第22話

結論から言って。

学校を放っぽり出した俺達は。

近所に有る、カラオケ屋にそのままやって来た。

そして俺達は個室を取って。

中に入る。

店員からはそれなりに怪しまれたが。

桜のお陰か。

一応、柔和ムードにはなった。

と言うのも、恋人同士に見えたのだろうな。

多分。

俺1人のヒトカラだと。

店から追い出されたろうけど。


「.....兄貴.....その.....こんな事をして良いの?」


俺の顔を心配げに見て。

モジモジする、桜。

いやいや、何を言ってんだ。

目の前の画面を見ながら、マイクやら操作パネルやらを取り出す。

そして言った。


「.....お前が逃げたからこんな事になってんだろ」


「.....そ.....そうだね.....」


俺はその様に言い放ち。

真正面を見つつ、操作する。

にしても。

本当に今の桜の顔が見れない。

俺も結構、恥ずかしいんだと思う。

恐らく、人生で初めてだ。

こんなに必死に愛を告白されたのは。

強く告白されてしまって。

どうすれば良いのか困っているんだ。

きっと。


『兄貴の事が好きなの!!!!!』


「.....」


俺は赤面しながら。

鼻を拭って。

目の前のパネルを操作する。

そして、調節する真似をしていた。


「.....ねぇ。兄貴」


「.....何だ」


言葉に。

俺は次の言葉が予想出来た。

その為に、少しだけ恥じらいを隠しながら真剣に、何だ。

と話した。

すると、桜は。


「.....兄貴と付き合いたい。.....駄目?」


「.....今は駄目だ。.....今は.....俺は勉学に集中したい」


必死の言葉に、俺はその様に。

回答して、操作パネルを持って、マイクを持って。

そっぽを向きながら、全てを桜に渡した。

桜は残念そうな顔付きをしていた気がした。

一瞬しか見てないから。

分からないが。


「.....何を歌う」


「.....兄貴」


「.....何だ」


必死めいて、俺に向いてくる桜。

髪の毛を揺らして、女の子の香りを振りまきながら。

俺を潤んだ目で見てくる。

他の女の子に取られるのを。

恐れている様な感じだ。

自分の才能が劣っているのを理解して。

どうしても先に先手を打ちたい。

そんな感じの。

だけど。

俺は色恋に関わっている場合じゃ無い。

俺は公務員になる為に。

必死に勉強している。

だから色恋をしている暇は無いんだ。


「.....お前の彼氏になりたい気持ちは充分に有るよ。だけど俺は.....勉強に集中したいから.....御免な」


「.....」


桜は俺の言葉に。

スカートを外しはじめた。

そして、白の下着が露わになる.....え?


「.....おま!?ちょ!?」


まさかであった。

俺は脱ぎ始めた事に驚愕して、赤面して、手をアタフタさせて後ずさりする。

その瞬間、マイクが床に落ちて。

ゴイーン!

と音を上げた。

桜はマイクにも俺にも構わずに、超超超真っ赤で。

スカートを脱いだ、下着と上着という姿で。

歩いて来る。


「.....ね。私の下着、可愛いでしょ?見て.....兄貴.....」


「こんな馬鹿な事は止めろ.....オイ!ここは公共施設だぞ!」


「少しだけでも側に何時も居たいから.....!!!!!」


桜は顔を紅潮させている。

と言うか、もうこれはヤケクソになっている様に見える。

俺は桜のスカートを直ぐに掴んで。

放り投げる。


「今はそんな気にはならない.....止めてくれ。頼む」


「.....」


「大体、そんな事をしたら祐介さんが悲しむぞ!」


桜は。

俺の言葉に。

ショックを受けた様に。

俯いて、掌で顔を覆って。

大粒の涙を流し始めた。

そしてポツリポツリと呟く。


「.....そ.....そうだね。ごめん.....兄貴.....私が間違ってた.....」


「.....」


コイツの気持ちが分からなくもない。

ここ最近になってようやっと。

女の子の気持ちってのに気が付いた気がする。

桜だけだけど。

女の子の扱いはとても難しい。

まるで俺の家の和菓子の様に、だ。

だけど、それでも。

分かる事は有る。


「.....桜」


「.....?」


「.....もし、お前の気持ちが俺が落ち着くまで本物だったら.....その時は.....付き合おう」


この言葉に。

桜は涙目を上げた。

そして俺を見開いて見てくる。

その様子に俺は笑んだ。


「.....兄貴.....」


「.....それに俺は誰とも付き合わないからな。安心しろよ」


「.....うん.....分かった」


桜は安心というよりも。

少しだけ不安がとれたという感じで。

俺を見つめてきた。

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