第06話 『Well Come To Topground』
とある昼下がり。窓からディードさん達の部隊が、城の外壁沿いを行軍訓練(重い荷物を背負って歩き体力をつける訓練)を行っているのが見えたので、混ぜてもらおうと部屋を出たら親父に捕まった。なんでも俺に見せたいものがあるらしい。しかも滅多に人には見せられない貴重なものなんだと。一体何だろうか。オラわくわくすっぞ。
親父と一緒に長い長い廊下を渡り……大広間を通り……書庫を通り過ぎ……事務室を通り過ぎ……着いた先は……“第一議事室”前。おい、ここ国の中枢を管理する連中が集まる場所じゃねえか。うわ入りたくねぇ。厄介ごとの匂いがプンプンするぜ。
脇に立った兵士が扉を開き、親父が入室する。どうしよう、いやでも貴重なもんってのも見てみたいし。
「リ~オ~様っ!」
突然体が宙に浮き、後ろから抱きしめられ頬擦りされた。この城で王子である俺に対して、こんな無礼なことをしてくる輩は一人しかいない。
「プエレルアさん、香水変えました?」
「そう! 三日前にね、街で新しい商品が出たから買っちゃったの! でも気づいてくれたのはリオ様だけなのよ~? 男なら女の子の機微にはちゃんと気付いてあげるべきよね、リオ様? グラス?」
べたべたべたべたと俺の体を撫でまわすこの高校生ギャルみてえな姉ちゃんは、プエレルア・オウパリオ。とてもそうは思えないが国民なら誰もが知るオウパリオ家現当主であり、俺が前に花器でぶん殴ったカリタスの母親でもあり……魔人八大一族代表、“
かつてグランディアマンダの建国に大きく携わった魔人族の八つの家系。ルヴィオン、サフィアイナ、オウパリオ、アムズィスィエ、オーンキスィア、シンフォーロ、エメラディオ、クアランツェ。プエレルアさんはオウパリオ家の三代目当主だ。
幼馴染に愛称で呼ばれた親父は、王の尊厳が半分削げ落ちた微妙な表情で振り返った。
「プエレルア……駄目とは言わんが、公の場で私を愛称で呼ぶのは控えてくれ、とあれ程言ったではないか」
「うっふふーん、嫉妬に駆られたレティに【
「あのな、そういう事を言ってるのではなく……はぁ。いや、もういい」
話を合わせようとしないプエレルアさんの軽い態度に、親父は嘆息した。分かるよ親父。この人基本的に他人の言うこと聞かないからな。
「おうリオ様! 相変わらずモテモテだな! 陛下もご機嫌麗しゅ……くは、なさそうですね」
「あぁ。最近気苦労の方が多くなってきているような気がする」
わざわざ席から立ちあがって俺と親父に挨拶に来たこのラフで筋肉質な若い兄ちゃんは、カリバーンス・サフィアイナ。現サフィアイナ家当主。俺の従兄弟違の兄ちゃんで、兄貴分だ。人情に厚い人で、思いやりがあり、頼り甲斐のあるいい兄ちゃんなんだが、ギャンブル狂でよく金を磨っては街で行き倒れているらしい。なんでこう優秀な魔人って何かしら大きな欠点があるんだよ。
「んじゃ、陛下の苦労がこれ以上増えないうちにさっさと始めようぜ」
「そうですね。もう皆集まってますし、これ以上待たせたら迷惑です。早く座りましょう」
カリバン兄ちゃんに便乗し、親父とプエレルアさんを促す。話が先に進まないし、こうでも言わないとプエレルアさんが俺を離してくれない。いい加減首元や下腹部をいやらしく撫でるのは止めて欲しい。もうちょっとだけいいじゃないリオ様~、と耳元に甘え声で囁くプエレルアさんに駄目ですと答える。三百以上年下の若人、しかも五歳児に興奮するとかどんだけだよ。いくら美人でも願い下げだ。プエレルアさんはいけずぅとブー垂れながら渋々俺を下ろし、自身の席へ向かった。カリバン兄ちゃんも俺の頭をポンポンと叩いた後、自身の席へ戻った。
「プエル……私は呼び捨てで、リオには様付けか。アイツの中でリオはどういった立ち位置にい「早く座りましょうってば父上」
想像すんなよ。やめてくれよ。
第06話 『Well Come To Topground』
第一議事室。この部屋に入室する為には、四つある条件のうちの、いずれか一つを満たす必要がある。一つ、王族であること。一つ、
部屋は半円型で、日が差し込む窓を背にして親父が座る席を中心に、放射状半円に席が並ぶ。最前列に
「それでは、本日の議会を始めさせていただきます。先日の議題でも取り上げられました、国民の増加と食料需給率の低下についてです。お手元の資料をご参照下さい」
今日の出席は親父、その隣に簡易的に設けた椅子に座る俺。
