第31話 『VS.BERSERK』
「「【
背面まで持ち上げたヤイヴァをゴルフショットのように振り降ろし、切っ先を舞台にかすらせ、地中へと刀剣に圧縮していた破力を一気に解放。巨大な赤黒い刃と化した剣を狙いを定めて一気に引き抜き、闘技場の舞台ごとベルスさんを切り裂く。
斬撃の余波が周囲にいた子供達を吹き飛ばし、破砕した岩や粉塵が高く舞い上がり会場を包み込んだ。
破術剣。曾爺ちゃんが編みだした魔法を織り交ぜた剣技を、俺の持つ破力で再現した。破力の特性は、魔力をも砕く破壊の力。それを剣技へと組み込んだのが破術剣。魔術式を変換させて発動させる真似事の
「……ふっふっふ……ガッハッハッハ!! 漸く本性を見せたなぁ! ええおい! 待ちかねたぞ! 大将!!」
大きく両腕を振るい土煙を吹き飛ばし、腕を組んで高笑いするベルスさん。左脇腹から右肩まで大きく裂けた傷を全く気にも止めていない。なんてタフな人だ。親父は膝を着いたってのによ。
「アヒャヒャヒャ! ベルスの奴、受けきりやがったぜ!」
「斬る瞬間に変な振動でブレたな。竜人族の特性である波動を活かした魔術か?」
「うんにゃ、術使ってんのは見えなかったなぁ。特殊能力じゃねえの?」
各種族が持つ特性に沿うような特殊能力だとしたら、その能力は効果が倍増しているだろう。そういや、おかしなブレスでベンヴェヌータを吹っ飛ばしてたな。あれもその類か。
「こっちはまだ破術剣の扱いに慣れてねぇ。おまけに使えば使うほど、命も体力もガリガリ削られる。どうすんだリオ?」
「小細工を弄した所であの打たれ強さの前には通用しないだろう。小手先の技術でなんとか出来るとも思えん」
「イシシシ。つまり真正面から押し通すってこったな!」
「そういうこった。後の事は考えずひたすら打ち込むぞ!!」
「おうともさ! だったらコイツだな! 「【
硬質、弾性を持たせた破力が全身を巡る。赤黒い紋様が肌に刻まれ、剣と化したヤイヴァへも伸び妖しく光る。膂力と防御力を強化し、更に剣に破力を付与させる破術。デメリットは先の技と同じく、体力と命を徐々に削られる。あまり長くは持たない。早速頬にぴしりと傷が走った。
「さあベルスさん!! 思う存分やり合おうじゃないか!!」
「ガッハッハッハ!! 俺に真ん前から挑もうとは言い度胸だ!! だが俺も大将とこうなることを望んでいたぞ! 全力で叩き潰してやろう!!」
強化された腕力で力任せに【
ベルスという強大な存在に俺の心は歓喜に震え、自然と笑みが零れる。そうだ、見せてくれ。俺に、誰も体験したことのないモノを。想像を絶する存在感を、俺に与えてくれ。
俺に、もっと世界の美しさを教えてくれ。
第31話 『VS.BERSERK』
「「お兄様すごーい!!」」
「そうね……本当に、凄い力ね……」
兄の力を見た双子は興奮し、レティシアの手を握り飛び跳ねるように喜び兄の健闘を称えていたが、周りはそうではなかった。魔力とは全く別種の未知の能力に戦慄し、口を噤みただただ体を震わせている。
「ふむ。あれがグラスの食らった技か。父アークが得意としていた魔法剣を、リオが持つ力に合わせ自己流に変えたもだな。しかし、あの力からは何とも言えぬ恐怖が伝わってくるの」
「ああ。くらえば猛毒に侵されたように体を蝕み、傷の治りを遅行させ、更に魔力の効果を弾く。魔力が生み出す力ならば、あの破力というのは魔力とは真逆。破壊の力だ」
「しかしその破力とやら、かなりじゃじゃ馬な力のようだの。剣技としてはまだ扱いきれておらん。自らが傷を負っているのがいい証拠。地中から切り上げるように発動させたのは、距離感を悟らせないようにする為、というよりも少しでもあの力が撹拌するのを抑える為であろう。ベルスの能力で散らされておるし、まだ安定には遠いの」
リオの力を知っていたリベルタスとグラウィスは冷静にリオの闘いを分析した。未熟であるとの判断を下した二人ではあるが、それが悪いとは言わない。むしろ、あの年でそこまでの技術を身に着けたと褒め称える。力は兎も角として剣を振るう姿に澱みはなく、慢心も躊躇いも無い太刀筋は一介の剣士として十分と言えた。
