品種改良
「ついに大発明をしたぞ」
ある朝。町外れにある研究所で、白髪のいかにも博士といった見た目の男が言った。その言葉に、男の助手をしている青年が尋ねた。
「何ができたんです」
「野菜の品種改良だ」
青年は顔をしかめた。
「どこが大発明なんですか。野菜の品種改良なんて、その分野の専門家がしています。私たちがする必要はないじゃありませんか」
「まあ、そう言わずに食べてみろ」
男は青年にトマトを差し出した。青年は不満そうにそれを受け取り、一口かじった。すると、あまりの美味しさに目が飛び出るような顔になり、すぐに食べきってしまった。
青年は興奮気味に言う。
「想像以上の美味しさです」
「野菜とは思えないだろう」
「はい。驚きました」
「よし。では、早速これで大儲けしようじゃないか」
男と青年は早速その野菜を大量生産した。そして、出来上がった野菜を市場に出すと、飛ぶように売れた。
「すごい売れ行きだ」
「いや、あの美味しさなんですから、これくらい売れて当然ですよ」
もはや一生働かなくてもよさそうだった。
しかし、永遠に売れ続けたわけではなかった。ある日を境に、その野菜の売れ行きが下がったのだ。不思議に思った二人は、試しに出荷する野菜を食べてみたか、やはり美味しかった。売れなくなる理由が分からないまま、日に日に売れなくなっていく……。
ついにほとんど売れなくなったある日。研究所の一室で男は頭を抱えていた。その様子を見た青年は、声をかけた。
「そう落ち込まないで下さい。十分売れたじゃありませんか。なぜ売れなくなったのかは不思議ですが……」
「私が売れなくて落ち込んでいると思っているのか」
「そうじゃないのですか」
男は小さく首を降った。
「では、なぜ落ち込んでいるのです」
青年にうながされ、男は話し始めた。
「実は、あの野菜自体の味は変わっていなかったのだ。ただ、この野菜は舌を麻痺させて美味しく感じさせる効果を持っている。しかし、最近はこの野菜を食べ続けた影響で、普通の野菜でも美味しく感じているらしいじゃないか。ということは、人の舌の何かが変わったんだろうな。まあ、美味しく野菜を食べれるんだから、いいことだと思う。しかしこれでは、野菜を品種改良したのか、人を品種改良したのか……」
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