第43話 野島星

結局、その日は営業が出来なかった。

近所の人達は心配げに俺達の元にやって来た。

由紀子さんと親父が一人一人に対応して。

少し疲れた様な感じになっていた。

これも全て親父と由紀子さんの力だな。

その様に思いながら、俺達は。

2階で一緒に居た。

桜が涙を流しながら、体操座りで俺の部屋のベッドに腰掛けて何かを考え。

俺は静かに顎に手を添えて、外を眺めていた。


「.....これから先、どうなるんだろう」


「全く分からん。嫌がらせにも、逆恨みにも程が有る。とにかくムカつくわ」


先程、ラ○ンが来た。

心配する、山崎、ひなた&栞で。

俺の店の事も本当に心配してくれた。

本当に有難いな。

こんなに心配してくれる人が居てくれる。

本当に嬉しい以外の言葉が見つからないわ。


「.....もう私達じゃ限界が有るよね。全部.....」


「.....そうだな。もう守り切るのも限界が有る」


「.....凄く怖い.....」


桜はその様に呟いて。

そして顔を膝に埋めた。

俺はそんな桜を見てから。

真正面を向いた。

月の光が。

俺達を照らす。


「.....なぁ、桜。もう付き合うか?俺達」


「.....は.....?」


その言葉が信じられないと。

思う様に、顔を直ぐに上げた、桜。

目をパチクリしている。

桜の濡髪が揺れる。

俺はなんでその言葉を放ったか。

それは簡単に言えば。

桜を守る為に、だ。


「.....桜。俺の彼女になってくれ。そして俺を守ってくれ。俺はお前を守る」


「.....カイ.....?」


桜の前に立つ、俺。

その顔は不安に見られている様だ。

そうだろうな。

俺も不安で仕方が無い。


「.....あのな、すまない。正直に言って俺も.....かなり不安なんだ」


不安が重なって全てを埋め尽くす様だ。

これではいけないと。

俺は決意したんだ。

桜を危険から守りたいんだ。


「駄目」


「.....え?」


桜はやっとと言える様に。

笑みを浮かべた。

そして、立ち上がって。

俺の前に立つ。


「.....カイ。貴方はね、ヒーローなんだよ。でも、それでいても結局は貴方はお兄ちゃんで私は妹。長い付き合いだから、考えはお見通しだよ。私を今の状況から守るんでしょ?だからだよね?でもね、そんな事はしないで。他にも女の子はいっぱいに居る。貴方はその子達も守って」


「.....でも桜.....お前、俺にゾッコンなんだろ?」


「うん。昔はそうだったね。でも、この2ヶ月ぐらいで考えが変わったんだ。私、友達や先輩も大切だなぁって」


でもね、取られたく無いのは事実だよ。

その様に話して。

俺の唇に。

桜は唇を重ねてきた。

つまり、キス。

俺は赤面して、桜を見る。


「.....ファーストキスだよ。カイ。貴方にあげる。これで私を守って」


「.....桜.....」


赤面で、モジモジして居る、桜。

俺はそんな桜の肩に手を置いてから。

そして涙を流す。


「.....何時もお前に助けられて.....」


駄目だ。

昔の事があって。

弱音が出る。


「気にしないで、ね?ヒーロー」


だが、そんな中でも。

俺を助けてくれる、彼女が居る。

なんて幸せなのだろうか。

俺は。

本当に。


「サク」


「.....え?カイ?」


「これからはサクで良いか?お前の呼び名は」


そして。

サクを俺は静かに抱きしめた。

涙を流しながら、だ。


「.....もー。カイ、貴方は子供じゃ無いんだから.....」


「でもな。本当に涙が止まらん。すまんな.....」


俺はその様に言ってから。

桜を見つめる。

そして、キスをした。

それから、4ヶ月近くが経過。

山本夫の行方は相変わらず掴めないままだった。



時期は既に7月。

7月13日。

余りに暑い日が続いていた。

体育祭も終わり。

中間試験も終わり。

入学式も終わり。

そして期末試験がやって来る。

良い加減にしろ。

試験ばっかりじゃねーか。


「ハァ.....」


ため息を吐く、俺。

因みに俺は高3になった。

桜は高2。

クラスは2階になった。

なむい。

じゃ無くて。

眠い。


バシーン!!!!!


唐突に。

背中をぶっ叩かれた。

俺は悲鳴を上げる。


「あいてぇ!!!!?」


「カーイ!ボーゼンとしない!」


「してねぇよ!?」


ゆう、だった。

相変わらずの白い鎖骨。

水泳部の部長まで上り詰めた彼女は。

俺に笑顔で話しかけてくる。

名前の呼び方はこの前変えたばっか。

山崎に『なんで私の呼び名だけ山崎のまま!?』

と言われたので仕方が無く。

小っ恥ずかしかったが、仕方が無く。


「水泳部って.....本当に元気ですね.....」


ひなた、はカチューシャで留めたポニテで。

唖然として居る。

それな。

本当にそれな。

俺は頭をボリボリ掻いて。

2人を見る。


「.....全くね.....」


と、思っていると。

声が聞こえた。


「カイにい!」


甘ったるい、声優の様な声。

幼女後輩の声。

髪が長く、140センチの身長の半分は有る。

顔立ちは小学生の様。

最早、小学生に間違えられてもおかしくは無い。

そして、その娘は俺に抱き付いて来る。

それを唖然としてから。

急いで、引っぺがそうとする、全員。


「カイにい!じゃ無いわよ!野島!」


「そうです!野島星さん!」


「ブー!離してオバさん!」


引っぺがそうとしている、全員の目が。

三角形になった。

オバさんてwww

それはいかん、ぶっ殺されるぞ野島。

俺はその様に思いながら。

入学したての野島とブカブカの制服を見てから、ため息を吐く。


「「アンタぶっ殺す!!!!!」」


「わーお!オバさんが怒った!」


「.....勘弁してくれ.....」


頭に手を添える、俺。

なんで俺ばっかなのよ。

いや、割とマジで。


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