「ふーむ、こりゃ剣技だけなら将来父を超えるかもしれん」
「かぁ~、なんじゃあの滅茶苦茶な力は。一部とは言え仮にも【
「うん……うん……そっか。了解了解~。ねえカリバン、カンタス。リオ様のあの力、やっぱり【
「魔力に直接作用する力のようですね。ならば結界の防御力を無視し、結界そのものを構築している魔力を破壊してしまうかもしれません」
実況席についていた三人は破力の異常性に気付き、実況を放棄し他の五人と連絡を取り合っていた。カンタスはすぐさま最悪の状況を想定し、それが可能性として零ではないことを二人に示唆した。万が一、あの力が外に、リオとベルス二人の戦闘により発生している衝撃の余波が外に漏れてしまえば、大惨事になると。
「皆集めて柱の上で直接維持しましょ。砕かれることだけは阻止しないと」
「だな。【
グランディアマンダ最強の防壁が崩れるようなことになれば、国の威信に甚大な影響を与えることになる。三人は実況席を飛び出し、闘技場の支柱となっている黒い八つの柱へそれぞれ向かった。
【
だが何が起こっているのかは大方理解できた。俺は別に闇雲に剣を振っていたのではない。目には見え無い謎の振動を起こしている物質と、効果範囲を特定するのが目的だった。破力は魔力を破壊する。にも拘わらずこのおかしな振動は収まらない。魔力によるものでないのは間違いない。今度は斬らずにヤイヴァを隙のできた脇腹に面で当て、その上から蹴りを入れたが、それでも脚がぶれた。皮膚や体内から放出し、それを震わせている、という訳ではないようだ。ならばもともと存在するものを操っていると考えられる。ベンヴェヌータを吹き飛ばしたのも、最初からこの場にあるもの。それは即ち大気。
「自身の周囲にある空気を自由に振動させる力か!! 効果範囲は距離と面積が反比例しているようだな!」
「ガッハッハッハ!! どんな洞察眼してんだ!! 末恐ろしいぜ大将!! その通りだ! これが俺の能力さ!! 大将が使ってんのもただの力じゃないんだろ!!?」
「破力っつうんだ! くらったら効くぜ!!」
「よく知ってるさ!! 胸に刻まれたこの傷がっ! 俺を芯まで疼かせてるからなぁ!!」
「そうかよ!!」
この剛腕、直撃すればただでは済まない。切り裂かれることが愉快だと言わんばかりに喜びその力が増してゆく。まさしく狂戦士だ。闘いそのものを心の底から楽しんでいる。俺と同じように。だから俺はこの人のことが好きで、この人も俺を気に入っているのだ。互いの感情が手に取るように分かる。伝わってくる。もっともっとお前の
その願いに答え胸の傷を狙い、破力を纏わせたヤイヴァを突き出す。避ける、逃げるといった行動が思考から完全に抜け落ちているベルスさんも、腕の周囲を振動させ殴りかかりに来た。切っ先と拳が衝突し、チェーンソーが鋼版を斬るかのような、ギャリギャリと異様な音が耳をつんざく。
「弾かれんぞ!」
破力が散らされる速度が思ったより早い。ヤイヴァが慌てて警告したが、一歩遅かった。真っ直ぐ突き出した力が乱され、地に叩きつけられるように弾かれた。
「いただきぃ!! 【
やられた。動きを乱され魔法を許してしまう。咆哮を【
「はっはぁ! 【
「ぅぐぁああああっ!!」
体がバラバラにされたかと思う程の衝撃が全身を駆け巡り、俺をこの場に留まらせることを許さないと吹き飛ばす。地面すれすれを掠り、幾度ももんどりうつも止まらず、体勢を整えるどころではなく。全く勢いが落ちない肉体は闘技場の壁を破壊し、奥までめり込んだ。
「……っ! ……がふっ、はぁ。【
「あぁ……痛てててっ。剣になってるオレも全身が砕けるかと思ったぜ。あのおっさん出鱈目だ。攻撃は最強の防御を地で行ってやがる」
あの二撃でもうこのざまだ。筋肉は痙攣し、骨が軋む。ヤイヴァを握り直すと手の平から肩にかけて鈍痛が走った。さすがは竜人族最強だ。もっとやり合いたいと思っても、体がついてこない。己の未熟さが恨めしいぜ。これ以上のお楽しみは、破術剣の特性も踏まえて、あと二、三回が限度か。
だったらこの数回で全てを出し切ってやる。
「ヤイヴァ……やるぞ。“あの技”だ」
「アヒャヒャヒャ……マジで死んじまうなこりゃ」
