第41話 忍び寄る魔の手
結構な時間が経過した訳じゃないが、3月も終わり頃。
今日は土曜日だ。
その日丁度、山崎は病院から退院した。
頭の検査、足の検査、薬の調節、リハビリ。
そういうのが次々に重なって。
時間が掛かり、今に至った。
そんな裏で俺達は。
山崎に真実を話すべきか。
悩んでいた。
山崎にまで重荷を背負わせるのか。
どうなのか。
その事も、だ。
「今日はありがとう。カイ、桜」
山崎さんの車に乗せてもらい。
車から降りた俺達は。
車から、此方を見てくる、山崎を見た。
その手には退院祝いが沢山だ。
山崎の笑顔に俺は。
ただひたすらに。
複雑な面持ちで眉を顰める。
何も言えず仕舞いだ。
本当にこれで良いのか。
「.....大丈夫です。山崎先輩」
「ああ、気にするなよ」
「.....うん。ありがと。.....その、じゃあ帰るね」
車の窓を上げて山崎は手を振る。
山崎の父親(緑さん)、山崎の母親(美千代さん)も頭を下げた。
そして、車は走る。
また、言えなかったな俺。
そんな俺の手を桜が心配そうに握る。
頷いてくれた。
山崎は暫くはギプス、車椅子生活。
そうなる。
なんと言うか。
そんな、山崎の骨折の傷を見る度に。
怒りが凌駕しそうで。
怖い。
「.....カイ。落ち着いて」
「.....そうだな。桜.....って言うか」
ん?よく考えてみれば。
ここ最近、桜が俺の呼び方を変えた様な気がする。
俺は桜に向いた。
そして言う。
「.....お前、呼び方が.....」
「え.....あ。あ!?」
意識して無かったのか?
完全に桜が俺を呼ぶ際の、呼び方がカイ、になっている。
まぁ、良いけどな。
他人に呼び捨てされたらムカつくけど。
俺はその様に思い。
自宅を見上げる。
「.....取り敢えず、親父の手伝いでもするか。その後に勉強.....かな」
「そうだね.....」
俺達は複雑な思いを抱えながら。
歩いて、裏から家に入る。
あれから、ひなた、の両親に関しては犯人とされ日本中に指名手配されている。
が、今の所は何も情報が無い。
警察も行方を追っている様だが。
なかなか難しい様だ。
一体、何処に居るんだ?
☆
「.....あれから.....大丈夫か。山崎さんは」
誰も来ない、昼間。
無言で仕事を行う、親父がその様に話した。
俺はその言葉に、掃除をしながら答える。
「山崎に関しては.....大丈夫だよ。今の所は」
「.....まさかこうなるとは思ってなかったものでな。俺が.....止めれれば良かったんだが」
「.....親父は何も悪く無いだろ」
桜もエプロン姿で此方に来る。
親父は何か、思い詰めている様に見えた。
俺は直ぐにフォローする。
「.....親父、大丈.....」
「.....それでも何か止める事や、説得や.....何かが出来た筈だと思う。まだきっと.....何か、な」
「.....お義父さん.....」
親父はその様に話してから。
真正面の箱を片付けた。
俺は静かに複雑な顔をする。
「.....親父。あまり思い詰めるなよ」
「.....そう言うお前もな」
そして、俺達は。
仕事に戻ろうとした。
すると、外からゴロゴロと音がして。
雨が降り出してきた。
「.....畜生。嫌な天気だ」
「.....カイ.....」
こんな気分になるのは久しぶりかな。
怒りが混じって。
そして悲しみが混じって。
外が暗い。
まさに俺が昔、遭遇した空だ。
「.....カイ。桜。お風呂に順番に入りなさい。もう良いわ。今日は。有難う」
由紀子さんが菓子の陳列でも終わったのか。
向こうからやって来てその様に話した。
俺達はその声に返事する様に、声を上げる。
「.....はい。由紀子さん」
「うん。お母さん」
それから、俺達は。
着替える為に更衣室に向かい。
そして着替えて。
風呂に入った。
☆
それから1日経った。
月曜日。
何と無く時間は経過して行く。
だが、山本夫妻はなかなか警察に捕まらなかった。
ニュースではごく僅かで、時折だが。
山崎の事が放送される。
そんなニュースを見て。
俺達は日々を過ごして、普通に生活をしていた。
車椅子で。
包帯とギプス姿という、痛々しい様な制服の着方をしている、山崎を除いては。
休み時間の、人が寄って来てない時に。
俺は椅子から立ち上がり、山崎の元へ向かった。
この学校にはスロープというものが有る。
エレベーターもなんも付いてない中で。
そこだけは役に立った。
「山崎。大丈夫か」
「うん。もうだいぶ楽だよ。骨もくっつき始めているしね」
「.....そうか」
本当に申し訳無かった。
なんで申し訳ないかと言ったら。
俺達だけの悩みだった事に。
巻き込んだ事を、だ。
山崎は一切関係無いのに。
こんな目に遭ってしまって。
心苦しい。
「山崎さん」
ツインテールになっている、ひなた。
その、ひなた、が俺達の元にやって来た。
明るく、接している。
これは多分、山崎までこんなくだらない事に巻き込むわけにはいかない。
その決心の現れと思われる。
「大丈夫?お風呂とか介抱してもらわないと入れないよね」
「.....そうだね。ひなた。でも全然平気。私....案外、頑丈だから」
そうは言いつつも。
事故には遭った。
骨が折れた事に違いは無い。
山崎はあくまで、か弱い女の子だ。
それを容赦無く轢き殺す勢い。
絶対に許される行為では無いな。
「山崎。何かあったら話せよ。俺達が居るからな」
「.....そうだね。カイちゃん」
そんな、俺達の言葉に。
山崎が、にへへ。
と、言葉を発して、赤くなった。
そして笑みを浮かべる。
「.....有難う。嬉しいよ。カイ、ひなた」
「.....ああ」
「.....ふふっ」
でも、山本夫妻がこんな事をしなければ。
絆が深まる事は無かったかも知れない。
そう、思えばちっとは楽.....
ガラッ!!!!!
「カイ!!!!!大変!」
桜がスマホを片手に飛び込んで来た。
次の授業まで数分しか無いのに。
なんだ一体?
俺は驚きながら、桜を見る。
「.....どうした?」
「.....お店の.....お義父さんが.....その.....仕込んだ品物が.....!!!!!」
青ざめている、桜が持っていた、スマホに写っていたのは。
グチャグチャになった、もち米?というか、何か。
さらに、踏み付けられた、あずき。
踏みつけられた、おはぎの様な物。
そして、液体洗剤が撒かれたあらゆる物。
というか、まさかこれは。
「.....嘘だろ.....オイ.....」
誰が何をやったのか知らないが。
親父の店の品物が、道具が、全てが。
滅茶苦茶にされていた。
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