第31話

結局、俺達は。

由紀子さんに助けてもらった。

それで、風呂から出る事が出来たが。


「.....」


俺は。

由紀子さんと話している、桜を見た。

それから赤面して、自らの唇に手を添える。

そして、風呂場での出来事を思い返す。


『!?』


『.....!!!!!』


そう。

桜と唇が重なった、あの時を、だ。

俺は真っ赤に赤面した。

そして心臓に手を当てる。

脈打つ。

それも相当に早く。

恐らく、血圧は相当に上がっている。

160とかいう、ボーダーを。

超えているだろう。

何でか。

それは簡単に言えば。

俺に対して。


『大好きだよ。兄貴』


その様に、告白してくれた、俺の事を遥か昔から思っていた、義妹と。

俺の失態とは言え、キスをした。

好きだと。

その様に仮にも言ってきた、女の子と。

俺はチラッと桜を見る。

桜は一切、こちらを見ない。

パジャマ姿で、休憩中の由紀子さんと楽しげに笑ったりして会話している。

まるで。

一切、そんな事件は無かったと言わんばかりに。

照れ隠しか。

それとも、本気で嫌だったのか。

それは伺う事は一切出来ない。


「.....親父の様子でも見るか」


煩悩が頭の中を過ぎる。

恐らく、初キスとなる今現状を。

その考えを今は打ち消す為に思いながら。

2人に気付かれない様に。

リビングを抜け出し、階段を降りて行った。

そしてドアを開ける。



「親父。何か手伝えるか?」


「.....今は菓子を造っている。真剣だ」


「.....そうか」


周りを見渡す。

そこには、もち米や。

餡子のカスが付着した、器やら色々な物が置かれている。

丁度いいや。

洗うか。


「.....」


「.....」


ジジジ。

その様な、昔ながらの電球の音が響く中。

俺と親父は少し薄暗い空間で。

作業をする。

親父は真剣だ。

俺なんかを相手にしている暇は無いと。

その様に言わんばかりに。


「.....」


俺は洗い物をする中で。

ふと、別の考えを浮かべようとして。

疑問を持った。

何故、山本家から逃げた様な俺達と。

由紀子さんは結婚をする事にしたのか。

それが気になった。


「いつか分かるだろ.....」


その様に、思い。

俺はもち米をスポンジで洗い落とす。

ウインドウ。

つまり、窓から見る外は真っ暗になり。

月明かりが照らしている。


「.....カイ」


「.....?」


突然、親父が。

前を向いて作業をしたまま。

俺に口を開いてきた。


「.....どうした?親父」


「桜とは上手くいっているか」


「.....」


キスの件が有り。

あまり考えたく無い。

俺はその様に思いつつも。

親父が話し掛けてきたのは嬉しかったので。

答えた。


「.....学校では凄い後輩だよ。家では仲が良いよ」


「.....そうか。それは何よりだ」


そして、話が途切れた。

物音だけが響く中。

俺は真正面の水道水を見る。

そうだな。

俺達は当初は交わらない、水と油だった。

だけど、本当に。

親父と由紀子さんが頑張ってくれたお陰で。

俺は桜と仲良くなり。

オマケに告白までされる様になった。

こんな幸せは今まで無かっただろうよ。

考えてみても。


ピロリン


「.....?」


唐突に。

ラ●ンが鳴った。

俺は手を拭いてから。

メッセージを見る。

そこには。


(馬鹿兄貴)


その一文。

なんじゃこりゃ。

俺はその様に思いながらも。

苦笑して、少しだけ赤面してから。

返事を送った。


(すまん。なんかその.....色々)


(別に。あ、このお詫びは今度)


(.....お詫びって何よ)


お詫びって。

何だか嫌な予感がする。

俺は青ざめながら。

返事を待つ。


ピロン


(兄貴に命令。私を今度の日曜日、1日だけ、恋人扱いしなさい。さ、逆らう権利は無いんだから!)


「.....」


恋人役っすか。

俺はその様に複雑に思いながらも。

返事を打ち込む。


(分かった。全ては俺が悪いからな。何でもするよ)


(うんうん。それで宜しい)


嬉しそうに。

桜はメッセージを切った。

俺は忙しいと判断したのだろう。

その事に。

俺はスマホをポケットに収納して。

洗いに戻った。



散々な感じで。

あっという間に日が経った。

早坂の事を。

考えながら居たが、あまり謎は解けなかった。

何故、早坂になったのか。

その謎とかが、だ。

山崎とは何時もながらに。

そして、クラスメイトからは睨まれ。

日曜日。

まさにデート日和。

何故なら、晴れているから。

真っ青な青空だ。

素晴らしい天気だが、内心は複雑である。

何故ならこの数日間。

桜と一度も会話していない。

メッセージも無い。

どうなるのだ?

これ。


「.....ハァ.....」


俺は自室で。

外用の洋服に着替えた。

Tシャツと何つうか、あまりデザインの無い様な上着。

そしてジーパン。

まさに普通。

何もかもが普通。


「.....ノーマルすぎるが、ファッションセンス無いもんなぁ俺。直さないと.....」


鏡の前には。

短髪の、そこら辺に居そうな高校生の身長もそこそこの凡人(男)が立っている。

俺の様な奴が。

女の子に告白されて、尚且つ、恋人の役をしろって。

良いんですかね。

ファッションセンスすらゼロですよ。

神様。


「.....」


いかん。

あの時の事がフラッシュバックする。

桜の顔を。

赤くなって、マジで見れないかも知れない。

いやいや、ちょっと待て。

相手は仮にも義妹だろ。

落ち着け、俺。

深呼吸しろ。


「.....よし」


俺は。

自室を出て。

そして、リビングへ向かう。

すると、その場に。


「.....」


「.....おはよ。兄貴」


見惚れた。

これまで、相当な数の服装を見てきたが。

俺は、その勝負服?の様な。

白のワンピースに、肌色の鞄。

真っ赤に頬を染めて。

モジモジして、恥じらいながらも。

俺を本気で振り向かせようとしている姿に。

心を完全に打たれた。


「..........」


「.....あの.....何か言ってよ」


肌色の鞄を足元に置いて。

俺をただ、真っ直ぐに見つめてくる。

いや、この状況で何か言えと。

うん、そうだな。

直球で女神とでも表現するか?


「.....可愛い.....」


「.....え.....うん。.....あ、そうだね.....」


「.....いや、マジでそれしか.....言葉が出ない.....ごめんな.....」


それから。

俺達は数分間。

その場で沈黙した。

そして、お互いに顔を上げて。

頭を下げた。


「「ごめんなさい(ごめんな)!!!!!」」


完全に被った。

俺達は顔を見合わせて。

そして手を広げて、譲り合う。


「あ、えっと.....ど、どうぞ」


「.....そ、そっちこそ.....」


必死にやると。

俺達は顔を見合わせて。

一気に吹き出した。


「.....くくく.....」


「ふふふ.....」


すると、アハハと笑いあって。

俺達はお互いに涙を拭った。

その、涙を拭った後に。

桜は顔を赤くして。

まるで、婚約指輪を薬指に嵌めてね。

と言わんばかりの差し出し方。


「.....ね。今日は楽しもうね」


「.....そうだな」


静かに俺はその手を取り。

そして、決意を新たにした。

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