他にもちらほらと座るお偉いさん方がいるが、まだまだ席は空いている。今日は親父への謁見にきた外国の連中への応対をお袋が代行し、そのサポートに駆り出されているからだ。
「ご覧の通り我が国、グランディアマンダ国の余剰農産量が年々低下していることが窺えます。昨年と比べ、今年の生産量は穀物の不出来が多く約八分減少し、余剰農産量は十割六分。対して人口は年々増加の一途を辿り、前年調査結果と先月把握した結果を照らし合わせ、約七分増加。七十九万七千を超えました。今後も更に増加すると考えられ、七年後の“千年祭”を迎える頃には百万を突破すると考えられます。調査結果、計算予想に誤りが無いのであれば、五年後には食料需給率が百を切るでしょう」
「とうとう人口百万人が現実味を帯びてきたか。めでたいと言えばめでたいが」
「喜んでいる場合じゃなかろう。さっさと打開策を見つけんと、あっちゅうまに国が荒れるぞ」
「輸出制限を設けるのが一番楽ですが、口実なく絞れば他の国に内情を悟られるかも知れませんね」
「別に悟られたっていいじゃん。どうせ私達魔人族にビビッて何も出来やしないわよ」
「いざ戦争が始まったならそうでしょう。ですが力づくで解決すれば遺恨を残します」
「そ、そうですよ。穏便に済ませましょうよ、ね?」
「まだ始まってもいねぇっての。今考えなくちゃいけねえのは明日の食い扶持をどうすっかだ」
「…………」
グランディアマンダ国を支える、最高最強の八血族。一般人が見たらちびっちまうような壮観な光景だ。
「いずれ国が飽和状態に陥るのは分かっていたんだ。今からでも新規開拓すっきゃないだろ」
「開拓? まさかとは思うが、“【
カリバン兄ちゃんが案を出すが、フルクトゥアスさん――エンラディオ家当主、フルクトゥアス。立派な赤髭の垂れ目の爺ちゃん――が異議を唱える。優し気な見た目とは裏腹に、フルクトゥアスさんは語気が強い。
「しかし現に人は増え続けているのです。巨国グランディアマンダとは言え、無限の器を持っている訳ではありません。このままでは決壊するのは必然。なればより大きな土地を確保する為に国を拡張することも視野に入れれば、ここで大きく財源を割き、先行投資するべきだと思います」
フィラレムさん――シンフォーロ家当主、フィラレム。理知的な優男。女受け良さそうな人――は、カリバン兄ちゃんの案に賛成のようだ。
「前に拡張したのって、確か四百年位前だっけ? ねえウィヌミア、そん時はどんだけ時間掛かったの?」
「……五十、年、くらい、かねぇ」
プエレルアさんが、ウィヌミアさん――アムズィスィエ家当主、ウィヌミア。よっぼよぼのお婆ちゃん――に聞き、ウィヌミアさんはゆっくり、ゆっくり間を置きながら答えた。アルコール中毒であるウィヌミアさんは、酒が切れると調子が悪い。いつもなら背筋真っ直ぐ元気溌剌なお婆ちゃんなんだが。
「ならば今度は、五十年以上掛かる事確実の、大々工事になるということか」
「正直、予算の心配をする必要は無いと思います。七年後の千年祭はまず間違いなく莫大な金が動きます。既に一部豪商達は動きを見せていますし、今まで以上に国は潤うでしょう」
「で、でもですよ? 新しい外壁の施工に、一体どれだけ人が集まるでしょうか。そもそもこうして人口が増え続けているのは、未だ多くの人々がこの国に移住し続けているからでしょう? それだけ“六年前の恐怖”は世界の人々の心に深く残り、まだ拭いきれていないということですよね? 私たちが率先して護衛するとはいえ、危険な工事に参加してくれる人がいるかどうか……」
ドゥーカスさん、カンタスさん――オーンキスィア家当主、カンタス。眼鏡。むっつり助平――も国の拡張へ意欲的。だがアルバプルスさん――クアランツェ家当主。大掃除大会で俺にビビった失礼なぽっちゃりさん――は反対とまでは言わないものの、懐疑的だ。
……六年前の恐怖ってのは何だ? 移住という言葉から察するに、世界規模で命に関わる程の大恐慌が発生した、という事だろうが。それと、フィラレムさんが言っていた輸出制限。正確には穀物の輸出に掛ける関税を上げることに消極的なのも、恐らくその六年前の恐怖とやらが関わっているのだろう。後で調べておくか。
「リオ、皆の話を総括出来るか?」
黙って話を傍聴していた親父が、突然俺に理解度チェックを始めた。この人もこの人だ。意図が読めねぇ。見せたいものがあるっつったのに、こんな所に連れてきた理由は何だ?