「急いで子供達を下がらせろ!! 片っ端から担いでけ!!」
リオとベルスの力に中てられ気絶した子供を抱き上げ、そうでない子も強引に連れて駆ける兵士達。恍惚とした表情でリオを見つめていたベンヴェヌータや、その力に憧れ瞳を輝かせるライガスを、慌てふためく側近達が無礼と知りながらも、主人の命が優先だと強引に抱き上げ闘技場を後にした。
観客席はリオとベルスの闘いに今日最大の歓声が闘技場を超え国中に響き渡り、二人がぶつかり合う度に雷が落ちたかのような声援が轟いた。
「……何よ……何よ、それ……」
パルウァエは半ば放心してこの光景を見つめていた。どうして無能王子があんな闘いを見せていると。魔力が無いとは嘘ではなかったが、その大きな代償とでも言うべきか、あんなにも恐ろしい力を秘めていた。最初に見せたあの大地を切り裂き昇る赤黒い巨大な刃は、間違いなく上位魔法に匹敵する。振り回しているあの大剣が特別なのか。そう考えるも自身と闘い始めた時と全く動きが違う。
何よりも、あんなにも笑みを浮かべ、楽しそうに闘っている。王子の試合を最初から見ていたパルウァエだが、どの戦いでもあんな表情はしていなかった。
「そこの君! なに突っ立っている! 早く下がるんだ!!」
『『【
突如響いた術名。吹き飛ばされたリオによって砕かれた壁が衝撃音と共に砂煙を巻き上げる。リオがいると思われる個所から左右に向けて何かが壁の中を走り始めた。次々と壁を破壊しながら突き進む異様な光景を見つめ、縛り付けられたかのように動かないパルウァエを兵士が抱える。闘技場入場口が破壊される前にと兵士は全力で駆け飛び込む。直後、二人の真後ろをその何かが瓦礫を吹き飛ばしながら通過して行った。
「ふう、間一髪だったな。リオ様が予め我々を待機させていなかったら大変なことになっていたぞ」
「それは……どういうことですか、兵士さん」
「お年が条件に満たないせいで天下一決定戦に参加出来なかったリオ様は、特別試合と銘打ってこの闘いを強引にねじ込んだのだ。……君達には酷な話になってしまうだろうが、リオ様の目的は最初からあのベルス殿と闘うことだった。そしてその闘いは間違いなく苛烈なものとなると判断したリオ様は、我々がいつでも君達を保護出来るようにと手配していたのだ」
王子に不正をしたのではと追及したとき、何も答えなかったのは後ろめたかったからではない。のちに制裁を加えると隠していたわけでも無い。自分達など到底及ばない場所に王子は立っており、自分たちは歯牙にかける存在ですらない。保護とはつまり、邪魔だと言っているのと同義であった。
「つまり……わたしたちのことなんか、はなから眼中になかったって、ことですのね……」
「さあて、何を企んでやがる? 大将」
外周の壁ががらがらと崩れ落ちてゆく。二手に分かれた壁を破壊しながら突き進む何かは、闘技場の壁の半分を壊した所で静止し、壁を砕き飛ばしてとうとうその姿を現した。それはリオの姿をした漆黒の影。同じく大剣と化しているヤイヴァも同じ影となりリオに担がれている。真反対を見れば全く同じ影が、ベルスに向かい大剣を振りかぶり接近してきていた。
「ほう! 分身体か! ここまで力を持たせているのは初めて見るな!!」
二つの影はベルスに斬りかかり、打ち合う。ベルスは一体の影へと狙いを定め、自身の腕が裂かれたのも気にせず掴み、【
「はっはぁ、なかなか厄介な術だ。だがっ! これで俺に隙を作ったつもりか大将!!」
もう一つの存在が接近してることにベルスは気が付いていた。一つの影が壁を砕き飛び出したのち、その場所から再び壁の中を砕き走り背後に回りこもうとする存在。それがリオの本体だと推測し、先と同じく拳を魔法で強化し背後へと振るった。外すことなく直撃し、だが人ならば有り得ない黒い血が霧散する。これもリオの作り出した影であった。
「こいつも囮だとっ!! ぐおおおおおお!!?」
リオが最初に放った【
「やってくれたな大将!! 今度はこっちから……」
「まだ終わってねえよ!! もう一丁! 「【
いつの間にか舞台に姿を現していたリオはヤイヴァを振り上げ技を出し切ったのち、勢いを落とさず体を回し、同じ技を繰り出した。
