第19話

今日の由紀子さんの夕飯。

肉じゃが、鰆の煮付け、漬物、ご飯。

うむ、俺が一番好きな組み合わせである。

流石は由紀子さんだと思う。

料理も上手で家事も上手で客の捌きも上手。

俺達の出番が無さ過ぎる。

涎が出ない様に俺は気をつけながら。

用意をしようと。

由紀子さんに向いた。

その由紀子さんは俺を見てから。


「凄いのよ。山崎さんが肉じゃがを作ったの」


「.....え?」


「!?」


嬉しそうに話した。

え?嘘だろ。

山崎が肉じゃが作ったのかよ。

スゲェな、オイ。

これ出汁とかとるの大変じゃねーのか?

俺は驚愕した。

だが、桜が俺以上に驚愕していた。

と言うよりも、唖然としている。


「.....」


何か、不安げな感じで。

俺を見てくる、桜。

その様子に、クエスチョンマークを浮かべて桜を見る。

そうしていると、山崎が味見の皿を持ったまま、ウインクしてきた。


「あともう少しで出来るからね、 ダーリン」


山崎がその様に話して。

俺はボッと思いっきり赤面する。

その、褐色の肌に似合う、白エプロン。

由紀子さんが使っているエプロンを借りた、エプロン姿だった。

随分と様になっている。

桜が嫉妬するか?

その様に思ったが。

桜はそれよりも焦った様に反応した。


「.....じゃ、じゃあ、私は箸を出したり.....」


ところが。

準備をしようとすると、全ての準備を栞がやっていた。

まるで、和食の作法を全て学んでいる様な並べ方。

って言うか。

俺らの仕事が全く無いんだが。

そして驚愕だ。

コイツら、こんなに出来る子だったなんて。

俺は桜を笑みながら見る。


「なぁ。さく.....」


「.....」


目尻に涙を浮かべ。

震えて、青ざめている。

俺は驚愕した。

確かに、桜は料理は出来ないけど。

そんなに怖がる必要が?


「.....桜?」


「.....」


「大丈夫か?おい」


俺は桜の様子を案じて。

その様に聞く。

だが、桜は静かに歯を食いしばっているだけだった。

俺は桜の肩を掴もうとする。

すると、由紀子さんが。


「ご飯出来ました。.....カイくん。.....お父さん呼んできて下さる?」


「.....あ、はい.....」


桜は全く笑顔を見せなかった。

俺はその様子を後で聞こうと判断して。

一階で仕込みをやっているであろう父さんを呼びに行った。



「「「いただきます」」」


俺は桜を見た。

桜は俯いて箸に手を付けない。

だが、少し経って。

桜はご飯をモソモソと食べ始めた。

その様子に流石におかしいと思ったのか。

山崎が心配げに聞いた。


「.....大丈夫?桜」


「.....あ、だ.....大丈夫です!アハハ.....」


「.....?」


何を気にしているのだろう。

俺は気になりながら、鰆の骨を除けて。

ゆっくりと食べる。

すると、無言を貫き通していた親父が。

言葉を発した。


「.....どうした。桜」


「.....!」


知り合いや客によく接しているせいか。

親父は桜のおかしい点に気付いた様である。

桜は力無い笑みを浮かべて、話した。


「.....うん、大丈夫だよ!お義父さん!」


「.....悩みが有るなら後で聞こう」


親父はそれっきり。

黙々とご飯を食べ。

何も話さなくなった。

栞と山崎はそんな親父に恐れていた。

俺は苦笑する。

そして、桜を心配していた。



「.....今日はお世話になりました」


「.....お世話になりました」


山崎と栞は。

俺達に笑みを浮かべて、頭を下げた。

そんな山崎と栞に手を振る、俺と由紀子さん。

親父は寡黙のまま、仕込みに戻った。

桜は俯いたままだったが、取り敢えずと元気を出した様に。

笑みを浮かべて、手を静かに振る。

その様子に、山崎が俺に手招きをした。


「.....桜、どうしたの?」


「.....分からん。後で理由を聞いてみるよ。今日は有難うな」


「.....そっか。うん.....頑張ってね」


山崎は。

俺から後退して栞を引き連れて、玄関に手を掛けた。

そして、控えめに笑顔を浮かべ。


「本当に有難う御座いました」


その様に話して。

静かに帰って行った。

俺は桜を見て。

そして複雑な顔をした。



「.....桜」


山崎と栞が帰宅後。

俺は自室に戻ろうとしている、桜に声を掛けた。

だが、振り返らない。


「.....何?」


「.....話が有る。俺の部屋に来てくれないか」


だが、桜は。

言葉を発した。

その一言を。


「.....ごめん」


涙声でその様に話して。

速く動き、自室に籠もった。

何故、先程まであんなに元気だったのに。

こんなに調子が悪くなったのか。

俺は後に知る事になる。

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