第14話 『When The Abyss Gazes Into Me...』
「リオー! スコール! こっちにあったけどっ、ちょっと来てー!」
今日は早朝から枕の森へ三人で駆り出し、ミリヤムさんからの依頼で黒三日月と呼ばれる木の実を探している。実の中のパルプに非常に塩っ辛い汁を蓄えている実だ。その汁を絞り出し天日干しすると塩になる。近くに海が無く岩塩も輸入に頼っているグランディアマンダでは唯一貴重な塩分である。
「ほら、あそこ」
ヴァンの指さす方向に、その木の実はあった。見た目はシュガースポットに覆いつくされたバナナのようだ。獣に狙われる訳でも無いのに、保護色のような焦げ茶色のせいで見つけづらい。
「ん~……、ああ、あれか。【
「あの距離だとちょっと難しいかな。あんまり遠いと座標決めるのが難しくて、正確な操作できないから。もっと上手になればいけると思うんだけど」
最近は医療系の魔法だけでなく色々と手を出し始めたヴァン。頭がいいだけあって要領よくどんどん魔法レパートリーを増やしている。
「ヴァンならそのうち出来るようになんだろ」
「採ってくる」
「待てスコール。俺にやらせてくれ」
最近体を鍛え始めたが、生かす場面が少ない。魔人の身体能力が高いのは承知だが、もっと色々と試し、正確な力量を図っておきたい。頭ではなく、体に覚えさせたいのだ。
幹から距離を取り、目標の実を定める。屈伸運動をし気合を入れ、呼吸を整える。姿勢を低く構え、幹に向かって一気に走る。速度は維持したまま地面を蹴り、幹を駆け上る。幹への垂直方向の力が無くなる前に飛び、一つ目の枝に蹴り上がる。が、思った以上に上昇してしまい、枝に捕まるどころか乗っかってしまった。慌てず姿勢を整え、着枝した際の反動で跳ね落ちないうちに体を捻り頭上斜め上の枝に飛び捕まる。そのまま勢いを利用し、鉄棒の蹴上がりの要領で上半身を持ち上げ、何とか実が届く位置まで登ることができた。
「さすがリオ」
「すごいすごい! リオ! やっほー!」
これが魔人の膂力か。日に日にその力が上がっている。咄嗟の判断能力や反射神経も半端ではない。生前の地球人の頃の記憶がベースになっているから、違和感が大きい。過大ではなく、過小し過ぎて怪我をする可能があるやもしれん。記憶に引き摺られないよう気を付けなければ。
目の前の黒三日月をもいだ。感触は超完熟バナナといった所。実が傷ついていないか確認し、下を覗く。ヴァンがこちらに手を振りながら嬉しそうに跳ね、スコールが尻尾をふりふりと振っている。
「スコールーー、落とすぞーー」
声を掛けるとスコールが半歩前に身を乗り出し、ヴァンが三歩後ろに下がった。
「ほいっと」
スコールに向け軽く放り投げる。ドンピシャでスコールの頭上に落下する実をスコールは見事にキャッチ……しようとした瞬間、小さな影が横から実をかっさらっていった。何だありゃ? 子猿か?