「おいおい!!? ぐおおお!!」
予想だにしなかった二発目の大技にまたもや体を切り裂かれたベルス。それでも周囲ごと斬撃を振動させ散らすが抑えきることが出来ず、宙へと高く飛ばされた。
「さあ行くぞ!! こいつが!! 今の俺達の!! 最強の技だぁ!!!!」
リオは天高くヤイヴァを構え、巨大な破術陣を足元に展開した。
「あの構え、そしてあの陣。式は違うが……まさか!? 会得したというのか!!?」
「リオ……お前は一体、どこまで……」
思わず立ち上がり身を乗り出したリベルタス。目を見開き背筋を震わせるグラウィス。今度こそ二人は落ち着きを失い、その魔人族の王二人の様子に周囲も何事なのかと騒めきだす。
「ど、どうしたのよ、グラス。今度は一体何? リオが今使おうとしている術は、いったい何なの?」
そこに集まる者達の疑問をレティシアが代弁する。その質問に、グラウィスは幼い記憶を呼び起こす。祖父のアークが一度だけ見せた技。幾度となく汗を流し、幾度となく血を流し、ついぞ得ることが出来なかった剣技。
「カオスディアマンドを貫き、この地に平和をもたらした創国の魔術。究極の魔法剣……」
その言葉に各国の王達は一斉にリオを注視した。一片たりともその技を見逃さないと瞬きを許さず、伝説の技を目に刻み付ける。
国の重鎮達から伝わる緊張が観客席の隅々まで走り伝染する。闘技場にいる全ての人が口を閉じ、剣を掲げるリオを注目した。
「「一つ!」」
赤黒い柱が出現し、リオの周囲を回り始める。
「「二つ!」」
更に出現した柱も、同じく回る。
「「三つ! 四つ!」」
三、四と現れた柱も不気味に明滅しながら浮遊する。柱が増える度にリオの表情には苦悶が広がり、皮膚のあちこちが裂けた。
「うぐぐぐ……ああああっ!! 「五つ!!」」
五つ目の柱が出現し、とうとうリオの身体は苦痛を訴え悲鳴を上げ、口から血を吐き出させた。
「やっぱ五つが限界だな!! 身体が持たねえ!! オレもガタガタだぞ!!」
「仕方……ねえなっ。次はもっと出してやるさ!」
破力で作られた陣が消え、五つの柱はリオとヤイヴァへ、その効果をもたらす。柱が一つ輝くとリオとヤイヴァを中心に鼓動が響く。二つ目、三つ目と輝く度に鼓動は鳴動し、五つ目の柱が光る頃には二人の周囲の空気が揺らぎ、細かく砕かれた宝石が散るかのように、赤い粒子が煌めいた。
「受けてみろっ!! 曾爺ちゃん直伝のっ!! 究極の剣技!!」
高く掲げられたヤイヴァを虹色に輝く結晶が包み、その剣身を何十倍もの大きさへと変貌させた。
五つの柱が周囲を高速で回転し、不可視の力が闘技場を満たす。砕けた床が浮かび上がり、小さな稲妻が弾け踊り、閃光がリオの瞳を輝かせる。
「「【
中心から発せられた衝撃波は巨大な推進を生み、リオを高く天へと舞い上がらせる。柱は更にリオを加速させ続け、巨大な結晶の剣と化したリオが天を目指し駆け上った。
大将、おめえって奴は、ほんとにとんでもねえ奴だよ。
ああ。そういや、まだ俺は大将のこと、許してねえぜ?
『曽爺ちゃんは今でも想ってる。ベルスさんの親友も。そして俺も、いつか想うようになる』
帰る場所は、想う為にあるんじゃない。帰るからこそ意味がある。
『なあベルス。いつかさ。また四人で集まって、この場所で流れ星を見よう』
想いだけが残された場所に、帰って来ないと分かってて残る奴はどーすんだ?
大将……いや、リオスクンドゥム。おめえさんは新たな太陽だってな。冒険者となってここから飛び出し、世界を見るんだと。
だがな、昇った太陽が沈む場所は、ずっとずっと遠くだぞ? 同じ場所には沈まない。
ヴァンちゃん、スコル坊、アリンちゃん、ティア、ヤイヴァ。あいつらとどんな覚悟を決めたのか。多分あの時の俺達と一緒だろう。
悪いが、試させてもらうぜ。もしこの技に耐えられねえのなら、おめえさんをこの国に閉じ込めてやる。ここでずっと、この国だけを照らしてろ。
それが……おめえさんの仲間の為になる。
「【
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます