謎の雲

 高層ビルが建ち並ぶ街並み。その日も空一面重い雲に覆われていた。数ヶ月もそんな様子なのだ。

 通勤途中の二人の男は、都会の街を歩きながらそんな鼠色の空の話をしていた。

「今日も曇りなのか。まったく嫌になるな。どこでもこんな様子なのか」

「いや、この雲、ある特定の場所にだけ現れるらしいよ。その場所以外は、普通らしいぜ」

「そうか。不思議だな」

 そんな会話をしていると、家電量販店のショーウィンドウに飾られているテレビから、専門家がなにやら話しているのが聞こえてきた。

「最近発生している巨大雲ですが、何かの文字になっていることがわかりました。文字の意味は解読中ですが、地球から私たちへのメッセージでしょうか……」

 通勤途中の男二人は、見開いた目を合わせる。

「今の聞いたか。この雲は、何かの文字らしい」

「らしいな。だとしたら、聞こえてきたように地球から人間へのメッセージなんだろうな」

「いや、地球が自分の意思で雲を出したとは考えにくいと思うよ。きっと、宇宙人が何かの意味を持って書いたんだ……」

 その後も二人は会社につくまで、様々な予想を話し合った。


 次の日。地球は滅んでいた。環境汚染が進みすぎたのだ。環境汚染に耐えられなくなった地球は、地中深くに溜め込んでいた猛毒ガスを放出し始めたせいで、地球上の全ての動物、植物は死んでしまった。海や川、それ以外の全ての水もその猛毒ガスの影響で蒸発し、地表がむき出しになった。猛毒ガスは酸素と反応して地表をもろくする性質もあったので、地球自体、形さえなくなるのに、そう時間もかからないだろう。

 すでに死んだとも言える地球。しかし、あの雲だけは残っていた。


 地球から数万光年離れた場所にあるボラリ星の住民が、宇宙望遠鏡で地球の変わり果てた様子を見つけ、悲しそうに呟く。

「またひとつ、美しい星が滅んでしまった。あの星、きれいで好きだったんだけどな……。あれ、何か雲で文字ができているぞ。えっと……。ニンゲンニ、コロサレタ」

 まさかあの雲が地球から宇宙に向けたダイイングメッセージだったとは。誰もわからなかっただろう。

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