「!!」
実を奪われたと知ったスコールは怒りの混じった視線を逃げる子猿に向けている。歯を食いしばり、両手が地べたに付くほど姿勢を低く屈め、溜めた力を強烈なスタートダッシュへと変えて子猿へ向けて走りだした。俺はスコールが身を屈めた時点で枝から飛び降りている。無論、子猿を追いかける為ではなく、暴走するスコールを止めるためだ。
「スコール!! お座り!!」
「!?」
俺の大声にスコールはビクリと反応し、地面を踵で抉りながら急制止を掛け、文字通り膝を曲げ両手を地に着いたお座り状態で止まった。スコールが犬っぽいからという安直な理由で咄嗟に思いついて叫んだだけだったんだが、こりゃ使えるな。
「気付かなかった……」
耳と尻尾が垂れ下がり、悲しそうに、申し訳無さそうに落ち込むスコールの頭に手を置いて、ぐしぐしと撫でてやる。それでも俺が怒っていると思っているのか、情けない顔を見せるスコールに、今度は優しく撫でてやりながら、何がいけなかったのか問うてみた。
「スコール。黒三日月の採取量が思ったより少ないからといって、スコールの反応以上の速さで抜けていったあの子猿を追いかけることと、諦めて別の実を探すこと。どっちが労力と時間を食うと思う?」
「……追いかけること」
「正解だ」
「……せっかくリオが投げてくれたのに」
そっちかよ。ホントにワンコロみたいな奴だなお前。
「あの猿、尻尾に何か付いてたね。誰か飼ってるのかな」
観察眼に優れるヴァンは、あの素早い子猿の特徴まで捉えていたようだ。俺にはそこまで見えなかった。
「……どうして飼い猿だと思う?」
「えっと、尻尾の飾りもそうなんだけど、ほら、逃げてった方向。街に向かって真っすぐでしょ? だから誰か飼ってるんじゃないかなっておわわ!?」
驚き桃の木山椒の木。ヴァンちゃん、君がそこまで考えを及ばせていたとは。
「はっはっは、ヴァン。俺はますますお前の事が気に入ったぜ。今度うちに来て我が弟と妹を愛でていいぞ」
「り、リオのおうちってグランディアマンド城でしょ!? 僕みたいなのがお邪魔したら怒られちゃうよ!」
んな事ねえって。誘ってんのは王子の俺だし、親父の耳にも俺が誰とつるんでんのか周辺情報は入っている筈だ。駄目ならこうして一緒にいることも出来ないだろう。
「でえじょおぶだって。スコール、お前も来いよ。うちのお抱え料理長が作る料理は絶品だぜ?」
料理という単語に反応し、耳と尻尾が元気を取り戻した。
しかし、普段冷静だと思っていたスコールが暴走し、逆にヴァンの方が落ち着いて情報状況を把握するとはな。少し二人の性格を見直し改めよう。
第14話 『When The Abyss Gazes Into Me...』
「あんれまぁこりゃ驚いた。きっちり数揃えるとは思わなんだよ」
黒三日月を何とか規定数集めた俺達はミリヤムさんの元へ報告に向かった。特段苦労するような要素は無かったのだが、納めた黒三日月を見て少し驚いている。何ゆえ?
「いやさね? 最近黒三日月が市になかなか並ばなくて。手に入れるのにちょいと苦労してるのさ。だから数が少なくても全然構わなかったんだけど、こうしてちゃんと採ってきたからには、報酬は弾ませてもらうさね」
報酬は当初の倍近かった。これだけ受け取ってしまっても利益がでるということか。そこまで塩が枯渇してるのか? なんかきな臭えな。後で調べてみるか。
「他に頼みたいこととか、お願いとかはありませんか?」
「あんた達ホントに働きモンだねぇ。でも今は目ぼしいお願いはないさね」
「だったら、他に俺達に依頼してくれるような人紹介してくれないか」
「そうさね……ちょいと心当たりがあるから、聞いてみるよ。明日またおいで」
「……。暇」
「どうしようか。まだ時間はいっぱいあるし。誰か困ってる人とか探してみる?」
二人の中に解散するという選択肢は無いらしい。ヴァンが提案するのは依頼主を自ら探そうという、まるでサブクエスト探しのような案だ。
「ああそうだそうだ。そろそろ"あれ"が出来上がる頃だ。取りに行こう」
俺の“あれ”という単語に反応し、二人が目を輝かせた。期待していたのは二人も一緒だ。果たしてどんな感じに出来上がったのやら。
「うわぁっ! おっきな本だね!」
「でっかい本。でっかい冒険いっぱい書ける」
住宅街の角にある小さな本屋に特注で作らせた本。表紙は黒い鞣革を重ね縫い合わせ丈夫に作られ、中は繊維が殆ど見えない高級羊皮紙。厚みは腕程もあり、大きさは両腕に抱えたヴァンの胸元から腹までをすっぽりと隠してしまうぐらいだ。皮の独特な香りにスコールがふんふんと匂いを嗅いでいる。
「本の題名はまだ決めてない。そのうちいい名前が決まったら彫って貰おう」
「えへへ。どんな文章がいいかな? 日記風? 旅行記風? やっぱり小説風かな? 楽しみだなぁ」
読み手にどんな風に伝えるのかはヴァン次第だ。どんな冒険譚が描かれるのか。ヴァンの表現力に期待するとしよう。
次の日の朝。ミリヤムさんが紹介してくれた依頼者が住む場所は、工業街第七通り沿いにある宝石店だった。
「爬人に獣人、そして魔人の三人組。てめえらがミリヤムさんが言ってたチビッ子冒険者か。何か頼りなさそうだな。ホントに依頼こなせんのか?」
ミリヤムさんの紹介に預かった職人、オレーシャさん。容姿は典型的な岩人族の女性。癖のある茶髪に褐色肌、小柄で筋肉質。肩に担ぐデカい金槌がこの人の性格を体現しているようだ。ぶん殴られねえかな?
