第30話 『Preliminary Skirmish』
割れんばかりの歓声と拍手が大闘技場を揺らす。闘技舞台に立たされた俺とヤイヴァ、その他ガキンチョ共。満員御礼、大観衆が俺達を焚きつけ、亜人特有のカラフルな髪がチアリーダーのポンポンのように揺れている。
『さあ始まりました! 大闘技大会! 各地から集まった
『同じくっ、プエレルアと!』
『…………。カン『ムッツリ眼鏡の三人でお送りするわ!』ああもう! そう言うと思ってましたよ!!』
プエレルアさんとカンタスさんの漫才で会場が沸く。なんだかんだ言ってあの二人いいコンビだな。
『プエレルアさんが天丼を決めた所で、今大会の概要を説明するぜ。大闘技大会は今日から三日にかけて行い、初日は十五歳未満限定の少年の部。二日目、三日目は十五歳以上なら誰でも参加可能の世界最強決定戦だ。今日の夕方まで受け付けてるから、出たい奴は入り口付近にある受付嬢に声を掛けてくれ』
『武器及び魔法の使用に制限は無いわ。試合中ならどんな手を使っても結構。繰り返すけど、試合中だけよ? 次の対戦相手を闇討ちしたりなんてことは絶対しないように! やったら
『その他細かい規約については試合前後に適宜説明させていただきます。また入口、控え所にも掲載していますので、選手の方は熟読しておいてください』
細かいっつっても、『死んでもうちは一切の責任を負いません』って記載されてるだけだけどな。不安なら遺書書いとけって話だ。
『さて、本日の少年の部について説明させていただきます。参加人数は八十九名。これを八つの組に分け、それぞれ順に乱闘戦を行います。最後まで残った一名が、一対一で行われる次の勝ち抜き戦に出場することが出来ます』
『大人達と比べて無茶しないよう厳しめに判定するからそのつもりで。審判が無理だと判断したらすぐに止めるから。駄々こねちゃ駄目よ?』
子供達からは死傷者は絶対出させないようにと親父達からお達しが出ている。体裁云々ではなく、俺以外にも別の国の王族嫡子が出場しているからだ。もし万が一大怪我でもしてしまえば戦争にまで発展しかねない。興味がなく全部聞き流していたから誰がいずこのお坊ちゃまなんか知らんが。
『それでは、第一試合に出場する方はそのままで、残りの方はお呼びするまで控室、もしくは所定の位置にて待機していてください』
控室にて。ヤイヴァは他に集まった連中を見て大きな溜息をついていた。どうやらここに目ぼしい奴はいないらしい。
「オレは二試合目だが、すぐ棄権するぜ。やられたふりでもいいが。リオはどうすんだ? 敵情視察とかしねえのか?」
「もしかしたら面白え試合出来っかもしれねえし、一応勝ち進む。んで少しでも楽しめるよう下調べはしない。行き当たりばったりでいく」
アスタリスクが化物扱いされるほどだ。俺達と同程度の奴なんかそう居ないだろう。居たら儲けもんだ。そん時が来ればいいがな。
「お? 案外早えな。もう終わったみてえだ。んじゃ負けに行って来っぜ」
ひらひらと手を振りヤイヴァが試合へ向かった。俺は自分の試合が始まるまで一眠りしておくか。
第30話 『Preliminary Skirmish』
『さてさてさて! 乱闘戦最後の試合だ! 今までの試合にも金の卵はいたが、今度は凄い子供が出てくるぜ!』
『聞いて驚け見て笑え! 生まれは最高魔力は零! 魔人族から嫌われた不遇の少年! 無能と呼ばれた賢王子っ! 我らが太陽! 神の
爆発した大歓声が全身の骨の髄にまで浸透する。ブーイングの一つや二つあるかと思ってたんだが……もしかして、俺って人気だったりするのか?
