第15話 『I Gaze Into The Abyss』
さて、まさかこうして
「ヴァン、こいつの階級と名前。俺が前に持ってきた図鑑に載ってたか?」
「あ、あ、え、えと、た、多分、ウルレイト。“ウルレイトライガー”……だったと、思う」
ウルレイト……上から五番目か。相対禁止、一般人は手出し禁止とされる
「リオ……逃げなきゃ……逃げようよ……」
「いんや、逃げねえよ。つうか逃げらんねぇ。スコールより早いこの猿を追っかけてきたような奴だ。背中を見せた途端に八つ裂きにされっぞ」
八つ裂きという言葉に何を想像したのか。ヴァンの顎が震え、カチカチと音をたてる。スコールも萎縮し、足が震えている。
……分かってたことだろ、リオスクンドゥム。責任は全て俺にあるって言ったじゃねえか。俺は死んでもいいが、二人が死ぬのは許さないなんて、虫のいい考えなんかすんな。本当に我儘なら、全部なんとかするんだよ。
二人に気を掛けながらもライガーから目を離さないようにしてるが、俺を警戒しているのか、様子を窺っていて殺意だけがピリピリと飛んでくる。多少の知能はあんのか。そんでもってやることが殺戮たぁな。とんでもねえ。あぁ、とんでもねえこって。もうちょっとで依頼達成だったってのによ。
「……なあ、ヴァン、スコール。今日もホントに楽しかったよなぁ」
空を見上げる。木々の間から何処までも続く青空が見える。雲一つ無い青空だ。太陽が眩しい。
「ここまで最高だったぜ。俺達が出会ってから今日まで、完璧だった」
二人に笑いかけた。どうだ? 俺は今、狂っているように見えるか?
「これからもそうさ。俺達の冒険が、あの作り立ての分厚い本に描かれる。興奮と輝きで、埋まってくのさ。だが……こいつを見ろ」
その通りだ。俺は今、狂っている。心の底から、怒り狂っているのさ。
「こいつは俺達を生きる為に殺す訳でも、理由があって殺す訳でも無い。ただ目の前のモンをぶち壊すだけの、ふざけた野郎だ」
二人が深淵体を見た。そうだ。こいつが俺達にとって、どれ程うざったい奴なのか理解しろ。
「分かるか? こいつは俺達の冒険を、人生を汚す下衆だ……俺達の本に濁った墨を垂らす、汚え染みだ!」
俺の言葉に、ヴァンの顔が歪む。そうさ。ヴァンは逃げない。臆病者のように見えて、オレーシャさんに脅された時にその片鱗を見せた、今も成長し続ける、いざという時のその心の強さ。
スコールが歯を向き小さく唸る。そうだ。無表情でも、その心は感情豊かで、仲間思いで、激情家だ。俺とヴァンを殺そうとするコイツに、スコールは激怒している。
「許せねえよなぁ……ああ許せねえさなぁっ! そうだろ! ヴァン!! スコール!!」
二人の闘争心を煽る。俺の怒りが伝播し、いつしかヴァンの顔から恐怖が消え、ギラつく瞳が敵を見据え、スコールは歯軋りが響くほど食い縛り、両手を地に食い込ませ戦闘体制に入る。
「行くぜ!! こいつを叩き潰すぞ!!」
俺は重心を低くし、全方向に何時でも動けるよう構えた。
第15話 『I Gaze Into The Abyss』
俺達が戦闘する意思を見せても、ライガーは特に様子を変えない。変えないとは、俺への警戒は解いていないという事。俺をすっ飛ばし、その後ヴァンとスコールに襲い掛かろうとしたのは、最初の攻撃で俺を仕留めたと思い込んでいたか、反撃があっても十分対処出来るほどの自信があったからか。どちらにしろ、それらを否定するかのように俺の攻撃はライガーに通用した。こちらがこんなにも隙を見せているのに仕掛けて来ない。奴がこちらを過大評価し、最大限の力を出せずにいる今が好機。短期決戦だ。
「スコール! 俺が撹乱する! 常に動き回って奴が隙を見せたら強烈なモンぶっ込め! 但し一撃離脱だ! 追撃はすんな! ヴァンは常に後ろに下がって、準備出来次第魔法を頭か足に放て! 術は何でもいい! 前に出過ぎんなよ!」
俺とヴァンは初戦闘。スコールは経験者と言っても、先程の様子からして恐らく、これだけの怪物は相手にしたことは無い。単純な命令だけ下す。先の通り、こちらの気合が最高潮に高まっている今のうちに決める。
二人はまだ選択の時じゃない。俺が勝手に二人を引っ張り回しているだけだ。だから俺が常に危険に、死に一番近い所に体を晒す。死んだらゴメンな、親父!
懐に忍ばせておいた石を取りだし、駆け出すと同時に投擲。まだ俺を警戒しているライガーは、恐らく避ける。さっきは右のどてっ腹に蹴りを入れた。俺から見て右に回避する筈。
「!!」
案の定右に避けたなっ。
「チェストオオオオッ!!」
最初に着地した右前足に全力で飛び蹴りをぶちこむ。ライガーが体制を崩した。今だスコール。
「っ!」
スコールはちゃんと俺の意図を読んでくれた。反対の腹に、スコールの【
「オラアッ!!」
「グルゥッ!?」
鳩尾を蹴り上げた。苦悶の声を上げるライガー。体の構造は普通の生物と一緒か。つうことは急所も恐らく一緒。摂食も繁殖もしねえのにどういうっ、ぐあっ!?
「リオ!?」
「防いだ! 問題ねぇ!」
突然後ろ足を縫って尾が伸び、俺を股下から叩き出した。槌で殴られた見てえに重い攻撃だ。両腕が痛みで痺れ、脇腹に鈍痛が走る。
「ゴガアアア!」
飛び掛かるライガーに対してその場でしゃがみ、力を貯める。視界の外で全身に【
「ガボアアアアア!」
痛みで鳴き、大きく後ろへよろけるライガー。
上手くいった。上手く行き過ぎだ。欲を言えば更に追い討ちをかけたいが。
「スコール、【
「フ……フ……小さいの三。大きいのなら……一」
「ヴァンの魔法は?」
「はぁ、はぁ。さ、最初に使ったのなら四回、大きいのは、はぁ、多分二回」
心もと無い上に、決定打が無い。二人の消耗も大きい。さっきの連携がまた上手くいったとしても、恐らく倒しきれない。
だが、ここで倒さなければ、俺達の冒険は“終わり”だ。なんとしてでも、せめて撃退ぐらいには……
「グルッ、グルルッ、グルルルル!!」
……そうだよな。そりゃ高望みし過ぎだ。こいつは生物を殺す為に存在する。撤退等という二文字は無い。
口から体液らしき黒い液体を足らすライガーは傷だらけの頭を持ち上げ、大きく息を吸い込んだ。
「!? マズい!! ヴァン! スコール! 下がれ!!」
あれは、何か嫌な予感がする。出来る限りの力で後ろに飛ぶ。数瞬前に俺がいた場所一帯に、ライガーは黒い瘴気を吐き散らした。効果は……草が枯れた。毒ガスか!
「うぐっ!? えほっ! ゲホッ!!」
ちぃ、ヴァンが逃げ遅れた。ガスを吸い込み、うずくまってしまった。
「ガアアアアアアッ!!」
ド畜生! ヴァンを仕留める気か!
「させるかああああ!!」
ヴァンの前に駆け、ライガーの両牙を掴み、ふんじばる。止まれやオラァ!
「ガル! ガルル!」
ライガーは俺を噛み砕こうと顎を激しく鳴らす。握りしめる指が、鋸のような牙で千切れそうになるが、離さねえぞっ。
「り、リオ……エホッ、エホッ」
「動けるか!?」
振り返りヴァンを見れば、【
視線をライガーに戻し……クソ、目を離したのは失敗だ。またさっきのブレスが飛んでくる。
「スコール!! ヴァンを連れて下がれ!!」
スコールは再び【
すぐ目の前で渦巻く瘴気。逃げられない。黒い焔が零距離で直撃する。目の前が真っ暗になった。
……この感覚は何だ? 確か前にも経験したことがある
……そうだ あの時と同じ 死だ 俺は、“殺される”
……殺される? 誰にだ? “お前”か? お前が俺を殺すのか?
……っは、冗談よせよ
殺すのは、俺だ
黒い世界が真っ赤に染まった
「はぁ! ゴホッ、ケホ、ふう」
「……ヴァン」
「ぼ、僕は、なんとか、大丈夫。それより、リオが……」
【
やがて風に流され瘴気が晴れた時、そこにいたのは先程と変わらず、リオとウルレイトライガーが押し合っている姿であった。
「……調子に乗りやがって」
リオは生きている。その事に安堵すべき。しかし、二人はそのリオの言葉からライガー以上の殺意を感じ取り、ヴァンは呼吸が止まり、スコールは全身の毛が逆立った。
「グル、ルルル!」
ライガーは自身が気圧され、しかも目の前の小さな生物が自身と同じ、それ以上の力で体を押し込まれ初めていることに気付いた。地に深く爪を立て、負けじと押し返すが、段々とリオの力は増していく。
「!」
リオが反撃に出ようとしていると気付いたスコールは、残った魔力を全て【
『頭か足に放て!』
ヴァンはすぐさま足に狙いを定め、全魔力を消費し、最後の一撃を放つ。
「【
強烈な風は幾本もの鋭い刃と化し、左前足をズタズタに裂いた。
「……【
限界まで引いた己と言う弦を、自身も顧みず解き放つ。一本の巨大な矢と化したスコールは真っ直ぐ飛び、固く握った両手の拳が叩き込まれた。
「グボオオオオオッ!!」
足を切り裂かれ、重い衝撃を受け大きく体制を崩したライガー。それを待っていたと言わんばかりに、リオは力を爆発させる。体を大きく捻り、地面に両足がめり込む程踏み込み、自身の体の何倍もあるウルレイトライガーの体を、なんと持ち上げてしまい、強く大地に叩きつけた。その衝撃でライガーの鋸のような片牙は折れ、リオはその鋭利な牙を、
「ガアアアアアア!?」
右目に突き刺した。激痛に悶えるウルレイトライガーだが、リオは残った牙から手を離さない。刺した牙を引き抜き、今度は残った左目へ突き刺した。
「ッッッッ!!?」
とうとう視界を失ったライガーはなりふり構わず大暴れし、頭を大きく振り回すが、それでもリオは離さない。
「お前の負けだよ」
リオは振り回される反動を利用し、右膝を蹴り入れライガーの顎を砕く。支えを失った顎はだらりと開き、リオはその手に持つ牙を持ち替え口内上顎に突き入れる。深々と刺さる牙は、脳に達する。
「!! ……」
「くたばれ」
手を離し着地するリオに、とうとう動かなくなったライガーが倒れ掛かる。それをリオはとどめとばかりに、上段回し蹴りで頭を蹴り飛ばした。
ウルレイトライガーは見を崩し、地響きがヴァンとスコールの鼓膜を揺らした。ライガーを見下ろすリオの姿に、スコールは安心し意識を失う。ヴァンも同じ気持ちだったが、遠のく意識の中、何故かあの黒い裂けた瞳が、自身を見たのを感じ取った。
辛勝、なんてもんじゃねえな。運が良かっただけだ。
……俺の中に漲った正体不明の“力”が、俺達を救った。突然空の器に注ぎ込まれたかのように俺を満たし、限界以上の力を俺に出させた。今はまた空っぽになっちまったが、使い切ったって感じより、流れ出てったと言った方が正確か。