何が何だかさっぱりです……そう答えるのが一番楽ではあるが、意図があるのならあえて乗ってやる。はやくその貴重なもん見してくんねぇかな。
「目下最大の目的は安定した食料の供給。その為には最大生産効率を望める穀物を生育出来る土地の確保が望ましい。しかし、現時点で国内でのこれ以上の大量の土地を確保するのは困難な上に、穀物の国外輸出規制を設ければ他国の反発は必須。よって国を囲う外壁の外の土地を利用するのが現実的だが、工期、外的要因、人員の確保を考慮すると不明瞭な点が多く、少なくない国民の反発を招くのも考えられ、下手をすれば多くの犠牲者を出してしまう可能性がある。とは言え人口の増加率も考慮すると、遠くない未来に外壁の拡張工事を行うことは必須事項であり、予算も将来的に確実な収益がある為不可能ではない。以上を踏まえた上で、外壁拡張に賛成が三、反対が二、保留が三。ってとこですかね」
言い終えてから周囲が静かになっていることに気づいた。何? 何なの?
「いやぁ陛下。リオ様を連れてきて正解でしたね。っつー訳で、リオ様、何か良い案ねぇか?」
「何がっつー訳、何だか知りませんが、僕がここに連れてこられたのは……ん?」
気付けば全員が俺を凝視している。なんだ? おい、まさか俺に良案を期待してここに連れてきたのか? え何それ。そんな糸に俺釣られクマー!
「父上、見せたいものがあるというのは嘘ですか?」
「お前は好奇心旺盛であると同時に、面倒臭がりで興味のないものには一切関わらない。そういう性格だ。だからお前を動かすには、お前の未知に対する感情を刺激するのが一番だ」
こんちくしょうめ。幼気な俺の心を持て余すなんて、なんて酷い親なのかしら。
「……と、カリヴァーンスから進言されたのだ。きっと良案が出るからとしつこくてな」
あ、逃げやがった。カリバン兄ちゃんも声には出してないが、口を3の字にしてすげぇ不服そうな顔してる。
「会議はこの所上手く立ち行かなくなっておりまして、それならば若い者の意見を聞いてみてはどうだろうかと以前より話が進んでいたのです。そんな折、リオ様が以前提出された清掃の改善案に、我々全員が驚かされました。実に良く出来ています。明確な目的、蓄積された情報、効果の如何。全て明瞭に記載されていて、打ち合わせる必要すらない程に確実な効果を期待させられました」
「それと、ケントゥムにリオ様が出題された証明問題です。一見単純な式、しかし難解な用語を用いらなければ表現ができない上に、現在のグランディアマンダが持つ数学力では証明はまず無理でしょう。今この問題を解けるのは、世界でリオ様だけです」
「つまりね、そんだけ頭の良いリオ様なら、きっとすんごい考えで、こんな問題ささっと解決しちゃうでしょ! って皆意見が一致したの」
清掃の改善案はミランダ達が楽になるようにと思って、生前にバイトでやってたこと書いただけだよ? フェルマーの最終定理はサボる為に利用しただけで、俺解けないよ? 俺が頭良く見えるのは生前の記憶と経験がそう見せてるだけで、それも世の為人の為になんて高尚な使い方するつもりはさらさら無いよ?
