常識

 大学を卒業したばかりのその青年は、ある会社の入社試験にきていた。クリスマスの夜に子供たちにプレゼントを配る仕事。つまり、サンタクロースの会社である。

 その青年は、幼いころからサンタクロースになりたかった。理由は覚えてないが、サンタクロースになることが夢だった。そして、その夢を叶えるために努力をしてきた。

 そして入社試験当日。青年はサンタクロースらしい太った体で、自分の面接の番が来るのを待っている時、大きな違和感を感じていた。太った人がいないのだ。周りを見渡すが、一人も太った人を見つける事ができなかった。不安になった青年は、隣に座っていた男に聞いてみた。

「ここはサンタクロースの会社の試験会場ですよね」

「そうですよ」

「太った人がいないのはなぜでしょう」

 青年が聞くと、男は不思議そうに答えた。

「当たり前じゃないですか。太っていたら煙突に入れないし、トナカイにもより負担をかけてしまう。太っていてもいいことはありませんよ」

 青年はそう言われ、確かにその通りだと思った。否定のしようがない。なぜこんなに常識的なことに気づかなかったのか。青年は自分を呪った。

「あなたの言う通りです。僕が馬鹿でした」

「まあ、そう落ち込むことはありません。まだ落ちた訳ではありませんよ」

「そうですね」

 青年はそう答えたが、ほとんど諦めていた。そして、面接が青年の番になると、青年は重い足取りで面接室へと歩いていった。


 面接試験が一通り終わり、面接官が話し合っている。

「今年はおかしな人ばっかりでしたね。少しもサンタクロースらしくない、細身の人ばかりだ。確かにその方が動きやすいかもしれないが、サンタクロースは太ってないといないといけない」

「その通りです。なぜこんなに常識的なことに気づかないのでしょうか。今年の合格者は、あの太った青年一人です」

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