親切な死神
平日の朝。その男はいつも通り会社に出勤した。その男の仕事は単調な事務仕事である。そのため、彼の日常は平凡なものだった。
しかし、この日は違った。その男が仕事を始めようとした時、自分の目を疑った。隣の席で仕事をしている同僚の後ろに、黒いマントを羽織った不気味な男が立っていたからだ。しかも、自分以外にはその不気味な男は誰も見えていない様子だった。同僚はその不気味な男のせいなのか、とても気分が悪そうだったが、変に反応しても変人扱いされるだけだと思い、何も言わないことにした。
一週間後。その同僚が事故にあって亡くなった。本来なら悲しみにくれるところだが、そんな暇はなかった。なぜなら、不気味な男が自分についてしまったからだ。
男は朝、起きると枕元に見覚えのある不気味な男が立っているのを見て驚いたが、同僚が亡くなったのを聞いてさらに驚いた。なんとかしてこの死神のような男をはらうため、会社を休んで寺を周り、霊媒師に徐霊してもらった。しかし、少しも消える気配はなかった。
もうどうすればいいかわからない。万策尽きた男は、勇気を振り絞って不気味な男に声をかけることにした。
「あなたは死神ですか」
「そうです」
不気味な男は答えた。まさか答えるとは思わなかったので、男は驚いた。
「話せたんですね」
「もちろん話せますよ」
戸惑いながらも、男は知りたいことを聞くことにした。
「どこから来ましたか」
「死後の世界からです」
「どうして私につくのですか」
「上司の命令です」
そして、一番重要なことを聞いた。
「私は死ぬのですか」
「ちょっと待ってください。そんなに質問しても、私が本当のことを言っているとは限りませんよ。いくらでも嘘はつけますからね」
「死神のくせに律儀なことをいいますね。かまいません。教えて下さい」
死神は少し考え、言った。
「わかりました。あなたは、今日中に死にます」
「なんだって……」
男は驚きのあまり周りが見えなくなった。そして、錯乱状態になり、道路にむかって走り出した。
そこへ一台のトラックが突っ込んでくる……。
男の死体を見て、死神はつぶやく。
「また勝手に死んでしまった。前の男も、その前も質問に答えただけで勝手に死んでしまった。死神になって三年目だが、この手で人間を殺したことは、一度もないなあ」
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