「……リオ様、どうか力なき我々に、お力添えをしていただけないだろうか」
不満を隠さない俺の睨みつける視線に何を感じたのか、フルクトゥアス爺ちゃんはその垂れ目を更に垂らして、情けなさそうな声でに語り始めた。
「私達魔人族は確かに強い。ですが今の世に求められるのは大きな力だけではなく、皆を導き正しい道を見つけることができる知恵が必要なのです。我々
っは。よく言うぜ。どちらにしろアンタら魔人族の存在がこの国の要で、同時に他国への抑止力であることに変わりねえ。アンタらが欲しいのは俺自身じゃなく俺の持つ知識だろうがよ。
ってここで捻くれてトンズラこいてもいいんだが、それじゃ何にも解決しねえしな。面倒でも良好な関係を持つのは利用する為だが、利用されることにも乗ってやらんと、人って生きモンは長続き出来ない。だから今回は折れてやるよ。……後で親父に八つ当たりしよ。
「アルバプルスさん。大農園があの形に、安定した循環過程を得るようになってからどれぐらい経過していますか?」
「え、は、はい。えーっとですね、私が生まれた頃にはあの状態でしたから、先代の記録……すいません、正確な年は分かりませんが、少なくとも三百三十年前後は経ってる筈です、はい」
「カンタスさん、放牧場も同様ですか?」
「はい。開拓を始めたのは大農園とほぼ同時期ですので、同じ年数が経過していると考えて下さって結構です」
なら、放牧場はかなり土地が肥えていることだろう。早速効果が見込めそうだな。
「今まで放牧を行っていた土地で穀物を育てて下さい。土壌が家畜の糞尿で肥えている筈なので、収穫量は増加するでしょう。逆に、今まで穀物を育てていた土地で放牧し、家畜と牧草を育て、土壌の回復を図ります。それから、痩せた土地でも育つ家畜飼料も大量に栽培します。そうすれば冬でも家畜に餌を与える程の量が賄え、一年を通して飼育することが可能になります。頃合いを見てまた入れ替え、同じことを進め……これを繰り返せば、大量の食物を安定して供給することができる筈です。あくまで国を拡張するまでの一時しのぎであることはご了承ください」
全員のあんぐりした表情に色々と嘆息しそうだ。やっぱ農業改革と同じことはやってなかったんだな。あっちじゃ十八世紀に西ヨーロッパ全体で広まった有名な農業生産向上方法。この国でも飢餓飢饉が訪れれば、いずれはどっかの頭いい奴が発明してたとは思うが。
「……ふっふっふ……あっはっはっはっはっは! さっっっっすがリオ様だぜ! なあにが魔力が無い出来損ないの王子だよ! 俺達なんかより何百倍も存在意義があるぜ!」
「っくっくっく、然り然り。無駄に長生きなだけの凝り固まった、我々の頭脳では思いもつかんわ。なるほど土地の役割を入れ替えるか。言われてみれば確かに単純。だがその発想に至る柔軟さは正に若者特有。更に付け加えられるのは維持持続の為の方法。一体どこでそのような知識と閃きを身に着けていらっしゃるのか。リオ様の頭の中で渦巻く英知。ぜひ覗かせて戴きたいものだ」
「いやはや、恐れ入ります。私も体を使うより頭を使う方が得意ですが、リオ様の足元にも及びませんね」
「右に同じです。私の管轄の大きな問題を、あっと言う間に払拭なされてしまった。おまけに改良案まで出されるとは、自分の不甲斐なさに申し訳が立たないです」
「ね! だっから言ったじゃない! リオ様ならぜーーったい解決してくれるって!」
「プエレルア、君がリオ様の仰った内容について、ちゃんと理解しているのか疑問だ」
「…………っ」
あまり持ち上げられ過ぎるとボロがでそうだから、俺の評価は魔力無しの出来損ないのまんまがいいんだけど。つうかウィヌミアばあちゃんが俺にサムズアップしてんぞ。この国にそんなジェスチャー無いだろ。
「それでは皆様、リオスクンドゥム様の案に賛成ならば、ご起立を願います」
おいまてオラ、ちゃんと中身を吟味してから……全員立ちやがったし。