仲間のいる席へ目を向ければ、ヴァンとティアが飛び跳ねながら手を振っている。スコールは尻尾だけ振っている。アリンはにっこりと可愛く笑っており、棄権したヤイヴァもにっこりと嫌な笑みを浮かべている。更に上段に目を向けると、親父達や各国の重鎮達が座る特別席が見えた。親父、爺ちゃん、お袋、ルーナにアスト。竜王テールもいるな。あとは水王、獣王、爬王、岩王、渓王、角王……だよな? 特徴からして。顔も名前も覚えてねえや。
『選手の皆さん! 準備は宜しいですか!? それでは……試合っ、開始!!』
おっと、ぼーっとしてたら始まっちまった。視線を戻せば俺より体格の大きい渓人族の子供と、角人族の子供の二人が殴り掛かりに来ていた。……なんつうか、避けるまでもない以前に、相手にするまでもない。一応魔法陣も展開しているが、下位魔法でそんな溜め時間がある時点でたかが知れている。とっとと終わらせよう。声に破力を乗せ、この場にいる子供全員に伝播させる。
「
俺に向かってきた二人はそのままもんどりうって倒れこみ、後ろで様子を見ていたガキ共も一斉に膝をついた。その表情は恐怖に染まり、中には失禁している奴もいる。所詮こんなもんか。
『…………え? あれ? どうしたんだ?』
『審判! 確認して! ……え、何? リオ様以外試合続行不可? な、なんと! 何がなんだかよく分かんないままリオ様が勝ってしまいました!!』
観客席でどよめきが広がっているのが窺える。つまらん試合だろ? だが戦っても一緒だぜ? 俺が一方的にリンチして終わりだかんな。
『時限式の遅効性魔法でしょうか? いえ、リオ様は魔法が使えないはず……と、ともかくっ。第八試合、リオスクンドゥムが進出決定です!!』
納得いかないと多少ブーイングの混じった非難が観客席から響いてきた。いいね。そっちもあったほうが多少やる気がでる。善悪入り混じるなかで暴れてこそ、戦いは映えるってもんだ。
控室に再び戻ると仲間達が出迎えてくれた。要らなそうですねとアリンが布と飲み物を手に苦笑しているので、喉は乾いてないが飲み物だけ受け取った。お、蜂蜜
「お疲れ様って、言うほどでもないね。しいて言うなら、残念だったね、かな?」
「誰もリオの“破気”に耐えらてねえし。ヴァン達と闘ってんの見たほうがよっぽど。いや、比べると余計イライラするな」
全くだ。あんな奴らあてがいやがってと舌打ちしたい気分だ。しょうがねえっちゃしょうがねえんだが、納得いかねえ。
「さっきのガキ共は気分わりいだろうし、俺も面白くねえ。なんとも非生産的な試合だ」
「あら、珍しい。リオが他人に優しいとこ見せてる」
「そうですか? リオって、結構他人思いだと思いますけど」
「それはアリンだけ」
「アリンはアスタリスクの貴重な癒し系だからな。という訳で、アリン。膝枕してくれ」
返事を聞かぬうちにアリンを持ち上げ長椅子に座らせ、寝転がってアリンの太腿に頭を置いた。結構肉付きがよくなってきたな。女性らしく成長している証拠だ。目を閉じてアリンの太腿の柔らかさを堪能しながら寝入ると、優しく頭を撫でられた。
「こんな風に甘えるほうが珍しいと思いますよ」
「こうやって大人しく寝てる姿だけなら王子っぽいわね。起きてる間は色々と台無しだけど」
やかましいがな。
昼を挟み、少年の部の後半が始まる。第一、第二、第三は午前と同じく観戦せず、今度はティアの膝枕で寝て過ごし、そのまま第四試合を迎えた。恥ずかしがってもじもじと動くせいで眠りは浅かったが。
『第四試合は見ものですよ! なんと同い年の王子同士が闘います! 東に立つのはリオスクンドゥム・メルフェイエ・グランディアマンド! 西に立つのはライガス・ルイ・ライオネリウスです!』
ライオネリウスの王子か、確かに気品がある。獅子のように波打つ黄土色の髪は艶があって手入れを怠っていないことが分かる。服装は装飾が施されたレザータイプ。接近型か。瞳も揺らぐ事無く真っ直ぐ俺を見つめ、しっかりとした意志を感じさせる。ちょっとは楽しめそうだ。
『引き続き、今日の
札は魔力に反応する木で作られている。使う時だけ懐から取り出し、集計係が【
『リオスクンドゥム! ……集計完了! 続いてライガス!……集計完了! お、これはこれは、かなり偏ってるなぁ』
『凡そ八対二でライガスが圧倒的に支持を集めていますね。午前の試合で好色な戦いを見せたライガスと、不可思議な結果を出したリオ様との差が如実に表れた、と言っていいでしょうね。これについてどう思われますか? カリバーンスさん、プエレルアさん』
