第18話 『The Three Sillies』
「……四百七十七……四百七十八……四百七十九……四百八十……ふぅ、アリン、遅いな」
「最近は直ぐ来るようになったのに、どうしたんだろね」
この時間に待ち合わせだからな、と約束しているでもないが、アリンが基地に来る時間は早い方だ。スコールが早朝から鍵を開け、ヴァンと同じか少し後にアリンが顔を出し、俺が最後に到着する。それが、今の俺達四人の集まり方になっていた。だが今日は初日以来の遅さだ。
「……リオ」
「後二十だろ。急かすなよ」
ヴァンは読書。俺は基地の天井に取り付けた懸垂棒で、筋トレしながらアリンを待っていた。普通に懸垂するだけでは簡単にこなせてしまうから、スコールをパワーアンクル変わりに足に抱きついて貰っている。俺は遊具じゃないんだが、上下する感触が面白いからか、止まったり息を付いたりすると早く動けと急かされた。
「……四百九十八……四百九十九……五、百っ! ぷぅ」
目標数に達し懸垂棒から手を離し降りる。スパルタスコールさんが休ませてくれないから、かなりキツかったぜ。
「……ねぇ。やっぱり僕、探しにいってみるよ。なんか落ち着かないんだ。本の内容も頭に入らないし」
そわそわと落ち着かないヴァンは、とうとう本を閉じて立ち上がった。もうヴァンにとってアリンは俺達に欠かせない存在らしい。俺にしがみつきながら何度も外へ探知をしていたスコールも同様だ。確かに初日はアリンに来いと言ったが、その後は別に絶対集まらなければいけないと命令した訳でもない。偶に全員揃わない日ぐらいあるだろうとは思うのだが、朝から二人の様子がおかしい。
「しゃあねえ。全員で行くぞ」
取り合えず上半身を伝う汗を拭う。成長と共に体のあちこちに筋肉が浮かんできた。見た目はまだまだ子供だが、既に地球の成人男性よりはるかに力がある。そろそろ筋トレだけじゃなく、剣術なんかも覚えていい歳かもしれない。
第18話 『The Three Sillies』
「外れか」
リヴァノヴァ家にアリンはいなかった。今日も朝から笑顔で家を出たらしい。特に何も言わず、欲しいものがあるとも言っていなかったので、また俺達の所にいるのだろうと老夫妻は思っていたそうだ。ではどこへ行ったのかと考えたが、俺達の基地以外にアリンが普段いるような場所は心当たりがない。生粋のインドア派引きこもり幼女の基本行動は、外出すると寄り道は一切せず、目的地までも帰り道も一直線。隣に誰かいないと不安で他の道を選べない筋金入りの臆病娘だ。
「どこに行ったんだろう。変だな、朝からずっと胸がざわざわするんだ」
俺も胸騒ぎがしてきた。過去の話を聞いた限り、アリンは積極的になると何かしらのトラブルに巻き込まれている。だからこそあれだけ自己主張しない子になったんだろうが。
「!!」
突然スコールが中央街の方へ体を向け、耳を激しく動かした。俺とヴァンには小さかったが、スコールにははっきりと聞こえたのだろう、“俺達を呼ぶ”音が。何となくだが、悲鳴のように感じられた。
「聞こえたか?」
「うん。アリンが僕らを呼んでる」
「スコール、場所は分かるか?」
力強く頷くスコールの尾は毛が逆立ち、警戒モードへ入っている。久しく見なかったヴァンの怒りに満ちた瞳が、アリンがいると思わしき方角を睨んだ。
「行くぞ」
「ぁぅ、ぁぅ。やめて……やめて……」
「止めねーよーだばーか!」
「アンタ見てるとイライラするのよね。これでもくらいなさい!」
「ぅぅ……」
「あははは、泥人形みたい」
中央街の裏道。三人の子供が全身泥まみれになったアリンを囲い、笑い声を上げていた。アリンは頭を抱え蹲り、自身に危害を加える三人に止めるよう懇願する。しかし彼らは止めるどころかアリンの怯える姿に更に気分を良くし、段々と少女を罵る声や暴力は激しくなっていた。
