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その青年は病室のベッドで体を起こし、窓から空を眺めていた。空は雲一つない晴天だったが、青年の気持ちはそれとは反対に、とても沈んだものだった。それもそのはずである。数ヶ月前に医師に先が長くないと伝えられたのだから。
「まさかこの若さで不治の病にかかってしまうとは。悲しすぎる」
青年は長い時間をかけてその悲しい現実を受け入れ、そう長くない過去を振り替えっていた。
そんな時、医師が青年の病室に入ってきた。
「この度は何もできなくてすまない。何とかしたいのだが」
申し訳なさそうな医師に青年は言う。
「いいんです。先生が悪いわけではないんですから。ところで何の用ですか。それを言うためだけに来たわけではないですよね」
医師は言いづらそうに言った。
「ああ。実は君の体の一部分を他の患者に提供して欲しいんだ」
「なんですって」
青年は驚いた様子で言った。医師は説得するように話を続ける。
「ちょうど君と同じ歳の子が、重い病気にかかって治りそうにないんだ。でも、君の体の一部分をその子に移植すれば、その子の命は助けられるかもしれない。もちろん君が断るならしょうがない。君の意見を尊重するよ」
青年は迷った。自分の体を他人にあげるのは気持ちのいいものではない。しかし、それで救われる命もあるのだ。青年は迷いに迷ったあげく、体の一部分を提供することに決めた。
「いいでしょう。提供します」
「君はなんて優しいんだ。ありがとう」
そして数日後。青年の容体が急変し、脈拍数が低下、意識は遠のいてゆく……。
次の日。青年は病室のベッドで目を覚ました。あれ、死んだはずでは。なんとか助かったのか。そんなことを考えていると、おかしなことに気が付いた。知らない人に囲まれているのである。しかもその人たちは目に涙を浮かべて喜んでいる。訳が分からない。青年が混乱する中、医師がやってきて言った。
「脳の移植手術は無事成功しました。おめでとうございます」
青年がふと顔を横に向けると、知らない人の顔が窓にうつった。
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