『確かにあの変な試合結果を見れば、不満を抱くのも無理はない。一部にゃ裏で取引しただの、王族が圧力をかけたのでは? という声も上がっている』
『そんなの言わせておけばいいわ! 今度は誤魔化しが利かないんだから、不正かどうかその目で判断しなさい!』
ライガスとやらは俺に一礼をし、構えを取った。左半身を前に出し左手を下げ、右手を軽く握り鳩尾の位置に置いたスタイル。対人慣れしてるな。礼をする姿からも心構えがすっきりと落ち着いている様子が見える。いいだろう。ちゃんと相手してやろうじゃないか。
『それではっ、試合っ始め!!』
右手を開き頭より高い場所で構え、左手も同じく開き腰の前で留める。左足を下げ、右足を前に出して大きく開いて腰を軽く落とす。見慣れない型にライガスは眉を顰め警戒し、動かない。
『何? リオ様のあの変わった構え? あんなの見たことないわね』
『何となく受け身の返し技狙いの型に見えなくも無いが……だとすれば迂闊には動けないだろうな』
カリバン兄ちゃんご明察。ライガスも同じように思っていることだろう。じっと様子を窺っているが……痺れを切らしたようだ。【
真っ直ぐ突き出された手刀を右手で掴み、重心を更に落として左手で胸当てを掴む。引き寄せるように左肩に乗せ、ライガスの勢いを殺さず生かしたまま背負い投げ、俺の腕力も上乗せして石床に強く叩きつけた。
「がっは!!? くほっ……ハァ!」
衝撃がライガスの肺を萎縮させ、息を全て吐かせる。必死に呼吸をしようと口を動かしているが、痙攣した横隔膜がせり上がって肺に空気を入れることを拒んでいる。
「カヒュッ……カヒュッ……スゥッ! ケホ、ゲホッ!」
何とか立ち上がれたようだが、回復まで時間が掛かるだろう。魔法を使おうにもこの状態では維持は難しく、使う前に俺の攻撃が飛ぶ。あえて手加減をして手を出さずに見ていると、拳が飛んできた。だがダメージが抜けきっていないのがまる分かりだ。腕が伸びきった所に合わせ掌で軽く押すと、簡単に体勢を崩し尻餅をつく。
「そこまでです。ライガス様、これ以上の試合継続は認められません」
案の定、飛んできた審判――多分こいつの側近だろう――が止めた。ライガスはそれでも立ち上がり拳を構えたが、俺が首を横に振り闘う意思が無い事を伝えると、悔しそうに瞳に涙を浮かべ、側近と共に立ち去っていった。
『試合終了!! 文句無し! リオ様の完璧な勝利よ!』
プエレルアさんが勝利宣言し、更にリオ様リオ様と何度も掛け声を入れて観客の連中と一緒になってネームコールを叫ぶ。ちょいと恥ずいから一応手を軽く振って答え、すぐ裏へ引っ込んだ。そして今度は何故かヴァンが膝枕を申し出た。……三人の中で一番心地よかった。
準決勝。相手はまたもや王族だった。今度はアクアヴェンツィア国の王女、ベンヴェヌータ・コルティノーヴィス・ヴェネツィエル。お上品に伸ばした指を口に当て、既に勝ったも同然とすげえ見下した(ちっこいので見上げているが)態度を取っている。
「あなたが無能王子ですのね? 恵まれないってとっても不幸な事ね? その点、わたくしは全てを手に入れておりますのよ!」
う、うーん……いや、何て言えばいいんだろうか。ここまでタカビーだと逆に清々しい。言ってることは確かに罵詈雑言なのだが、悪意が全く無くて微笑ましく感じてしまう。
「だからわたくしに惚れてしまうのも、虜になってしまうのも無理はないの。さぁ、あなたもわたくしの歌を聞きなさい!」
『試合開始!!』
始まると同時にベンヴェヌータは魔法陣を展開し、会場全体に響き渡る美しい声を響かせた。式を見た感じ、声に術を乗せて広範囲に伝振させ、存在する生物に魅了や支配等の精神系に作用させる魔法の様なのだが……
「~~♪ ~~♪ ……あら? なんとも……無い? ちょっとあなた!? ちゃんとわたくしの歌を聴いていますの!?」
「いや、うん。聴いてる聴いてる。ほら、続けてくれ」
「そ、そうですの……ではっ、もう一度いきますわ!」
再び魔法陣を展開し歌い始めたベンヴェヌータだが……やはり俺に効果が無い。破力の影響だろう。魔術を勝手に拒否っているようだ。破力にはこんな特典もあるのか。
「~~♪ ~♪ ~~~~♪♪ どうでしたかっ! わたくしの歌は! 素晴らしいでしょう! 世界一でしょう!」