アリンは額を地に押し付けられながら、三人の少年を思い浮かべた。自分を友達だといい、外へ連れ出した破天荒で明るい男の子達。今日は彼らに恩返しをしようとアリンはこっそりと計画を立てていた。以前自分を含めた四人で寄った中央街の竜人の営む店。そこのお持ち帰りの商品、ハンバーガーが評判らしいと祖父母から話を聞き、彼らならきっと喜んでくれるだろうと基地へ向かう前に買いに行ったのである。店主の竜人は相変わらずであり、豪快で優しく笑いながらアリンへ一つおまけをつけて渡した。店主の心意気に喜び、そして彼らがありがとうと笑う顔を期待する。アリンの胸は軽くなり、しかし同時に普段の警戒心も薄くなってしまい、アリンは踊る心に身を任せ寄り道をした。
アリンの足は金槌が響く音に誘われ、中央公園へと彼女を誘う。そこでは公園外周で巨大な柱を建設中であった。八角形の黒い柱の周囲で自身と同じ種族の職人達が腕を振るう姿。金属を取り扱う技術はアリンにとって大変興味深いものであり、彼らの技量を少しでも学ぼうと釘付けになった。
そこで暫く作業風景を眺めていたアリンの背に「泥女」というしゃがれた声が掛かる。慌てて振り返るアリンの目に映ったのは、以前散々自分を痛めつけた、ニヤニヤと笑う三人組であった。
「おら! これでもくらえ!」
無理やり立たされたアリンの頬に泥団子が直撃する。それ自体に痛みはないが、泥の付いた目が開けられず、口の中に侵入したじゃりじゃりとした不快な感触が、アリンを悲しみの沼へと引きずり込む。
「ぁぅ……助けて……リオ……助けて……ヴァン……スコール……」
自分の手を引き、あるいは抱えて走るあの三人がいない。額に傷のある銀髪の無表情なスコール。黒紫髪の知的で可愛いヴァン。真っ赤な髪の美しい王子様、リオ。何処にいるの。何処にいるのとアリンは心の内で何度も繰り返す。
瞼の裏に映る三人が足を止めた。アリンは彼らに追いすがろうともがいた。しかし足が動かない。必死に手を伸ばすが、届かない。振り向く三人。アリンは彼らを呼ぼうと叫ぶが、声が出ない。何処にもいかないで。一緒にいてと願うアリンに、遠くに立つリオが腕を組み、美麗な顔を歪ませ笑い、しかし真の通った心強い声でアリンに語りかけた。
(俺達とはぐれてしまうことはあるだろう。そしたら、迷わずその首飾りを力いっぱい吹け。例え何処に居ようと、俺達がすぐに駆けつけてやる)
首に下げられた首飾り。この首飾りが友達を呼んでくれる。早く吹いてくれとアリンへ訴えるかのような、零れる淡い緑の光。アリンは首飾りを握りしめ、三人の友を強く望み、救いを求め力の限り吹いた。
「おわ!! なんだ!? お前今何したんだよ!」
「今の笛の音かしら。ねえ、ちょっと見せなさいよ」
「そうだよ。見せろよ。ほら起きろ」
しかし首飾りを吹いたことで三人組の興味が移る。金髪褐色の少年、デュドネはアリンを無理やり起こし、握りしめていた手を払い首飾りを露出させた。
「あららぁ? 随分綺麗な首飾りね。アンタみたいな汚い子にはもったいないから貰ってあげる」
「駄目……駄目……」
「いいから寄越すんだよ!! オラ!!」
三人は嫌がるアリンを抑え込み、青い髪の少女、ナーディアがアリンの首から首飾りを引きちぎり、奪い取った。
「へぇ、ホントに綺麗ね。大事にしてあげるから感謝しなさい」
「か、返して。返してっ」
首飾りを奪われアリンは取り返そうともがくが、赤髪の少年、フェリクスが離さない。
「ああもう! お前ウザいぞ! いい加減黙れよ!!」
振り上げられたのは自分より二回りも三回りも大きい少年の拳。自分を殴り飛ばそうとする痛み。痛いのは嫌だ。でもその首飾りは絶対に渡さない。渡すわけにはいかない。それはアリンと三人を繋ぐ、友達を繋ぐ首飾り。仲間の証。もう嫌だ。一人は嫌だ。
