第30話

「.....」


「.....いやいや、ご冗談を.....」


今現在。

俺、桜は。

互いに風呂に素っ裸で風呂場に閉じ込められている。

何故、この様な状況になったのか。

桜はもう赤面どころの騒ぎじゃない程に赤面して。

俺はそっぽを向いて、風呂に入っている。

下半身を見られる訳にはいかない。

誰か助けてくれ。

いや、割とマジで。



俺は全ての考えを纏めようと、風呂に入った。

今日の仕事については親父は手伝わなくて良いと。

寡黙な感じで話し。

それを見ていた、由紀子さんも苦笑気味でお風呂はいって来なさいと。

話していたので。

言葉に甘えて、俺は風呂に入った。

なんか、風呂ってとにかく複雑な考えが吹っ飛んでいくなぁ。

俺はその様に思いながら。

手の傷と。

鏡で額の傷を各それぞれ見た。


「.....」


何だろうか。

俺は記憶を失い。

記憶を傷で失ったひなた。

記憶を溺れて失った、そして性格を失った栞。

不遇な俺達3人は。

なんだろう。

共通して出会う為に。

この世に神から生を授かったのだろうか。

その様にも考えてしまう。


「.....でもこれはその場の監督責任だよな。俺が悪いか」


不遇じゃ無い。

全ては俺が悪い。

その様に思ってから。

これから先、どの様にして。

ひなた、栞と接触するか。

そして、何処かに居る山本夫妻にどう接触するか。

考えていた。

湯船が俺の心臓の振動で揺れる。

それを呆然と眺める。

そして小窓から外を見る。

外はすっかり夜だ。

直ぐに春じゃなくなるだろうな。


「.....明日があるさ」


俺はその様に思い。

頭を洗って、顔を洗ってから。

外に出ようとした、その時だった。

何故か、戸が開いた。

そこには。


ガラッ


「.....は.....!!!!?」


「.....あ.....兄貴と一緒に風呂に入るぐらい、兄妹だよね.....!!!!?」


バスタオル一丁で。

女の子が立っていた。

ポニテを外した、長髪。

後ろで、コブの様に結っている。

マジで全裸の様で。

凹凸が。

って。

変態か!!!!!

俺は一歩下がる。


「うおぉ!!!!?何やってんだお前ぇ!!!!?」


「.....兄妹のお風呂!べ.....別に変な事はないでしょ!」


コイツ、胸も体も。

まさに女性らしくなり.....って。

アカン。


「お.....俺は上がるぞ!!!!!」


「え、ちょ!待って!!!!!」


駆け出した。

その、俺の腕を桜が掴む。

次の瞬間。

俺は足を滑らせて。

真正面に倒れ、戸に手を勢い良く手を突く。

その瞬間。


バキィッ!!!!!


「「.....は?」」


体重負荷のせいか。

何かが勢い良く、へし折れた。

そして、戸が。

押しても引いても。

開かなくなった。


「.....ま、マジか?」


「え.....え!?」


俺たち2人は。

閉じ込められた。



「.....もう多分、15分ぐらいは経過したな。誰か気が付かないか.....とは言っても、親父も由紀子さんも.....下で作業か。くそう」


「ご.....ごめんね。兄貴.....」


赤面でうずくまる我が妹。

俺はその妹の背中を見てから。

そして言う。


「.....大丈夫。あと少しすりゃ、由紀子さんが上がって来るだろ」


「そ.....そうだね.....」


体当たりでぶっ壊しても良いが。

面倒いし、怪我するし。

取り敢えずは待とう。

俺は戸を困惑しながら見る。

すると。

桜が俺をチラ見して。

そして前を向いた。


「.....そうだ。兄貴。覚えてる?私が.....初めてこの家に来た時の事」


「.....ん?.....突然どうした」


「私、心底、兄貴の事が嫌いだったんだ。初めて.....会った時」


桜はフフッと含み笑いをする。

俺は夜の空を見て。

そして思う。

そう言えば、懐かしいな。

俺が桜に初めて会った時。

会った時は桜は俺を。

完全嫌悪していた。

他人だと。

そう認識していたからだ。

懐かしい。

そして俺も、山本家とのイザコザが、母さんが亡くなって。

全てを俺が抱えていた為に。


『俺はこの子とは.....仲良くなれない.....きっとまた傷付ける』


その様に、落ち込んで。

そしてそっぽを見て。

全てから逃げた事を今でも。

鮮明に覚えている。


「お互いにズレてたよね。何もかもが」


「.....そうだ」


それは一言で言うなら。

歯車が狂っていた。

その為に。

時計の長針と短針が触れ合わなかった。

と言う事だ。

だが、その事は確か。


「.....でも、兄貴。覚えてるよ。兄貴が.....お父さんが亡くなった、かなり離れた、旧家に1人で追いかけて来たのを。それからこの人は.....信頼して良いんだろうかなぁって。思い始めたんだ」


嬉しそうに、全てを打ち明ける桜。

はにかんでいる。

俺はそんな桜に対して。

天井を見上げて、話した。


「.....そうだな。お前、当時はまだ幼かったもんな。1人で家出するのは。あの時は俺は本当に青ざめた。ある意味、心を失うよりも。肉体を失う事の辛さを、知っていたから.....」


「.....お互いに傷を持ちすぎだね.....」


俯く、桜。

リアルの傷もな。

本当に持ちすぎだ。

この世界はアイロニーだよ。

マジで。


「ね、兄貴、まだ付き合えない?」


「.....そうだな。残念だが、俺は勉強に集中したい」


「.....そっか。じゃあ、待つね。私。兄貴がその気になるまで」


桜はその様に話して。

笑顔になった。

俺もその笑顔に。

笑みを零す。

つーか。


「.....逆上せてきた.....」


「え?あ、ちょ!だめじゃん!?」


風呂に30分も浸かればこうなる事は賢明。

一刻も早く上がらなければリバースする。

アカンぞこれ。

男がリバースって。


「.....と.....とにかくは、だ。.....け、蹴り破るぞ」


「うん!!!」


そして。

立ち上がろうとした、その時だった。

浸かりすぎたせいで。

俺は暑さで蹌踉めいた。

そして、素っ裸の桜を押し倒す。


「きゃ.....」


「.....!!!!?」


気が付くと。

桜の唇と。

俺の唇が。

ぴったり、重なっていた。



































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