「あ、あぁ。確かに綺麗な歌声だった。魔術はちょっとよく分からなかったが、思わず聞き惚れちまったよ。水平線の彼方まで続く、蒼く広い海が見えた気がした」
嘘は言ってない。歌声は明瞭で風鈴のように透き通っていて、表現力は素晴らしく何を思い歌っているのかがはっきりと伝わってきた。
「まぁ! あなたはこの歌の良さが分かるのね! これはお母様がわたくしに毎日聞かせて下さった歌なのよ。あ! 今、あなたわたくしに惚れたと言ったわね! じゃあこの試合はわたくしの勝利よ~~!」
そう、なのか? 明らかに大会の趣旨がズレているが、嬉しそうに両手を広げくるくると回るベンヴェヌータに突っ込むのも野暮な気がしてきた。審判も俺に一切異常が無くやる気を失っているからか難しい顔をしており、魔法陣を開いて実況席と通信している。
『リオ様にはどうやら一切あの魅了魔法が効いていないらしい。ん? どうされましたか……あ、はい。そうですか。分かりました。あ~、たった今、アクアヴェンツィア国王からお言葉を戴いた。リオ様の勝利でいいそうだ』
『攻撃手段があの歌しかないそうよ。効かなきゃどうしようもない、だってさ。リオ様を落としたいなら、魔法になんか頼るなってことね!』
『ちょっと違う気がしますが……まあともかくとして。この試合っ、リオ様の勝利です!!』
「えー! なんでですの!? 納得いきませんわ! ちょっと無能王子さん!? あなただって納得いかないでしょう!!? このわたくしが負けだなんて信じられませんでしょう!?」
「いや、まあ、そうだな。ちゃんと闘った訳でもないしな。だが、稀代の歌姫、ベンヴェヌータの歌声を聴けただけでも満足さ。ほんとに良い歌だった」
「えっ? そそ、そうですか……ええそうでしょうそうでしょう! あなたは幸運よ! このわたくしの歌を聴けるなんて光栄でしょう! ところで……この後お茶でもいかがかしら? べ、別に他意はありませんのよ。ただあなたとちょっとお喋りしたいなと思って……」
てれてれとした表情と仕草を見れば直ぐ分かる。惚れられてしまった。
『え、何でしょうか? 結婚式? ここで? 誰が……え!? リオ様とベンヴェヌータ王女がですか!? 待って下さいアクアヴェンツィア国王殿! いえいえ駄目ですって! 問題大有りです!! おい! 誰かこの人止めてくれ!!』
聞き捨てならん言葉が聞こえ放送席を見れば、水王が暴れているようだった。流石に国家間の王族同士が繋がるとなると親父もほっとく訳にはいかず、直接止めに行ったが水王は親父を見るなり手を取って頭を下げ始めた。ここからでは当然聞こえないが、何を言っているのかははっきりわかる。うちの娘をよろしくお願いしますとの幻聴が。他の国の王やら何やらもばたばたと集まって揉め出した。それだけ魔人族との繋がりが欲しいのだろう。俺にビビって誕生日に誘っても来なくなった癖に現金な人達だ。
『ああもう! 大人しくしなさい! いい加減にしないとリオ様が調べたあんた方の国の裏事情ここで暴露するわよ!!』
口にしてはならん台詞をキレたプエレルアさんが吐いてしまった。俺は各国の裏事情など何一つ知らんからプエレルアさんの台詞ははったりだが、俺には誕生日事件という前科がある。国王達はすごすごと退散していった。
とうとう決勝戦まで進んじまったぜ。こんなにも見どころの無い俺のような選手は他にいないだろう。対戦相手は一つ年上の魔人族の女の子、パルウァエ。やたら敵意のある視線を飛ばしてきているが、俺この子になんかしただろうか。
「……ほんとにいい御身分ですね。魔力が無いくせにここまで勝ち進んでこれたのも、王族という特権を使ったからですよね?」
あ、そういう類で嫌ってんのか。俺の悪口を聞いて育てられた子のようだ。ライガスとの戦いも、裏に意図があると信じ込んでいる。
「何も言い返さないということは、肯定だということですね。忌々しいです。能無しのくせに権力を振りかざして周りに迷惑ばかりかけている。わたしはあなたみたいな方を王族とは認めませんから」
おお、ここまではっきり真正面から告げるとは。関心関心。しかし強そうに全く見えないのが残念だ。
『両者、準備はよろしいですね! それでは……決勝戦! 試合、始め!』
さて、どう来る……【
「【
今度は【
「【
いくつも飛び交う小さな稲妻が俺に襲い掛かる。身体の表面だけを伝い、体内には流れない。立ってもいられない、という風に演技し、膝を付く。
「【
立て続けに【
「とどめよ!【