「で? 魔人の坊主。てめえが親分か?」
ヤクザのように眼付けながらオレーシャさんに見下ろされる。首を横に振って否定し、一歩後ろに下がってヴァンを指さした。ヴァンは目を丸くし、面倒を擦り付けた俺へ抗議の声を上げようとした瞬間、オレーシャさんがヴァンの頭をがっしりと頭を掴み、互いの顔が引っ付きそうなほど引き寄せ、鋭い視線でヴァンを睨んだ。
「いいか? 今回てめえらの話を聞いてやったのはミリヤムさんが紹介したからだ。あの人には色々と世話になってっからな。だけどな、依頼は依頼だ。中途半端な気持ちで受けようってんならとっとと帰んな」
あらら。俺らをどういう風にミリヤムさんは伝えたかは知らんが、初印象はあまり宜しくないようだ。職人というものは堅気で気難しい人が多いというイメージがあるが、この人も例に漏れないのか。
「い、依頼」
「あぁ?」
「依頼、内容は、何ですか。何をすれば、いいですか?」
頭を押さえつけられ、威圧的な態度に怯みながらもヴァンは負けじと踏んじ張った。最初に出会った時より肝が据わってきたな。
「は! そこそこ根性はあるみてえだな。んじゃ今度は行動で示してみな。枕の森の南側にアドラン湖って名の湖がある。そこで“真珠海老”を十尾捕まえてこい。今から行けば丁度陸に上がってる時間だ。真珠海老は結構すばしっこいから簡単に捕まえられると思うなよ。おら行ってきな!」
俺らを振り向かせて三つの背中をバシンと叩いて押し出し、オレーシャさんは扉の向こうへ引っ込んだ。と、思ったらまた扉が開いた。
「そうそう、ついでといっちゃなんだが、“尾手猿の子供”を見かけたら……まあ捕まえんのは無理か。とにかく教えろ。いいな」
それだけ告げると再びバシンと扉を閉めた。……もう開かなそうだ。
急な展開に大きく息を付くヴァン。スコールはいつも通り。
「荒々しいちゃんネーだったな」
「はぁ……何で僕が親分なのさ。どう考えてもリオが親分じゃないか。実際王子様だし偉い人でしょ」
「偉いのは俺じゃなくて親父。俺は血筋が生んだ地位にあやかってるだけだ。……そんな顔すんなって。ヴァンのおかげで無事受注できたんだ。もっと嬉しそうにしろよ」
「よく言うよもう。怖かったんだからね?」
頬をぷくっと膨らませてちょっと怒るヴァン。お前、ホントは女の子だろ。可愛すぎんよ。その出来たてのお餅のように柔い頬を突っつくとプープー息が漏れた。
「アドラン湖……行ったことある」
「なら場所を確認する必要は無いな。出発すんぞ」
プチおこなヴァンの背を押し、俺達はアドラン湖へ向けて出発した。
「しっずか~なこっはん~のもっりのかげっから~♪ おっとこ~とおっんな~のこっえが~する~♪ いや~~ん♪ ばか~~ん♪ そこ~はだ~め……うおおおおっ! 捕ったどー!!」
転がるミラーボールのような物体をル○ンダイブでとっ捕まえる。体を半分出した青い海老がワキワキと足を蠢かせた。
貝は殻の中に石等の異物が入り込んでしまった時、異物が身を傷つけないようカルシウムの膜で覆う。長い年月を掛けて何度も何度も膜を被せ、やがて白い球となったそれを磨き加工し、俺達は真珠と呼び宝飾品として扱っている訳だ。
真珠海老も同じで、自身の身を守るために体、正確には腹の部分をカルシウムで覆っており、成長と共にその真珠の家も大きくなる。貝の死骸である殻を宿にするヤドカリとは似て非なる甲殻類だ。
