第20話
桜は全然では無いが、作り笑いをする。
つまり、はっきり言って。
元気があまり無かった。
その様子に俺は心配げな目をして。
そして日常を過ごしていた。
今日は水曜日の朝。
「.....行って来ます.....」
「行って来ます」
桜はツインテールな感じで、制服を着込み。
ピンクのモフモフな感じのマフラーを首から掛ける。
俺は何時もの通り、コートを着て、少しヨレヨレのマフラーを巻いて。
学校に向かう。
桜と一緒に朝ごはんや、朝の準備をして。
心配げに手を振る由紀子さんや親父に見送られながら。
玄関より表に出た。
その際に。
由紀子さんはアイコンタクトで俺を見てきた。
その目が訴えているのは。
『.....桜の事を宜しくね』
そんな感じの言葉。
俺は由紀子さんのその言葉にアイコンタクトで頷いて。
元気が無い、桜を確認する。
俯いている、桜。
日曜日からずっと。
この調子の桜を、だ。
俺に対して、ツンデレな感じの桜は。
全く俺に接触して来ない。
はっきり言って。
何かもどかしい様な感じがする。
俺が何かしてやれないのか。
という感じで。
「.....桜」
「.....何。兄貴」
「.....その.....えっと.....何か不安な事があったら俺に話せよ?」
そんな俺の言った事に。
桜は。
俺を一瞥して、そして俯いた。
駄目か。
「.....まぁ、話せる様になったら.....で良いから」
「.....兄貴は.....」
「.....?」
唐突に。
桜が口を開いた。
そして、言葉を発する。
俺を複雑な目で見て、だ。
「.....兄貴.....何も出来ない女の子って嫌?」
「.....え」
唐突な謎の質問に。
俺は見開く。
そして真剣な眼差しの桜に頬を掻いて。
横を見ながら、答える。
「.....嫌いでは無いかも.....知れないが、でも男が憧れるのは何でも出来る女の子だよな。やっぱり」
「.....そう.....なんだね.....うん。そうだよね。.....そうに決まっている」
目を潤ませて。
真正面を見て、歩き出す、桜。
少しだけ霜が降った為に、サクサク音が聞こえる。
その音だけを聞きながら。
俺は俯いて顎に手を添えてから。
考え込んだ。
「.....」
何だろう。
今の回答や、これまでの行動で。
途轍もない間違い、見過ごしをした気がする。
だが、間違いが何なのか。
全く分からない。
うーん?
「.....霜がいっぱいだね。兄貴」
「.....あ?.....ああ.....」
桜は一体。
何を悩んでいるのか。
俺には分からない。
だけど、女の子の悩み事に。
深く立ち入るのは如何かと思い。
聞かなかった。
☆
「.....じゃあね。兄貴」
「.....ああ。後でな」
俺は控えめなその様子を見て。
ため息を吐いた。
そして、下駄箱の下のカタカタいう、なんだっけ。
何かの植物の音を噛み締めながら。
歩いて、上靴を出した。
すると。
「.....飯島」
「.....山崎?どうした」
心配げな顔付きの山崎が。
俺の元へ。
髪が少し湿っている。
髪型はポニテ。
水泳の練習が終わってからまだ時間がそこまで経ってないのだろう。
すると、そんな山崎が俺の目を見据えて。
決した様に話し出した。
「.....桜、あの調子のまま?」
「.....あ?桜.....ああ。確かにあの状態のままだな」
「.....そうなんだ。.....まぁ、でも、女の子って色々有るからね.....深追いは禁物だよ。飯島」
それを分からないと思うか。
俺はこれでも健全な男子高校生だ。
ボッチの、な。
かなc。
そんな事は良いか。
とにかく、大丈夫だ。
「.....分かっているさ。大丈夫。心配には及ばない。一応、見守るだけにしているから」
「うむ。宜しい。では、教室に参りますか」
「.....そうだな」
下駄箱から上靴を出して。
下に落とす山崎。
よく考えてみたら。
こんな場所で山崎に話しかけられるのは初めてじゃ無いか?
ちょっとラッキーだ。
仮にも山崎は美少女だし。
俺みたいなクソぼっちに話しかけてくるなんてあり得ない話だし。
☆
キーンコーンカーンコーン
「.....授業はここまで。次の時間もしっかりとやれよ」
保体の時間が終わった。
クラスメイト、俺は。
項垂れる。
ようやっと終わったぜ。
坊主頭の、どっかの不良みたいな顔付きの。
厳しい岡崎の授業が。
寝たら眉を顰められて竹刀でオラオラでぶっ叩かれるしな。
本当に最悪だ。
保体なんて教科書ペラペラしたら余裕で90点超えるっつの。
その様に思いながら。
項垂れる。
すると。
「.....お疲れ。飯島」
「.....お疲れ様。大丈夫だったか?お前は」
ウインクする、山崎。
コイツ、かなり記憶力を試させられていたな。
教科書の穴埋めを答えろとか。
日直だから。
最低だろ岡崎。
マジ無いわ岡崎。
「.....疲れたよー。当たり前じゃん」
「.....そりゃそうだよな.....」
俺は欠伸をして。
そして伸びをする。
すると、山崎が俺を見て。
赤面で何かを話そうとした、その時だった。
ピンポンパンポーン
『.....二年A組、飯島。二年A組、飯島。至急職員室まで』
ちょ。
まさかの呼び出し。
何だよ一体。
俺、何かしましたっけ?
それも至急かよ。
「.....飯島が呼び出し?あり得なーい」
山崎が話を切り替える様に巫山戯た感じで俺を見る。
俺は山崎にため息を吐いて答えた。
そして言う。
「.....お前な。俺だってクラスの人間だ。十分にあり得るだろ」
「.....まぁ、良いから行って来たら?至急だって言うし」
「.....うーむ」
マジで何かしたか俺?
全然思い当たる節が無いんですけど。
かなり面倒臭いな。
クソッタレ。
職員室、遠いし。
☆
「失礼します」
職員室に歩いて行き。
扉をノックして、入る。
そして、教員が俺を見つめる中。
ため息を吐いて、歩くと。
「.....ああ。君が飯島くんだね」
中年の先生が安っぽい椅子から立ち上がって。
俺に話しかけて来た。
黒縁眼鏡に、シワが少し有る感じの目元。
痩せ気味で、俺よりも身長が少し高い。
白衣を着ている。
更に、優しげな表情をしていた。
えっと、確か名前は。
遠藤港。
だったか。
確か、物理教師だ。
「.....はい。飯島です。えっと.....ご用事って何ですか?」
「.....私は飯島桜くんの副担任だ。担任が出張中でね。.....えっと.....早速だけど、その桜くんに関して何だけど、君、何か知らないかい?」
「.....え?」
遠藤先生は。
その様に心配げに話した。
どう言う事だ。
「.....桜ですか?今朝、一緒に登校しましたけど.....どうしたんですか?」
「.....一緒に登校した?おかしいな.....桜くん、教室に来てないんだ。成績優秀なあの子が無断欠席なんて普通に考えて有り得ないと思ってね。.....桜のお兄さんの君なら何か知っているかと思ったんだけど.....」
まさかの遠藤先生の言葉に。
俺は愕然とした。
そして、一瞬だが。
今朝の桜の言葉を思い出した。
『.....何も出来ない女の子って嫌?』
「.....クッ.....!!!!!」
「.....!?」
気が付くと。
俺は全速力でその場を後にしていた。
何を考えている。
教室に来てないなんて!
何処に行った?
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