第10話

俺達は大会を集中して見る。

それで、結果が出た。

結果は、山崎は4位。

3位選手とは僅かな差だった。

残念ながら切符を逃してしまい。

俺達は直ぐに観覧席から山崎の所へ向かった。

関係者用入り口。

その付近に山崎を見つけた。


「.....やま.....」


その様子に。

俺は見開いていた。

全く泣いてなかったのだ。

それどころか、満面の笑顔で。

他の優勝したりして泣いている仲間達を励ましていた。

破茶滅茶だ。


「.....山崎先輩、元気そうだね。カイ」


「.....いや.....」


だが、俺は。

直ぐに真剣な顔付きをした。

女の子である義妹と一緒に暮らしているせいか。

その山崎の笑顔は、無理矢理に出している笑顔だと。

そう、一発で見抜いた。

横に居る、栞も何か感づいた様だが。

やがて、山崎がこっちに気が付いた様で。

やって来た。


「.....やー!本当に惜しかったよ!せめて3位だったらもっと大会に出れたんだけどね!やー、みんな強いね!」


山崎は。

たはは、と頭に手を当てて言った。

俺は静かに山崎を見据える。

山崎の事は俺は詳しく知らない。

水泳大会の事もあまり詳しく知らない。

だが、一つ、言える事がある。

山崎は今まで頑張ってきた。

ただ一つその事が言える。

俺は無意識に。

山崎の頭に手を置いていた。


「.....あ、す.....すまん.....」


その事に、山崎は。

一切、嫌がるそぶりを見せなかった。

それどころか、俺が撫でるのにされるがままになっている。

つい、桜にいつもやっている癖が。

俺はその様に思いながら。

山崎を撫でた。

すると。


「.....良いよ。ね?飯島。.....泣いて良い?」


その様に震える声を出して。

山崎は俺の胸に縋って、号泣し始めた。

嗚咽も漏れる。

本気で悔しいのだろう。

負けた事に。


「.....悔しいよぉ.....悔しいよぉ!!!!!」


「.....山崎先輩.....」


「山崎さん.....」


俺のシャツは彼女の涙で濡れる。

だが、嫌気は全然しなかった。

俺はそっと山崎の頭に手を添える。

身長が俺より10センチぐらい違う、山崎の頭を。



全てが終わって。

俺達は山崎を待って、帰宅する。

すると、栞が反対方向を指差した。


「.....あ、私、こっちの方角なので.....」


「.....おう。じゃあな。気を付けてな」


俺達は手を上げて。

そして商店街に入る。


「.....」


「.....」


側から見たらマジで異常だな。

無言でズカズカ商店街内を歩く、女子高生2名、男子高校生1名。

まぁ、それは良いとして。


「.....うーん」


俺はその様に悩む様に言葉を発する。

ずっと無言なのが気になり、俺は山崎に話しかけようとする。

が、その直後。

桜が服を引っ張ってきた。


「ノー。山崎先輩は今、感情に浸っているんだから」


「.....そうか」


そうだな。

負けて悔しいのは当たり前だよな。

俺はその様に思いながら。

山崎をチラ見して、前を見据えた。


「.....」


でも、さっきから。

山崎が俺の方をチラチラ見ては。

目を逸らしている気がするんだが。

気のせいか?


「.....あ、そう言えば、兄貴」


「うん?」


桜が何か思い出した様に。

手を叩いた。


「●クター。一滴も残って無かったよ?」


まさかの言葉だ。

マジかよ。

俺は頬を膨らませて、眉根を寄せる桜に。

頭を下げて謝った。


「すまん。飲んじまって。.....今度、なんか奢るから」


「.....うん。いや、奢らなくて良いよ。その代わり私の質問に答えて」


「?」


首を傾げた。

すると、桜は一言、言ってくる。

恋する女の子らしい笑顔で。


「兄貴は髪型は何が好き?私、それに合わせたい」


「.....え。そんな事で良いのか?」


すると。

真横に居たそっぽを向いている山崎が。

ピクッと反応した様な気がした。

俺はそれを見つつ、桜に向く。


「.....そうだな。あまり髪型に詳しくないが.....ポニテかな」


「.....ポニテ.....」


(ピクッ)


山崎が。

何故か、髪を下ろした。

俺はそれを見ながら。

桜に向く。


「.....ポニテ好きなんだね、兄貴は」


「.....清楚な感じがするからな。女の子らしいって言うか」


「.....」


山崎が何故か、悩む様な顔をした。

その様な、会話を続けていると。

山崎がようやっと声を発した。


「.....私、こっちだから。じゃあね」


「.....お、おう.....」


なんであいつは突然に髪を下ろしたのか。

俺はそれを思いながら。

見送った。



(山崎。大丈夫か)


途中まで菓子屋を手伝って。

俺達は何時もの通り、代わり番こで風呂に入る。

ホカホカな感じで、スマホを握り。

メッセージを送った。


(う.....うん。大丈夫)


(?)


直ぐにメッセージが来たが。

そんな感じだった。

まだ、泣いていたのかな?

俺はその様に思いながら、メッセージを飛ばす。


(大丈夫か?本当に)


(.....あ、あのさ!)


(?)


俺は首を傾ける。

すると。


(髪の短い女の子は嫌い!!!!?)


(は?)


(髪の毛が短い女の子!)


山崎よ。

何で髪の毛の話になる。

俺はよく分からないが、返事を送った。


(清潔感のある女の子が好きだから、短くても長くても嫌いでは無い)


(.....そ.....そうなんだ。良かった.....)


安心する様なメッセージ。

俺は眉根を寄せた。


(???)


(こっちの話だから!!!!!)


ますます意味が分からない。

が、とにかく。

気を取り戻したんなら良かった。

俺はその様に思いつつ。

スマホを置いた。

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