生息地は暖かく水辺があれば海にでもどこにでもいるが、宝飾品としての価値がある真珠を作る真珠海老は奇麗な湖を住みかとする個体のみ。海辺に生息している海老が作った真珠は、不純物を含み過ぎているので価値がガクンと落ちる。ただ、大きさが海水育ちと淡水育ちで全く違うらしく、湖で見つかったもので一番大きな真珠が拳大なのに対し、海では巨岩と言える程の怪物レベルにまで成長した個体もいるらしい。おっかねぇ。
「捕まえた。三尾目」
「僕は四尾捕まえたよ。でもスコールが捕った奴の方が大きいかな。……ねえ、スコール。その真珠、何でそんなにトゲトゲしてるの?」
「分かんない」
特徴的なのはその形。俺が今持っているように正三角形の正多面体の形をしていたり、サッカーボールのような模様がついた真珠もある。スコールが見つけたものは作った真珠海老の発想がぶっ飛び過ぎていて、も○っとボールのような形をしている。逃げるとき引っかかって邪魔だろうに、何故?
「俺とスコールが三尾ずつ。ヴァンが四尾で計十尾。依頼目標達成だ」
「黒三日月を見つけるより簡単だったね。確かにすばしっこかったけど」
「甲羅干しならぬ真珠干しで陸に上がるからな。湖ん中に逃げられたら追うのは無理だったが」
縦横無尽に逃げ回ろうとヴァンの視界からは逃れられないし、俺とスコールの速さには勝てなかったようだな。
「……これ、食べられる?」
「真珠海老は身が少ないけど珍味だって話だ。真珠から引っこ抜いたらベルスさんに料理して貰おうぜ」
そう言えば早速帰ろうと急かすスコールに、ヴァンと共に苦笑した。
木漏れ日が心地よい森の中。帰り際、ヴァンがあっ、と洩らし、思い出したと手を叩いた。
「そういえば、オレーシャさん、尾手猿の子供がいたら教えてくれって言ってよね?」
「聞いた事ねぇ猿だよな。名前から察するに、尻尾が手のようになってる猿だが」
「その猿ね、昨日みた猿がそうかも。黒三日月を尻尾で器用に掴んでたから、多分そうじゃないかなって」
「当たりだな。捕まえろじゃなくて教えろって言ってたから、昨日見たって報告……どうしたスコール?」
立ち止まったスコールの耳がピコピコと動き、突然振り向き俺を見つめた……訳では無く、俺の後ろにいる何かを見つめている。振り向くと、べちゃりと何か毛むくじゃらの物体が顔に張り付き、視界が真っ暗になった。
「……お猿さん」
「……昨日見かけた猿と一緒だね。尻尾が手みたいになってるし。尻尾、というか尾手に着いてるのは、指輪だったんだ」
呑気に俺の顔にしがみつく猿の分析をするヴァン。見えねえからよく分かんねぇが、尻尾が手の様に俺の首に巻き付き、がっちり襟を掴んでいる。取り合えず引き剝がそうとしたが、尾手猿は俺の顔にべっちょり張り付き、離れようとしない。
「フゴフゴ、フモモモ(取り合えず、帰るか)」
……何だよ。俺がもごもご喋ってんのがおかしいのか? 二人は何も言わない。
「フゴゴ? フゴフゴ?(おい、どうしたんだよ)」
「あ……し……あ……あ……し、ろ……」
ヴァンの声が小さくて聞き取れない。耳は塞がれてないんだが……なんか様子がおかしいな。
「ああああああああああああ!!? リオおおおお!! 後ろおお!! 後ろおおおおおっ!!」
今まで聞いたことのないヴァンの悲痛な叫び声。ざわつく肌。跳ねる心臓。後ろを振り向こうとし
体が宙を舞った
「……え? じゃあ、あのチビッ子共、いつも悪戯ばっかしてるあの三人組じゃないのか?」
「そりゃフェリクス達の事さね。アタシが説明したのは王子様と、ヴァンちゃんと、スコール君の三人組。あの悪ガキ共と比べちゃ駄目だよ。月とすっぽんさね」