「ああああああああっ、リオおおおおぉぉぉぉっ!」
少女は大粒の涙を零し、今まで一度と出した事の無い大声で叫んだ。
「うぅぅぅちぃぃぃぃのぉぉぉぉむぅぅぅぅすぅぅぅぅめぇぇぇぇにぃぃぃぃ……!!」
遠くから砂埃を上げ、猪のように怒涛の勢いで突進する何か。怒りに燃えるかの如き紅い髪が風を切り宙を舞う。裏民家の壁を蹴り飛び、反対の壁を蹴り飛びと不規則予想不可能な動きで三人組へと接近する。紅い髪を振り乱したそれは拳を振り上げたフェリクスへと狙いを定め、
「なああああにしやがるんだああああああああ!!」
「ぶっっっっびらぁっ!!?」
その顔面に落下の勢いと共に飛び蹴りを食らわせ、フェリクスを飛ばした。反動を宙で体を一回転させ吸収し、綺麗に着地を決めゆらりと立ち上がり、その顔には不敵な笑みが浮かぶ。
「随分と俺んとこの子を可愛がってくれたみたいだなぁ、ええおい?」
「え? な、何……きゃ!?」
突然のことに理解が追い付かず硬直したナーディアを旋風が襲う。驚き手放された首飾りを意志を持った旋風が拾い、片手に魔法陣を広げる黒紫髪の少年、ヴァンの手元へ届けた。
「あ! か、返せ……ひ!?」
デュドネが再び奪い取ろうとヴァンに踏み出そうとする瞬間、頭上から現れた銀髪の少年、スコールがデュドネのすく目前に立ちはだかった。至近距離で見つめる憤怒に満ちた銀色の瞳に気圧され、デュドネは尻餅をつき後ずさる。
「ううう、痛ってぇ、痛てぇよぉ……何なんだよぉ……」
体験したことのない衝撃と痛みは、フェリクスから威勢を完全にそぎ落とした。自身をこんな目に合わせたのは一体何者なのかと顔を上げた彼の視線の先。其処には両手を組み仁王立ちでフェリクスを不敵な笑いで見下ろす美しい魔人、リオ。
「フェリクスっつったか? そっちの二人が……「水人がナーディアで渓人がデュドネだよ」……それだ。まぁ正直どうでもいい。テメェらみてえな根性のひん曲がった糞餓鬼共なんぞ、はなから眼中にねえ」
フェリクスは自分と同じ、だが一回り小さい魔人、リオの言葉から発せられる恐ろしさに身を震わせた。それは自分の行為を叱る大人たちの有無を言わせない態度によく似ていた。いつもならば、そんなものとフェリクスは全て無視し跳ね除けてきたものである。しかしながら、リオから感じられる“何か”は全く異質の、暗闇に一人取り残された恐怖のような。知らず内に巨大な化け物の尾を踏んでしまったかのような、圧倒的な絶望が、フェリクスに重圧として圧し掛かった。
「どこで何をしようが、犯罪を犯そうが、人を殺そうが関係ない。だがたった今、テメェらが嗜虐心を満たす為の標的にしたあの幼女。アリネイア・リヴァノヴァは俺達の一部だ。アイツに手を出すってことは、この俺と、ヴァンと、スコールに喧嘩を売ってるのと同義なんだよ。理解したか? それでも俺達に歯向かおうってんなら……」
フェリクスにはリオの言葉の半分も理解できなかった。理解する必要はなかった。言葉を区切ったリオが示唆する意思が、殺意であると早鐘を打つ心臓がフェリクスへ伝えたからである。逃走しろと訴えている肉体に、しかしフェリクスはその選択肢を取らなかった。何故なら、彼は今まで暴力で何もかも解決し、心を満たし、思い通りにしてきたからだった。
「う、う、う、うああああああああ!!」
得意魔法である【
殴られたリオはというと、頬から拳をゆっくりと払い、地面に血の混じった唾を吐き、硬直するフェリクスを見つめ、楽しいものを見つけたと、歪んだ笑みを浮かべた。
「良い根性してんじゃねえか。下らねえことする馬鹿かと思いきや、考え無しの大馬鹿野郎。それとも……クックック、そうだな。お前のその拳の振り方、まるでなっちゃいねえ。今から一回だけ手本を見せてやる。よく目に焼き付けておけ。今から睡眠学習のお時間だ」
