第5話

下校時間となった。

俺は家が別方向&委員会の仕事がある。

と言う、山崎と別れて。

俺は帰宅する為に下駄箱へ向かう。

マフラーを首に巻いて、コートをキチッと着つつ。

目の前を見る。

その、目の前の学校の入り口辺りに。

桜が居た。

俯いて、何かを待ちわびる様に。

通り過ぎる同級生に挨拶をしつつ、居る。


「.....アイツは.....」


静かに。

俺はため息を吐いて。

そして下駄箱から靴を取り出して、下に投げ捨てる。

それから、履いて歩き出した。


「.....よ。待ったか?」


「待ってないし!私も今来たところだから!兄貴が寂しんじゃないかって一緒に帰ってあげる!」


「はいはい。そいつは有難うよ」


苦笑しながら。

俺は赤面でムー。

と頬を膨らませる、桜の頭を。

ポンポンと叩いた。


「帰るか。親父と由紀子さんの手伝いをしたい」


「.....うん。そうだね。兄貴」


その様に話しながら。

俺達はゆっくりと歩き出す。

そして商店街辺りに来てから。

俺は聞いた。


「.....桜。まだ怒っているか?」


「.....うん?何を.....」


「.....俺が彼女の如何の斯うの言っていたやつ」


その言葉に、思い出した様に。

プンスカ桜は怒り出した。

赤くその頬がプクプク染まる。


「.....べっつにー?もう怒ってないもん」


「.....怒っているだろ.....お前.....」


「ふーんだ」


全く面倒臭い。

俺はその様に思いながら、商店街を歩く。

すると、側で綿あめを売っている所を見つけた。


「.....ふーん。綿あめ.....って」


「.....」


桜が。

欲しそうな顔付きで。

財布を取り出そうとしていた。

やれやれ。

俺はコートから。

財布を取り出した。

そして、綿あめを一生懸命に作っている、おっちゃんの所に行く。


「ちょ。兄貴!」


「.....お兄ちゃんに任せとけ」


その様に告げて。

おっちゃんに話す。


「おいちゃん。綿あめ一つちょうだい」


これに気付いたおっちゃんが顔を上げて。

そして笑みを浮かべた。


「お!兄ちゃん見る目あるね!俺の綿あめはめっちゃ美味いぞ!」


「そうなんっすね」


そして、おっちゃんは綿あめを差し出してきた。

かなりの量を。

え?

なんか見本と量が違くね?

俺は驚いていると。

おっちゃんは笑った。


「ハッハッハ!彼女さんと分けて食えや!おまけだ!おまけ!」


「.....彼女.....」


桜は。

ボッと頬を赤くして。

そして俯いて。

嬉しそうに、はにかんだ。

俺はおっちゃんに向く。


「.....有り難う御座います。300円っす」


「毎度!」



「♪」


側で嬉しそうに綿あめを舐めている、桜。

俺はその様子を見ながら。

ポケットに手を突っ込んで、歩く。


「美味いか?」


その様に聞くと。

桜が言った。

小さな手をモジモジさせながら。


「.....兄貴も食べる?」


桜は差し出してくる。

いや、って言うか。

恥ずかしい。

いくら義妹とは言え、流石に義妹が舐めた綿あめを舐めるってのは。

俺は少しだけ頬を赤くしながら。

綿あめを受け取る。


「.....言っとくけど、少しだけだから」


「.....お.....おう.....」


俺はゴクリと唾を飲み込み。

綿あめを口に入れた!

甘い。

砂糖の焦げた甘みが。

和菓子とはまた違う甘みが。


「.....綿菓子なんて母さんが亡くなって以来ぶりかな」


「.....そう言えば、私はお父さんが亡くなって以来かも」


俺と桜は。

俯いて、静かになる。

しまった。

やらかしてしまった。

商店街は明るいってのに。

暗い。

これではまずいな。

俺は陰湿な雰囲気を変える為に、言葉を発した。


「.....桜。学校は楽しいか?」


「.....うん。楽しいよ。いっぱいお友達が居てね。本当に楽しいんだ」


「部活とか入らないのか?」


その言葉に、桜は。

首を静かに振る。

そして俺を見据えて、笑った。


「.....今は兄貴と居る方が楽しいから。悲しみも。全部忘れる事が.....」


だが、それは頬を伝った。

父親である、祐介さんを脳梗塞で失った悲しみの涙を。

桜は涙を流した。


「.....でもね.....会いたいよぉ.....お父さんに.....!」


俺は直ぐに桜を抱きしめた。

涙で俺のコートが濡れる。

だが、気にせずに抱きしめた。

桜の父親の祐介さん。

働いている時に突然倒れ、意識を失い。

そのまま亡くなった。

幼い時、桜と由紀子さんが。

手を振って、祐介さんを見送って。

それが最後になった。

桜は。

今でも、祐介さんが亡くなったのは。

自分のせいだと。

由紀子さんも自分のせいだと。

責めているのだ。

桜は、父親を失ったショックがデカすぎて。

涙をこの様にたまに流すのだ。


「.....お前は何があっても守るから。誰もお前の元から次に居なくなる事は無いから。安心しろ。桜」


「.....うん.....兄貴.....」


通行人が俺達を見てくる。

ちょっとだけ恥ずかしくなって。

俺達は直ぐに家まで。

駆け出した。

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