「お、おぉお!? 王子様だああぁ!? あわわわわっ!! アチキとんでもねぇ態度取っちまっただぁぁぁっ!」
「その程度で怒る王子様じゃないけどね。寧ろ、立場を利用してあっちこっち引っ搔き回して楽しんでる分、フェリクス達より質が悪い困った王子様さね。まぁでも、フェリクスも色々抱えているからねぇ……」
工業街第七通りにある井戸の傍で、オレーシャは頭を抱え膝を地に付き、ミリヤムは腰に手を当て呆れ返った溜息を吐いた。確かにやたら目立つ魔人の子がいる三人組だと言いはしたが、まさか中央街の悪戯小僧達と結びつけるとはミリヤムも思ってなかった。この際だから王子様だとばらしてしまったが、リオは森人族の血も混じっているのでその特徴を言えば済んだ話だったとミリヤムは説明不足を少し反省した。
「おい、それマジか」
「ああ。這う這うの体だが、何とか逃げ果せたから大丈夫だってさ」
「階級は何だって?」
「“ウルレイト”の獣型だってよ。ここ最近あの辺じゃ見掛けなかったからな。油断しちまったんだろう」
二人の近くで何やら物騒な話をする男達。ミリヤムは気になり、蹲って神に懺悔するオレーシャを放り置き話を伺った。
「なあそれ。何の話だい?」
「ん? ああミリヤムさん。“
男の一人、ミリヤムの店の常連客が答えた。その言葉、枕の森という単語に強く反応し、飛び上がり青い顔をするオレーシャ。
「ま、枕の森!? おいそれホントか!? ホントにホントなのか!?」
男の胸倉を掴み前後に揺するオレーシャ。男はホント、ホントだよと答えるがオレーシャは揺するのを止めない。ミリヤムはオレーシャの手を掴み抑え込んだ。
「どうしたってんだいそんなに慌てて。……ねぇ、嫌だよ。まさか、王子様達が行ってる場所ってのは……」
「あ、アドラン、湖……。枕の森の、南側……」
その生物は獣をかたどった巨大な赤黒い生物だった。木の幹のように太い足が大地を踏みしめ、凶悪な爪が草木を割き、鬣のように見えるその背に生えるモノは剣山のように鋭く、口からはみ出す剣のような牙の隙間からは瘴気が漏れ、縦に裂けたどす黒い瞳が立ち竦む二人の子を捉える。
「あ……あ……あ……あ……」
「……っ」
ヴァンは自身の周囲に漂う強烈な殺意に精神を絡み取られ、意識が朦朧となる。対してスコールはその悪意に満ちた重圧に何とか抗い、辛うじてその生物を睨みつけていたが、彼の頭の中は混乱し、何をすればいいのかと必死になるも、何一つ答えは出ない。
赤黒い生物は二人を見据えると更に殺意を溢れさせ、その意のままにヴァンとスコールの命を刈り取ろうとその前足を振りかざす。その瞬間だった。
「フモモオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」
突如、茂みから弾丸のように赤い影が飛び出し、その生物の脇腹と思われる箇所に鋭く突き刺さった。その巨体が浮かぶ程の強烈な攻撃に生物は驚き、赤い影から距離を取る。
「フウ!! フモモモ!! フゴフゴ!? フゴゴゴ!!」
何やら赤い影は怒りの声を上げているらしいが、顔に張り付いた猿がその声をくぐもらせている。張り付いた猿をベリリと何とか剥がしたが、首に巻き付いた尻尾が離れない。後頭部へとぐるりと猿を移動させ、手を放すとべちんと再び張り付いた。
「こんのダボがぁ……俺の一張羅に傷つけやがって……。その口ん中に手ぇ突っ込んでぇ! 奥歯ガタガタ言わせてやるっ!!」
リオは片足を地に叩きつけ、“
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