無限ループ

「体調はいかがですか。本当に大丈夫なんですか」

 都会の街の真ん中で、一人の男をたくさんの記者が取り囲んでいる。

「あなたは半年前から一睡もしていない。体は大丈夫なんですか」

 そう。取り囲まれている男は、半年前から一睡もしていない。一番最初に男の異変に気づいたのは会社の同僚だった。会社の同僚は男に寝たほうがいいと警告したが、男は決して寝なかった。そして男が眠らず一ヶ月ほどたったころ、それをどこからか聞き付けた記者が男を着き回して取材するようになった。

 男は、くまがひどい顔で答える。

「大丈夫ではありません。毎日大量の栄養薬を飲み、コーヒーを何十杯と飲みます。全ては眠らないためです」

「一体何のためにそんなことをしているんですか」

「眠らないためと言っているじゃありませんか」

「一体なぜ眠らないのです。あなたは今すぐにでも寝るべきだ。世間もあなたを心配している」

「いや、私は寝ませんよ。眠らない毎日が楽しいのです」

「どういうことですか」

「そうですね。一言で言うなら、同じ日々の繰り返しに嫌気が差したのです。無限ループをしているような。私はそんな日常から抜け出すため、眠らないことを決意しました」

 記者は誰もが唖然としている。

「そんな突拍子もない考えはありませんよ。あなたはおかしい。今すぐにでも寝なさい」

「いやですね。ほっといてください」

「本気でこれからも寝ないつもりなんですか」

「もちろんです」

 すると、記者のひとりが男に飛びつき、麻酔のついたハンカチを男の口元に押し付けた。眠らない男を心配しての記者の優しさだろう。本来なら一瞬で眠るものだが、男はよっぽど寝たくなかったらしい。二秒ほど耐えた。しかし、その後は深い眠りに落ちた。


 男は自宅のベッドの上で目を覚ます。そして、眠ってしまったことを後悔するのだ。

 カレンダーを見ると、半年前のものになっている。実際の時間も半年前に戻っているのだ。

 事の起こりは、悪魔との出会いだった。男は仕事の帰り道、何でも願いをかなえてやると、自分を悪魔と名乗る見知らぬ男に言われた。断ってもしつこく着き回してくるので、男は何か言えば帰ると思い、「じゃあ、永遠の命が欲しい」と言った。すると、次の日から眠ると前の日に戻ることに気づく。つまり、あいつは本物だったということだ。


 それから、男は何をしても、寝れば消えてしまう毎日を過ごしている。しかし時々、普通に過ごせる日常を求めて、眠らない日々を送るのだ。

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