第6話

桜は決して、普段、泣き言を言わない。

泣かない。

だけど、突然に泣き出したり体調を崩したり。

それがある。

そんな、桜を。

俺は生涯、守ると決めている。

もう二度と。

1人で泣かせないと決めている。

俺は桜を大切にしているから。

義妹として。


「.....」


「こっち!餡子煮付けたよ!で、こっちが白玉!」


俺は泣くのを止めて、忙しそうに菓子屋で働いている桜を心配げに見て。

和菓子の細工。

つまり、親父の手伝いをして居た。

俺も一応は和菓子を細工する事が出来る。

それで、役に立っているのだが。

今日は細かな細工が追いつかない程に客が多い。

何故かは知らないが、書き入れ時だ。

今はとにかく動くか。

桜の事が心配だが。

と、思っていると、少しだけ客が少なくなった時に。

由紀子さんが動いた。


「桜」


「何?お母さん」


相変わらず、桜を産んだその体は。

とても美しい。

50代とは思えない、清楚な感じが着ている袴に似合っている。

多少の白髪と。

茶色の髪が入り混じって。

均等を醸し出して整った顔立ちは。

美しい母性を出している。

そんな由紀子さんが。

言葉を発した。


「.....休みなさい」


「.....え。そんな!お母さんなんで!?」


俺も驚愕して、手を止める。

すると、理由を由紀子さんは述べた。


「.....今日は貴方は駄目だわ。働くには適してない」


「働くには適して無いって.....」


桜は。

唖然とした。

由紀子さんは続けて、桜の手を握る。

そして、手を撫でた。


「.....震えているわよ。貴方。もしかして.....お父さんの事を思い出したんじゃ無いの?」


「.....そんな事.....」


流石は母親と言った所か。

そんな事が分かるとは。

長い間、桜を見続けてきたおかげだろうが。

すると、作業をしていた親父も言った。

あまり言葉を発しない、父親が、だ。


「.....桜。休め」


「お父さんまで.....」


すると、お客さんが入って来た。

心配げに桜を見ていた、由紀子さんが接客をする。

俺に目配せをして、だ。

親父も作業に戻った。

桜は、歯ぎしりをして静かにその場を後にする。

そんな桜を俺は真剣な顔付きをして。

追った。



更衣室から。

嗚咽が聞こえた。

俺はドアノブに触れながら。

静かに、開ける。

そこに、号泣している桜が居た。

俺を見て、涙を消そうとしているが。

全く消えない。


「.....桜。大丈夫か」


「.....私、本当に駄目だね。お父さんが死んでから.....うん」


その様に、ポツリと呟いた。

俺は静かに目を閉じて。

天井を見上げる。

シミだらけの天井。

何時もの天井を、だ。


「.....お父さんと喧嘩しちゃったんだ。誕生日プレゼントを買うのが忙しくて出来なかったって。それで、帰って来たら謝るつもりだった。だけど、そんな事はもう一生叶わない。何であの時、喧嘩しちゃったんだろうって今でも.....思うの.....」


髪の毛が顔に引っ付くのも気にせずにずっと涙を流す、桜。

俺はそんな桜に対して。

前を見据えて口角を上げて話した。


「.....きっとな。お父さんな。星になって見上げてるよ。俺は.....何だろう。グリム童話とかそういうのにあまり詳しく無いし、疎いから.....上手く何だろう。ラブコメとか物語の主人公みたいにフォローが出来ないけど、きっとそう思う」


「.....お星様.....?」


「.....ああ。俺はそう思っている。.....俺の母さんも.....交通事故で死んだから、星になっている。そう思っているんだ」


キラキラしている、星々って今まで思ってたんだが。

きっと、あれは今まで亡くなった人達の魂が光っているんじゃ無いかって。

その様に思う。

だってそうだろう。

無数に星々って有る。

だから、その様に考えてもおかしくは無い筈だ。


「祐介さんは.....桜。お前を恨んじゃいないと思う。祐介さんがどんな人だったかは知らない。だけど、性格は俺に似ていると由紀子さんに聞いた事がある」


「.....」


「祐介さんは幸せだったと思うんだ。きっと、桜に会えて、由紀子さんに会えて」


桜は俺の言葉に。

涙を流して。

近づいて来た。

そして俺を見上げてくる。


「.....兄貴は.....もう居なくなったりしないよね?大丈夫だよね?」


泣いている姿もやはり可愛いな。

その様に俺は思ってしまい。

頭を振り払って。

桜の頭に手を置いた。

そして撫でる。

それから、抱きしめた。


「.....ああ。一生お前を守る」


「.....有難う.....兄貴.....」


わんわん泣く、桜を。

俺は強く、強く抱きしめる。 

そして改めて誓った。

俺は桜を一生、守り抜いて。

そして一生、側にいると。



また、仕込みをやると。

由紀子さんと親父は一階に残り。

そして俺はスマホを見ていた。

メッセージをやり取りしている。

相手は山崎だ。

因みに桜は風呂に入っている。


(かっこいいね。飯島)


(.....少し恥ずかしいけどな)


(ううん。でも、一生守るかぁ。良いね)


そのメッセージに。

俺は笑みを浮かべて。

そしてポチポチとメッセージを送る。


(あ、そうだ。今度の土曜日空いている?)


(.....何だ?)


(いや、妹ちゃんと私の水泳大会に来ないかなって。妹ちゃんの心の癒しになればと思ってね)


この時期に水泳大会とかやってんのかよ。

ああでも。

俺の学校って水泳が屋内だもんな。

その様に思いながら。

俺は返事した。


(分かった。誘ってみるよ)


(やった!)


(.....やった?)


これに対して。

何故か、返事が途切れて。

10分が経った。


「?」


俺はクエスチョンマークを浮かべて。

そしてメッセージを送る。


(大丈夫か?)


(違うからね!?)


何がだよ。

俺はその様に思いながら。

メッセージを打った。


(何だよ)


(絶対に違うから!好きとか!違うから!)


(お、おう)


訳が分からない。

俺は眉根を寄せつつ。

メッセージを飛ばした。

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