思考の止まったフェリクスに、リオが何を言っているのかと考える一瞬すら無く、横顎を衝撃が襲う。重く、鋭く、速く、全てを兼ね備えた拳は顎を伝い脳を揺らし意識を刈り取り、それでも留まることのない力はフェリクスの体を浮かび上がらせ、放物線を描きナーディアとデュドネの近くへと落下した。
「ひぃっ!? ふぇ、フェル~……」
「お……思い出したわ! あんた随分前にフェルを倒した魔人でしょ! ……ちょっと無視しないでよ! ……ねぇったら……」
少しばかり気が残っていたナーディアはリオに対し声を張り上げるも、とうにお前達からは興味を無くしたと言わんばかりに無視を決め込む。お前とは話す価値すらない。アリンの顔についた泥を拭うリオの後ろ姿がそう語っていると悟り、ナーディアの気勢は消沈した。無視されたのなら、もう一度怒鳴ればいい。強引に此方を振り向かせればいい。そうしようにも、何故か身体が動かない。普段ならばここで沸くはずの怒りは、代わりに悲しみが顔を出した。何故こんな気持ちになるのだと、ナーディアは自らの感情に混乱し、答えを求めようと倒れるフェリクスを見つめた。
デュドネは三人の中で自身が一番の弱虫であることを自覚していた。そんな自身の隠れ蓑の為に同年達の中で最も強いフェリクスにあやかり、自身の弱さを隠し、否定していた。だからデュドネは忘れていた。悪事を働けば報いを受ける。力任せに我を通すフェリクスの行いは、いつかフェリクス以上に力ある者に否定されるのは必然であると。自分達の行いは世間にとって否定されるべきものなのだと、デュドネは改めて、年下の少女に泥を投げつけ誹謗した事を反省した。
「傷は無さそうだな。アリン、他に痛かったりする所はあるか?」
「ぅ、ううん。だい、じょうぶ」
「ならちゃっちゃと泥を落としに行くか。ヴァン、スコール、行くぞ」
リオがアリンの肩を抱き歩き出すと、スコールはいつもの無表情に戻り二人の後を追い、感情を抑えきれないヴァンはその場に留まり怒気を孕んだ目でフェリクス達を見つめるも、結局何もせず、何も言わずリオ達の元へ駆けて行った。
頬を腫らし、呻き声を上げるフェリクス。放心するナーディアと、自身に落胆するデュドネ。自分達のやったことを、笑われるでもなく、怒られるでもなく、無言で踏み付けられ、砕かれた。
ナーディアはフェリクスの近くに屈み込み、腫れた頬をつついた。自分は何をしているのか。他人の嫌がることばかりをして。痛がることばかりをして。今後もし同じように誰かを傷つけるようなことをした時、笑えるのだろうか。
『下らねえことする馬鹿』
「……馬鹿、か」
紅い髪の魔人が言っていた事を思い出し、すとんと納得してしまう。自分達は馬鹿だと。自分達のやっていたことは、下らないことであると。
「行くわよ、デュード。そっち持って」
「うん……」
二人はフェリクスを背負い、帰った。
「……ねぇ、リオ。どうしてあの二人には何もしなかったのさ」
ヴァンはむすっとした表情で八つ当たってきた。あの魔人の小僧だけ殴りつけ他の二人に手を出さなかったのが気に入らないらしい。アリンを傷つけたのだから、あの二人にも制裁を下すべきだと。
「最初は忠告だけして帰るつもりだったんだけどな。あの……なんつったけか。フェリクスだったか? アイツは俺に向かって殴りかかってきやがった」
「だからやり返したって訳?」
何だよそれと更に不機嫌になり、アリンの為じゃないのかと睨まれた。おうおう、怖い怖い。
「最後まで聞けよ。なぁヴァン、今まで俺に逆らった奴なんていたか?」
「……いないけど。王子様に逆らう人なんていないよ」
「そうだな。アイツらは俺が王子だなんて知らんみたいだったが。だからな? 試しにフェリクスって奴には、変わりのもんで脅しをかけた」
文字通りの試しだ。俺の中の“力”をちらつかせてみた。強すぎる魔力は相手に圧迫感を与えるらしいが、どうやら俺の中の力も同様のようだ。
