第21話

気が付くと。

俺は走って、学校すら飛び出していた。

学校に桜が居ない事が分かったから。

電話してもメッセージを送っても反応が無い。

無断で外に出て行った事を教師が知ったら停学もんだろうけど。

そんな事はどうでも良い。

一体、何処に行った。

寒い中なのに。

コートもマフラーも置いてきてしまった。

桜の事が心配だから。

頼むよ神様。

俺に桜の居場所を教えてくれ。


「.....」


俺は汗を拭う。

この季節に汗をかくのだから相当に走ったんだろうな。

俺は。

そんな俺は気が付くと学校途中の河川敷に来ていた。

周りを見渡す。

すると。


「.....!」


俯いて、体操座りで居る桜を発見した。

雪が少しだけ舞い散り始めた中。

桜は震えて、凍えて。

石を川に投げて、制服姿で、居た。

俺は眉を顰めて。

その桜に声を掛ける。

散々心配させやがって。

何やってんだコイツ。


「おい!」


「.....え.....あ.....兄貴!?」


近寄って。

俺は立ち上がって、タジタジして居る、桜の肩を掴んで。

息を整えながら、怒った。

心から、怒りをぶち撒ける様に。

マジで心配した。


「何やってんだお前!!!!!散々心配したんだからな!!!!!連絡も無しって!!!!!」


「.....ご.....御免なさい.....」


桜は俺の怒っている顔に。

目に涙を浮かべていた。

本当にどうしたんだ。


「.....お前な.....何か相談事が有るのか?朝から授業サボって!」


「.....兄貴が.....」


俺の言葉に。

桜はキッと目を尖らせて。

震えて、目に涙を浮かべた。

そして涙を流して俺に歯向かってくる。


「.....?!」


「.....兄貴が悪いんだから.....!!!!!女の子を惹きつけて囲まれる兄貴が.....!その優しさが.....!!!!!」


「.....ハァ!?意味わからねぇ!」


胸に手を当てて、号泣する、桜。

意味が分からない。

コイツ、何が言いたいんだ。


「授業も放っぽり出しやがって。その金を出しているのはお前の死に物狂いで働いた親とかなんだぞ!無駄にしやがって!」


「.....そんな事.....!.....そんな.....兄貴は何も分かってない.....女の子の気持ちに.....!」


大声で叫ぶ、桜。

スゥハァ。

その様に、桜は息を整えて。

涙を流しながら叫んだ。

その言葉を、だ。


「.....兄貴が他の女の子にイチャイチャされるのが嫌なの!!!!!私は兄貴の事が大好きなの!!!!!だから嫌なの!!!!!彼氏が居るなんて.....嘘だし.....!!!!!兄貴が他の女の子に取られちゃうんじゃ無いかって.....不安なの!!!!!」


「.....!」


衝撃的な告白だった。

俺はその事に。

唖然とした。

そして、そこまでされて。

ようやっと気付いた。

まさかと思うが、桜は。


「.....お前.....他の女の子が俺と一緒に居るのが気になって.....それで嫌になって逃げた.....という事か.....?」


グスンと鼻を鳴らして。

そして涙を拭う、桜。

赤面だった。


「.....私.....兄貴の事が好き.....大好き.....昔から.....優しくしてくれる兄貴が好きだったの.....だから.....だから.....嫌だった.....本当に.....山崎先輩とかには申し訳無いけど.....嫌なの!!!!!」


「.....」


そんなに俺の事が好きなのか。

俺は桜の気持ちを分かったつもりで居たのだが。

そういう訳じゃ無かったのか。

真剣に好きだったんだ。

俺の事が。

だが。


「.....だからと.....それで授業をサボるのは理由にならない。戻るぞ」


「.....嫌だ.....」


「.....嫌って.....」


嫌だ!!!!!

その様に、叫ぶ桜。

俺はまさかの事に見開く。


「.....授業に集中出来ないから.....帰る.....」


「.....はぁ!?」


「.....兄貴が.....山崎先輩と一緒に居るのが.....耐えられないし!何よりも兄貴に会いたく無い!!!!!」


涙を流す、桜。

滅茶苦茶だ。

俺はその様に思いながらも。

分からないでも無かった。

俺は桜の父親、祐介さんの事を思い出したのだ。

そうか。

桜は恐れているんだ。

全てを見るのを。

無くなってしまうのでは無いかという事を。

それもあって。

学校に戻りたくないのだろう。


「.....ハァ.....もう良いや。.....今日1日ぐらい.....」


「.....兄貴?」


俺は携帯を取り出した。

そして、学校に連絡する。

変声で話した。


「.....すいません。体調悪いんで、飯島桜と飯島カイ。俺と桜、早退します」


「.....!!!!?」


電話を持ったまま。

桜を見た。

まさかの行動だったのだろう。

桜が見開いて、驚いていた。

仕方が無いだろう。

全ての不安に飲み込まれそうで、しかも。

学校に戻らないと言っている、義妹を放って置けるか。


『.....ちょっと待て!お前ら!一体、何処に.....』


ピッ


やかましい奴は無視で。

さてさて。


「.....さ、行こう。桜。そうだな.....カラオケでも行くか?」


「.....兄貴.....?」


「.....お前の状態じゃ授業なんぞ集中出来んだろ。行くぞ」


桜の手を引く、俺。

あ、しかし、鞄とかマフラーとかどうしよう。

まぁ、良いか。

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