はじまり

峻一

はじまり

 はるか昔。地球上にはたった一種類の生き物しかいなかった。そのため天敵と言える生き物がなく、たまに同種同士で争うことはあるが、基本的には平和な毎日だった。

 とある日。空は今にも降りだしそうな鼠色の雲で覆われていた。

「今日は天気が悪いな」

「そうだな」

 その生き物が外で空を眺めながら、そんな他愛ない意味の言葉を交わしていると、不意に空から一筋の光がさし、雲は消え、光の中を一人の老人がゆっくりと降りてきた。

「なんだなんだ」

「なにか降りて来るぞ」

 その生き物は皆、光が指す場所へと向かった。しばらくしてその生き物が集まると、空から降りてきた老人は、その生き物の言語で話し始めた。

「いきなりで信じられない話だと思いますが、私は神です。なぜ神である私が地上に降りたのかと言うと、この地球上には素晴らしい眺めの自然があるというのに、そこにはたった一種類の生き物、つまり、あなたたちしかいません。そこで私があなたたちにそれぞれ欲しい力を与えて、様々な種類の生き物を増やそうと思うのです」

 それを聞いたその生き物たちは、ざわつき始めた。しばらくすると、誰かが欲しい力 を神に向かって叫ぶ。すると、他の者もつられて自分の欲しい力を叫びはじめた。大勢が一気に叫び始めたため、普通なら聞き取れないはずだが、神はしっかり全員の欲しい力を聞きとっていた。

 しばらくして静まり返ると、神は言った。

「皆さんの願いはわかりました。明日の朝、それぞれの欲しい力を与えます」

 その生き物たちは歓声をあげ、次の日を待った。


 次の日。その生き物たちは知能と引き換えに、飛びたいと言った者は鳥になり、自由に泳ぎたいと言った者は魚になった。地球に様々な種類の生き物が誕生した中、唯一何も欲しがらなかった二人の男女が話している。

「君の言うとおり何も言わなくて正解だった。皆知能を失ってしまっている」

「でしょ。絶対何かあると思ったのよ」

 この二人、アダムとイブだけが何も望まなかった。


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