を掛け直して。

真剣な顔付きで俺を見据えて話した。


「.....そうなんですね.....」


「それで俺の事は呼び捨てだったんだよ。まぁ、今日限りだけどな」


俺はその様に栞に話して。

桜の顔を見た。

そんな桜も俺を柔和に見てくる。

俺はそれを確認してから前を見た。


「.....ま、本来ならあまり人に言う事じゃ無いけど.....お前は山崎の友人っぽいからな。話しても良いかと思って」


「.....!」


栞は見開いてから。

俺達を見てきた。

そして恥ずかしそうに言葉を発する。


「.....その.....話しにくいのに、話してくれて有難う御座います.....」


「山崎は優しいから友人も本当に性格も可愛いだろうs.....イッテェ!?」


なんか。

思いっきり足を踏まれた。

俺は引きつらせながら、桜を見る。

桜はもうっと。

言っていた。


「あはは.....」


山崎を見る。

なんでこいつ、頬を赤くしてんだ?

俺は首を傾げた。

すると。


ピンポンパンポーン


(間も無く予選が再開されます。選手の皆様はお戻り下さい、繰り返します.....)


その様な、アナウンスが会場内に流れた。

山崎も俺達も驚愕する。

特に山崎が驚愕していた。


「あ、忘れてた!!!!!マズイ!」


髪から柑橘系の良い香りを撒いて。

黒髪をなびかせてスタンドから駆け出して行く、山崎。

そして、俺達の方に振り向いて。

ピースサインを出して、八重歯を見せて。

はにかんだ。


「.....じゃあね!」


そのはにかみに。

俺達も口角を上げて、手を上げた。


「おう」


「はい!」


「.....山崎さん。頑張って」


山崎は嬉しそうに去って行く。

俺達は顔を見合わせて。

頷いて、前を見る。

心の中で、頑張れ山崎。

その様に、祈りつつ、だ。

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