御守り

 まだ人類が狩りをして暮らしていた時代。真夜中に小さな集落で、何人かの村人が焚き火を囲んで話し合っていた。

「今年の収穫はいまいちだ。どうにかならないのか」

「そうだな。このままだと食べるものがなくなってしまう」

 そんな会話がしばらく続くと、みな今の状況に失望し、黙り込んでしまった。

 焚き火の音しか聞こえない中、一人の若い男が口を開いた。

「実は僕、代々僕の家に受け継がれているとてつもない効果がある御守りを持っています。これさえあれば村の危機なんて一発で解決するはずです」

 村人たちはざわつき始めた。

「それは本当か。もし本当ならなぜ今までそれを言わなかった」

「今まで言わなかったのにはちゃんと理由があります。この御守りは効果が強すぎるため、持っている本人の願いが必ず叶います。つまり、悪いことをたくらんでいる人に持たれると困るのです」

 それを聞いた村人の一人が、疑問を感じて言った。

「それならお前が使えばいいじゃないか」

 若い男は申し訳なさそうに答えた。

「そうしたいのですが、この御守りは一人一回しか効果がないのです。僕は前に使ってしまったので使えないわけです」

「なるほど。じゃあ、お前以外の誰かがその御守りを持って、村の収穫を願えばいいわけだな」

「そうです」

 さっきまでの静寂が嘘だったように、村人たちが声をあげた。

「なんとか冬を越せそうだな」

「ああ。本当によかった」

 村人たちが歓声をあげるなか、一人冷静なこの村の村長が言った。

「まあ落ち着け。まだ村の危機が去った訳ではないぞ。まず私がその御守りを誰が使うか決めよう」


 次の日の朝。若い男は村長に選ばれた男に御守りを渡す。

「頼むぞ」

「ああ」

 選ばれた男は村長に言われた通り家にこもり、村の収穫を願うだろう。


 若い男は御守りを渡した後、後悔したように呟く。

「僕も最初は村の危機を救おうとしてあの御守りを持ったんだ。でも一回しか叶えられないと思うと、無意識のうちに幼い頃からコンプレックスだった顔のホクロを取る方を願っていた。村の危機より自分の些細な願い事を優先してしまうなんて僕くらいかと思ったけど、意外と皆そういうものかもしれないな」

 若い男の予感は当たり、長老に選ばれた男の肌は見違えるほどスベスベになっていた。

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