「変わり?」
「逆らったら殺してやる。ってな。直接言葉にはしてないぜ。そういう意味合いを込めてってことだ」
そこまで強い言葉が出るとは思って無かったらしく、不満たらたらだったヴァンは顔色を変えて息を飲んだ。スコールも表情こそ変わってないが、尻尾の毛が少しだけ逆立っている。アリンには聞かれないよう手で耳を塞いでいる。ちょいと刺激が強いからな。
「ところがあの野郎、俺に殴りかかって来やがった。それしか知らねえと言わんばかりにな。それでついおかしくなっちまったのさ。俺もこいつと大して変わんねぇってな」
「……ウルレイトライガー」
くっくっく、その通りだよスコール。勝率が万が一もねえ状態で立ち向かおうなんて馬鹿のやることだ。それを一人でやろうってんなら唯の馬鹿で済む話だが、周囲の連中まで巻き込んで迷惑かける奴など大馬鹿としか呼びようがない。
が、状況を楽しんでいるなら兎も角、あいつは恐怖に抗い体に活をいれて殴りかかりやがった。
「俺には矜持なんてもんは無ぇ。ただ自分の快楽の為に突っ走ってるだけだ。あのフェリクスって奴はどうだろうな。何の為に俺に向かってきたんだろうな」
「はぁ……ただお馬鹿なだけなんじゃないの?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれねぇ。今日俺にぶん殴られて、明日からどう過ごしていくのか。次俺と会った時何をするのか。そう思うと少しだけ笑えてくるぜ」
そう、自然と笑いが込み上げてくるのだ。負けじと俺に立ち向かうか? それとも恨みを募らせて殺しに来るか? それとも恐れをなして逃げ出すか? 出来れば俺の予想を裏切る行動を望むぜ。
「ああもう、何となく分かった。リオの悪い所が。自分を刺激してくれるんだったら、悪い人でも物でもなんでもいいんだね?」
さすがはヴァン。ここに来て俺の言葉の本質を理解した。だったら改めて言わせてもらう。
「言っただろう? 俺は駄目人間なんだよ。当たり前の事じゃ満足できねえ、どうしようもねえ野郎だ。どうだ? 失望したか?」
「失望はしてないよ。でも、置いてけぼりには、されたくないな」
……その発言は予想してなかったぜ。真面目なヴァンなら俺を多少嫌うと思ったんだがな。
「ぁぅ……首飾り、吹く……いかないで」
俺の服の裾を握りしめながら懇願するアリン。あ、まずい。アリンのウルった瞳は俺の中の申し訳程度の良心に響く。大丈夫だよって優しい声を掛けてあげたくなっちゃう。
「リオは世界を一緒に見ようって言った。置いてけぼりになんかしない」
「それもそうだね。追いつけないなら引っ張るって言ってたし、なんだかんだで僕らの事気遣ってくれるし。リオが僕たちのこと見捨てることは無いね」
「必殺! 【
「うわわわわっ!? ちょっ、ちょっとリオっ、やめ、うひゃひゃひゃ!!?」
説明しよう。必殺【
「お? これ楽でいいな。よし、このまま出発だ」
「リ、リオ、ワタシも……」
「あそこの青い屋根の家で交代な」
「ちょっと、僕を馬替わりにして遊ばないでよ」
「……」
「スコールも羨ましそうな目で見ないでよ!」
良いも悪いも関係ない。ただそれが俺にとって楽しいモンかつまらんモンか。関わる理由なんぞ、そんだけで十分だ。
「……リオ、ヴァン、スコール。ぁぅ、えと……助けて、くれて、ありがとう……ぁぅ」
「よし交代だ、いやアリンは俺が背負う背負おう背負いましょうさぁお兄さんの背にお乗りなさい!」
「ぇ、ぇ、ぁ、あぅっ、あうあうあうあうーー!!?」
「……リオってさ、褒められたり、感謝されたりすると有耶無耶にしようとするよね」
「天の邪鬼」
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