宇宙の常識
その男は、主に遠い惑星から地球を訪れた宇宙人を警護する仕事をしていた。しかし、宇宙人を襲おうとする物好きは滅多にいないため、楽な仕事と言えた。
ある日。男はピポ星と呼ばれる星に来ていた。長期休暇を利用し、遥か離れた惑星を観光していたのだ。ピポ星の住人は比較的穏やかで、地球ほど文明が進んでいないため、景観がとても良かった。
「そろそろ帰るか」
男は呟き、自家用宇宙船に乗って帰ろうとした時、遠くからピポ星の青年が駆けつけ、必死な形相で言った。
「船を陸上で使うなんて正気ですか」
男は仕事柄、ピポ星の言葉が分かった。
「何を言っているのです。これは宇宙船で、私は自分の星に帰ろうとしているだけです」
「そんな話、聞いたことありません。帰るなら、ちゃんと宇宙空港から帰って下さいよ。下手にその船で帰ろうとして、何かあってからでは遅いのです」
「だから……」
男は話の通じないピポ星の青年にいらだちを覚えた。なんて言えば分かってくれるのだろう。男が考えていると、ピポ星の男がやってきた。
「どうした」
ピポ星の青年は言う。
「この方が、この船に乗って帰ると言うのです」
ピポ星の男はしばらく宇宙船を見つめた後、何かを思い出したような表情になり、言った。
「すいません。こいつは他の星に行ったことがないものですから、宇宙船をしらないのです。許してやってくれませんか」
「いいんですよ。わざわざありがとうございます」
男は一安心して宇宙船に乗り込み、地球へと帰った。
数日後。地球に帰った男が仕事で街の見回りをしていると、新人の青年がどこかの星の住人に困惑しているのを見かけた。男はその元へ駆けつける。
「どうした」
新人の青年は言う。
「この方が、その特別なナイフで手首を切ると自分の星に帰れると言うのです」
男はそんな馬鹿げた事はすぐに止めさせようと思ったが、不意にピポ星でのやり取りを思い出し、言った。
「すいません。こいつ、その特別なナイフで手首を切るとテレポートできる事を知らないのですよ。申し訳ありません」
「大丈夫です。では、私はこれで……」
その宇宙人は、そのナイフで自分の手首を切ると一瞬で消えた。テレポートしたのだろう。
新人の青年が言う。
「先輩、よくあんなに変わったテレポート方法知っていましたね」
男は答える。
「いや、知らなかったよ。ただ、宇宙には常識では考えられないことが、沢山あるんだ」
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