名画
ある日の昼間。ある有名画家の弟子である青年は、有名画家の豪邸で留守番をしていた。そんな時、来客があった。
今日は特に予定もなかったはずと、青年が扉を開けると、そこにはスーツを着た若い男がいた。
「なんでしょう」
青年が聞くと、男は熱心に話始めた。
「いきなり訪問してすいません。私はあなたの師匠、大先生の大ファンなんです。いけない事とは分かっていますが、先生の家を突き止め、訪問したわけです。どうか、少しでいいので先生の作品を見せてはくれないでしょうか…」
その後も男は何十分と先生への熱意を語ってきた。もちろん始めはいれる気はなかったが、男の思いを聞くうち、入れることにした。この青年も、先生の作品に惚れ込み、弟子入りしている身なのだ。その男の先生の作品への熱意は、青年の心を動かすのに充分だった。
「いいでしょう。少しだけですよ」
「本当ですか。ありがとうございます」
青年は男を家の中に案内した。広い廊下を歩いて作品の飾られた部屋に行こうとすると、男に声をかけられた。
「あれは先生の作品ですか」
視線の先は作業室だった。机の上に数枚の絵がおかれている。
「ええ、そうですよ。あれを見ていきますか」
作業室に入ると、男は飛び付くようにその絵に見いった。
「すばらしい。この独特なタッチ。誰にも真似はできませんよ」
「そう思いますか。あなたとは気が合いそうだ」
その後もその絵に対する称賛をし合った。
そんな会話をしていると時間のたつのは早く、いつの間にか二時間も立っていた。青年は長い時間がたったのに気づき、言った。
「もうこんな時間ですか。そろそろ先生が帰ってくるので、お帰り下さい」
「わかりました。今日は貴重な体験、ありがとうございました」
男は何度も頭を下げ、帰っていった。
青年はそんな男を見送り、作業室を少し片付けようと部屋に戻ると、異変を感じた。絵がないのだ。ついさっきまで、男と誉め合った絵が。青年から冷や汗が滝のように流れ、止まりかかっている思考で考えた。考えられるのは一つ。あの男が盗んだのだ。くそ。してやられた。先生になんて言えばいいか、部屋を歩き回りながら考えていると、先生が帰ってきた。
「帰ったぞ」
「先生。すいません。作業室にあった絵を盗まれてしまいました。何と言えばいいのか」
先生は言った。
「泥棒が入ったのか。しかし、そいつは間抜けなやつだ。私の絵と、私の三歳になる息子の絵を見分けられないとは」
先生はそう言うと、近くの壁に飾られた、先生作の何を書いたのかよく分からない絵を、満足そうに目を細めて眺めた。
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