「反対する理由など無い。これだけ大きな期待があるのならば、実施する価値は十分にある」
親父まで立ちやがった。アンタ国の総轄だろ。賛成じゃなくて確実な利潤を……もういいや。面倒臭くなってきた。
「……土地の区分とか実地範囲、住民への通達と協力願いとか、細かいのも含めて後は全部そちらでやってくださいね」
「勿論です、リオ様。万事全て我々にお任せください」
フィラレムさんは右手を胸に置き、俺に深く頭を下げた。可決しちゃったよ。
小休憩を取った後(こっそり抜け出そうとしたら親父にがっつり頭を掴まれた)、今度は別の議題が取り上げられた。何でも先日提出された不信任案に不備があるということ。しかし不信任案とは穏やかじゃない。国のトップ、魔人族達に喧嘩を売るような、命知らずのふてえ野郎がいるとは、俺も予想だにしなかった。
「何他人事のような顔をしている。以前お前が出した“継承権の破棄”の事を言っているんだ」
「きちんと規約に則り正規の手続きを踏んで提出した筈ですが」
「あんなもの通す訳無いだろ馬鹿者」
問答無用満場一致で今案件は棄却されました。ファ○ク。
「リオ様ぁ、後でアルトゥロに謝っとけよ? まるでこの世の終わりみたいな顔してたぞ?」
「巨人族って巨大化するから巨人族だけど、逆に縮むことも出来るんだね。アタシ初めて知った」
「心身魔力を削る程の不安と恐怖に悩まされ続けて、体に変調をきたしたんですよ。プエレルアさん、面白がってないでちゃんと労わってあげて下さい」
アルトゥロさんとはグランディアマンダ国の文官の長、日本で言うところの事務次官にあたる(ここは王政だからちょっと違う気もするけど)役職を治める人で、愛国心を胸に一般事務員から着実に上り詰めた叩き上げのとっても偉い人だ。
そりゃあね、『こいつ、無能だし王族の名を汚すから外せ』なんて書かれた書類にオッケーなどしてしまえば逆賊と捉えられてもおかしくない。親父に忠誠を誓うアルトゥロさんは断腸の思いで上申しただろう。俺も縮んだ姿見てみたかったな。
「リオ、お前は私達に今まで何を望むこともなかった。だから、もしお前に望みがあるのならば、直ぐにでも叶えてやろうとレティと誓っていた。だがこれはあんまりだ。いくらお前の願いだとしても聞き入れる訳にはいかない……頼む。これ以上、家族の絆を引き剥さないでくれ」
……親父の弱弱しい顔、初めて見たな。ったく、しょうがねぇなぁ。
「では弟か妹をください」
今度は目が点になった。親父はいつもキリッとしてるからこれだけコロコロ表情が変わると面白い。
「ははは、年相応の、実に子供らしい望みではありませんか。グラウィス様よ、誓い通り叶えてやるべきでしょう。息子の初のお願いですぞ」
「……ぜ、善処しよう」
フルクトゥアスさんが後押しし、親父は戸惑いながらも確かに頷いた。よっしゃこれで継承権が分散するぜ。
「うむ。陛下にはリオ様の願いの為、また国の為にしっかりと精を出して貰わなければな」
「え、ぶふふ、ドゥーカス何それ下ネタ? 精を出すとか下ネタ? ウ~ケ~る~♪」
「ちょ、ちょっとプエレルアさん、ここ神聖な場でもあるんですから、あんまりお下品な言葉は言っちゃ駄目ですよ」
「そうですよ、全く」
「うるさいわよムッツリ眼鏡。年がら年中スケベなこと考えてる癖に」
「な!? わ、私がムッツリなのは今関係無いでしょう!」
「ムッツリ自体を否定はしないんだね」
「…………。ふふ」
「お、ウィヌミア婆ちゃんが笑った。何百年ぶりだ?」
ギャーギャーと政をする場とはとても思えない喧しさのまま、今日の第一議事室集中議会は閉幕した。
因みに、ここでの会話は全て議事録としてずっと残る。こんな会話記録、後世の人が見たら落胆すんだろうな。あ、でも親父の言質も記録に残るか。よっしゃお袋にも見せて早速励んで貰おう。
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