意味が分かれば
「あなたに言われた通り、初めてホラー小説に挑戦してみたのですが、どうでしょう」
都心にあるA出版社。その一室で、作家になって二年目の青年と、その担当者の男が向かうようにして座っていた。担当者の男は、真剣な様子で青年の書いた原稿を早いスピードで読んでいる。
しばらくすると、それを読み終わり、原稿を机の上に置いた。
「中々の出来だ。ぞっとするものを感じるよ」
固かった青年の表情が、一気に明るくなった。
「ありがとうございます」
「いや、しかし、ありきたりな感じだ。もう一工夫あれば、完璧なんだが……」
青年の表情が、また真剣な面持ちに戻った。
「もう一工夫ですか……」
二人は天井を見たり、窓から外の景色を見たりして、しばらく考え込んだ。すると、担当者の男が何か思いつき、口に出した。
「意味がわかると怖い話はどうだ。短いものはすでにあるが、長編では誰もやっていないはずだ。今の話に手を加えて、なんとかできないか」
「なるほど。難しそうですが、やってみます」
「よし。では、完成したらまた電話か何かしてくれ」
「わかりました。やれるだけやってみます」
数ヵ月後。担当者の男の元に、一本の電話が入った。
「もしもし。僕です。例の小説ですが、完成しました」
「そうか。意外と早かったな。どんな内容に仕上がったんだ」
担当者の男が、期待に胸を膨らませながら聞くと、思ってもない返事が返ってきた。
「内容は、以前見せたものと同じですよ」
「なに。意味がわかると怖い話はどうなった。数ヵ月も何をしていたんだ」
「意味がわかると怖い話を作っていました」
「どういうことだ」
「以前見せた小説を暗号化しました。もちろん内容は読めませんが、暗号を解読し、意味が分かれば、とても怖い話が読めるのです」
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