医学の進歩
遠い未来。全ての技術は飛躍的に進歩し、生活はより良いものになっていた。例えば、空気中の菌は完全に消毒されたため、誰も病気にかからなくなった。誰も病気にならない世界。しかし、そんな中でも医学の類は進歩し、必要とされていた。
都心にあるその大きな病院には、いつものようにたくさんの患者が診察に来ていた。その日最初の患者は青年だった。診察に来た青年に、医者は優しい口調で尋ねる。
「どこが悪いんですか」
青年は不安そうに答える。
「僕は小さい頃から足が遅いのです。なんとかなりますか」
医者はうなずき、近くの棚から薬を取り出した。それを青年に渡し、言う。
「これを飲めば、足の筋肉の働きが倍増され、足が速くなります」
「本当ですか。ありがとうございます」
青年は元気になって帰っていった。
次の患者は中年男性だった。その中年男性もまた、落ち込んだ様子で言った。
「最近、仕事でうっかりミスが多くて困っています。どうにかなりませんか」
一見無理難題に聞こえるが、医者はうなずき、近くの棚から錠剤を取り出すと、それを中年男性に渡して言った。
「安心してください。これを飲めば脳の働きが促進され、うっかりミスはなくなります。むしろ仕事がはかどるようになるはずです」
「ありがとうございます。助かります」
中年男性は青年と同様、元気になって帰っていった。
次の患者は若い女だった。いつもの患者と違い、顔が青ざめている。
医者は心配そうに尋ねる。
「大丈夫ですか」
女は咳をしながら、苦しそうに言った。
「私は普段、考古学者として働いています。その際、数百年前のミイラを解凍したのですが、その時にミイラに付着していた菌が体に入ってしまい、『風邪』というものにかかってしまったらしいのです。これを治す薬はありますか」
医者の顔は悩ましげになった。医者は机から数枚の書類を出し、しばらく見つめた後、言った。
「残念ながらありません。他をあたってください」
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