いくつも飛んでくる石礫。宙で身動きの取れない俺にがつがつとぶつかり、その内の一つが額にクリーンヒットした。丁度いい。これで気絶してしまったことにしよう。
床にどさりと落ちた俺にパルウァエが近づき、吐き捨てるように告げる。
「これが魔人族の本当の力。最強の魔力の担い手。あなたが魔人族であることが心の底から恥ずかしいです。そういえば、あなたはこの国から出て冒険者になるって聞きましたけど、本当は捨てられたのでしょう? あなたみたいなのが王様にでもなったら大変ですものね。どうぞ何処へともお行きになって、二度と戻ってこないで下さいね」
おー、辛辣ぅー。こんな風に言われたりされたりした事ないから新鮮。目覚めちゃうかも。
『勝者っ! パルウァエ・ラディアス!! よって! 本日の優勝者! 最強の子供はパルウァエ・ラディアスです!!』
「あひゃひゃひゃっ。来たぜぇ来たぜぇ……この瞬間を待っていたんだぜぇ……」
午前の時と同じく、参加した子供全員が表彰式の為に舞台へ集められ、パルウァエが親父から優勝楯を貰い受けるのを拍手で送った。ヤイヴァはもう我慢できないと体を震わせ、今までで最もどす黒い笑顔を浮かべている。俺も同じ表情をしていることだろう。だからガキ共は俺達から距離を取り、周りに少し広く空間が出来ている。
『おめでとう! パルウァエ・ラディアス! さあ皆さん! もう一度、大きな拍手をお願いします!!』
拍手喝采に当然ですと鼻を鳴らすパルウァエ。早くしてくれ。もう我慢の限界だ。
『はい! それじゃぁ、今日の試合はここまで……だけど! 時間が余っているので特別試合を行いたいと思いまーす!!』
何事かとざわめきだす会場。ああ来た来た。おら、さっさと出てこいよ。
『明日以降行われる世界一決定戦の選手達の力を、ほんの少しだけ体験しましょう。舞台にいる皆さんで、ぜひ挑んでみてください。もし万が一勝てたら、何かいいことがあるかもしれませんよ? それではっ、どうぞ! 竜人族のベルスです!!』
どこから入って来たのか分らんが、真上からベルスさんが勢いよく降り立ち、がはははと腕を組んで笑い、俺達を睥睨した。
「ようひよっこ共! なかなかいい闘いっぷりだったぜ! 俺も久しぶりに鍋じゃなく拳を振るいたくなってきたぞ。さぁ、どっからでもかかってこい! もし俺を倒せたら旨え飯たっぷり堪能させてやるぞ!」
『それではっ、特別試合、開始!!』
「ふん。魔人族に敵う訳ないでしょう? さっさと倒してあげます」
いきなりパルウァエが【
「がははは! 元気があっていいが、流石にその程度じゃ俺はやれんぞ?」
明らかに実力差があるが、意地になったパルウァエと、ライガスが突っ込んでいった。ライガスが一足早く拳を握り殴りに向かったが、拳を掴まれ小石でも投げるかのように明後日の方向へ放られる。ベンヴェヌータが距離を取って歌うが、ベルスさんは口から衝撃破をブレスに乗せ歌声ごとベンヴェヌータを吹き飛ばした。他の子供達も思い思いに魔法を放ちベルスさん周辺に砂埃が舞うが、傷一つないベルスさんが笑い立っている。
「がははは! ほらほら頑張れ! そんなんじゃ俺は倒せんぞー!」
「……今は居眠り竜の足跡店主。大昔、爺ちゃんが出会った頃に持っていた異名は、“凶戦士”。全身が逆鱗で出来ていると言われた暴君。歴代竜人族最強の男、ベルス」
「いいねいいねぇ期待以上だ! ゾクゾクしてきたぜ!! なぁ! リオ!!」
全身の血が奮い立つ。最高潮に暴れる心臓に破力が喜びの声を上げ、早く出せと門を叩く。いいぜ、今開き切ってやる。
「当然、全力の破力じゃなきゃ歯が立たないだろうな……くっくっく。なぁヤイヴァ、もしかしたら、俺達ここで死んじまうかもな」
「死ぬかもだって? オレ達がか? アヒャヒャヒャ!! その疑問への答えは決まってるぜ!!」
「そうだな。決まりきっている」
アスタリスクの刻まれたジャケットを二人で羽織る。地面を強く蹴り跳ね剣へと変化したヤイヴァを今まで以上に強く握り込み、込み上げる感情に二人でケラケラと笑う。
「「大歓迎だ!!」」
ヤイヴァを背面へと下から回し大きく構え、体を膝が付くほど低く沈ませる。全開に開いた体内の門から飛び出した破力は俺とヤイヴァを包み、強烈な殺意がこの世に顕現する。
これが、俺達の編み出したオリジナルの破術剣。
「「【
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます