会話

「調子はどう」

「いつも通りさ」

「何が」

「なんだよ」

「なんだよってなんだよ」

「急になんだ」

「どうかしたか」

「どうもしてないよ」

「それはよかった」

「よかったってなに……」


 都内のおしゃれなレストラン。二人の男女が水槽を眺めながら、なにやら話し合っている。

「魚って、三秒しか記憶できないんだって」

「本当に。でも、あなたも似たようなものじゃない。この前記念日を忘れて……」

「その話はもうしないことにしただろ。終わった話じゃないか」

「終わったって何よ。大体あなたはね……」


 たとえ水槽の中という狭い世界で暮らすしかなくても、魚の方がストレスなく暮らしているのかもしれない。人のように中途半端に忘れるのではなく、綺麗さっぱり忘れるのだから。

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