第11話

日曜日。

俺は仏壇の前に居た。

交通事故で死んだ、母さんと。

桜の祐介さんの遺影の前に。

一筋の涙が浮かぶ。

懐かしい光景が浮かんできて。


「.....母さん。祐介さん。こっちは元気です。そっちはどうですか?生活しやすいですか?」


俺は呟くなり手を合わせて、祈った。

母さんが死んだ交通事故。

しかし、こっちにも。

事故を起こした相手も悪くなかった。

原因は赤信号を示さなかった信号機トラブルだったから。

信号機を管理しなかった県や、管理者が悪かったのだ。

俺は誰を恨めば良いんだろう。

その様に思いつつ、苦悩する日々が続いている。

複雑な思いだった。


「兄貴」


「.....おう」


背後から。

桜が声を掛けてきた。

俺はその声に笑んで反応する。

その俺の様子を見てから。

ポニーテールに、模様のあるTシャツ、スカート姿の桜は。

俺の横に腰掛けた。

鈴を鳴らし。

そして、手を合わせる。

俺も一緒に手を合わせた。


「.....今でも.....脳梗塞が憎いよ.....お父さん.....会いたいなぁ.....」


静かに、涙を流して。

その様に呟く、桜。

俺は桜の頭に手を置いて。

そして撫でた。

本当にそれぐらいしか今は出来ないが。


「.....俺も母さんに会いたいな.....」


交通事故が憎い。

だけど、俺の場合。

複雑過ぎた。

親父も殆ど口に出さないが。

複雑な思いで居ると思う。


「.....でも、今は兄貴が、お義父さんが居るから.....とても幸せです。お父さん.....ゆっくり休んでね」


「.....俺も桜が由紀子さんが居るからとても幸せだ」


俺達は顔を見合わせて。

そして、微笑み。

前を見据えて、手を合わせた。



祐介さんと母さんに会いに行くのを終えて。

俺達はソファに腰掛けて。

テレビを見ていた。

しかし何だ。

今日って。


「.....日曜日か.....1週間なんてあっという間だな。マジで」


「お爺さんみたいだね。兄貴」


「爺さんね。そうも言えるかもな」


その様に呟いて、欠伸をした。

菓子屋は一応、毎週月曜日が休み。

その為、本日も営業中。

親父と由紀子さんはせっせと働いている。

手伝いたいのだが。


「.....親父から2万円、お金を貰った。給料の代わりだと。これで遊んで来いってさ。今日は手伝いは要らんからって」


「え。そうなの?」


「.....この辺りに遊ぶ場所なんて無いんだけどな.....」


取り敢えず、桜に1万円を渡す。

そして俺は大欠伸をした。

眠いと言ったらありゃしない。

取り敢えず、勉強するか。


「.....あの、その.....兄貴.....」


プルルルル


「.....電話だ.....?」


誰から掛かってきてんだよ。

ボッチの俺に電話なんぞ。

ってか、桜が何か言いかけなかったか?


「.....桜。何か言いかけなかったか?」


「ううん!何でもない!大丈夫だよ!」


「.....そうか?」


俺は電話の主を見る。

そんなスマホに映った画面には。

非通知設定。

誰だよ。


「.....はい?もしもし?」


『.....あの、この電話は飯島くんで合ってますか?』


「ああ。飯島だけど.....」


俺は眉根を寄せた。

飯島くんなんて呼ぶ奴は知らんぞ。

だけど、相手は女の子の様だ。

俺はその様に思いながら、相手と話す。

それに、聞き覚えがある様な気がしたから。


「.....お前は?」


『私です。栞です』


「.....ああ。栞かよ。何で電話番号知ってんだよ」


その様に話すと。

間が空いた。

その間にスマホを耳に当てたまま俺は横を見る。

そこには、プクッと膨れている、桜が居た。

まぁ、面倒臭いのは変わり無いな。

相変わらず。


『.....飯島くんの電話番号、山崎さんに聞いたんです』


「ああ、成る程ね」


『.....その.....今日って空いてますか?あまりお話も出来なかったので、お話がしたいんですが.....』


つまりはデートって事ですか?

って、違うよな。

アホな男子は直ぐにそっちに結び付けてしまうから。

俺は盛大にため息を吐いて。

そして頬を掻きながら答えた。


「.....うーん、じゃあ、この近くのサイゼで会おうか?暇だし」


『え、会ってくれるんですか!?』


じゃあ、どういう意味で言ったんだ。

俺はその様に思いながら。

桜をチラ見する。

動く準備をして居た。

明らかに付いてくるつもりだろう。

彼氏(?)が居るんじゃねーの?


『嬉しいです!有難う御座います!』


「.....ああ。ただし、条件がある。桜が付いて来るけど良いか?」


『あ、全然構いません!宜しくお願いします!』


俺は、そうか。

と呟いてから、栞と話し合って。

時間とかを決めた。

そして、準備を始める。

その際に、桜に聞く。


「.....なぁ。桜。彼氏は.....」


「兄貴が女の子に何か失礼な事をしないかどうか見張らないと!!!!!」


「.....あ、はい」


威圧の一言。

俺は何も言えなかった。

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