以前ミランダが言った『ぽっかりと穴が開いている』に、この力が関わっている可能性が高い。魔力か、それとも別の“何か”か。発動条件は今の戦闘で間違いないが、切っ掛けが何なのか。死を予感したからか? それとも……あぁ駄目だ。頭回んね。体中痛えし。僕もう疲れたよパト○ッシュ。
「そういや口ん中に手を突っ込みはしたが、奥歯ガタガタはいわせらんなかったな」
顎砕いちまったし、俺も疲労で腰砕けだ。その場でどっかりと座り込むと、目の前に全身黒いフードを被った男が現れた。やっぱりあんただったか。護衛を下がらせたのは。
「今日は兵士に捕まらなかったのですね。父上」
「……何のことかな?」
とぼけやがって。俺が初めて街に降りた日、中央街で取っ捕まってたじゃねぇか。
「それよりも、だ。試すようで悪かった。本当はお前達が見事な連携を見せた所で十分だと思ったんだが……」
「はっはっは。久しぶりだな、リオよ」
親父の隣にすっと現れた爺ちゃん。あーあ、親子三代揃いも揃って職務放棄だよ。よくここまで国が持ったな。もう王政じゃなくていいだろ。
「申し訳ございません、リオ様。すぐお助けに入ろうとしたのですが……」
「リベルタス様が、その……」
爺ちゃんと同じくささっと現れたディードさんとヴィアンさんが俺の元へ傅いた。もう王じゃないくせに
「お前が“深淵の焔”を浴びた時は肝っ玉を冷やしたぞ。あれは生物に害ある呪いが数十種類混じった非常に危険な瘴気だ。リンドヴァーン君は【
「む。実の父親に向かってジジイとはなんだジジイとは」
「黙れ子不幸者」
そんな超おっかねぇもん食らったのかよ俺。俺が冒険者としてやっていけるか測るのはいいとしても、未経験者にはキツ過ぎやしないか?
「それで、御爺様の目から見て、僕は合格なのですか?」
「勿論だとも!!」
爺ちゃんが俺を持ち上げ、嬉しそうにクルクルと回る。脇腹痛えんだけど。
「仲間の即座な役割配置。敵の行動推察と情報の蓄積。危機回避判断。どれをとっても素晴らしかったぞ」
「ですがヴァンに気を取られて目を離したのは失策でした。そうでなければ、あの瘴気から逃げ切れたはずです」
「そこまで分かっていたのか? いやはや、こりゃとんでもない神童だなリオは。っと、呪いの類は……はっはっは! やはり問題ないな!」
俺を下ろし、魔法陣を展開して状態を見る爺ちゃん。問題が無いのは、“さっきの力”の恩恵か。
「……エホン。いい加減にしろジジイ。こうして子供達が無事だったのはツキに見放されなかっただけだ。いつ死んでもおかしくなかったのだぞ」
「な~に言っとるんだ。リオがこの程度の
「(ピキッ)抜けジジイ。たたっ切ってやる」
「やるか泣き虫。ちゃんと剣を振るえるのか?」
もう面倒くさいから爺ちゃんと親父は無視しよ。ヴァンとスコールを診るヨーナスさんの元へ寄る。
「二人は?」
「命に別条はありやせん。スコール君は手足が炎症を起こしていやすが、すぐ直りやす。ヴァン君もあっしが見た感じ、呪いの類は残っていやせん。でもほんとに運が良かったですよ。【
つくづく天が味方してくれたようだ。一息つきたいところだが、後ろでガンガンドンドンと親父達が五月蠅い。ここじゃゆっくりできやしねぇ。
「ああそうだ。二人をエイスクレピア診療所に運んどいてくれ」
「ヴァン君の父親さんがやってるとこですね」
「ああ。今回の件はかなり問題になりそうだ。最初から関係者の元にいた方がいい。スコールの両親も呼んでくれ。俺が全部話すっとと」
足から一瞬力が抜けた。あんな派手な戦闘してりゃ肉体も精神も削られるか。初経験だし。
「……リオ様、結構限界なんじゃないですかい?」
「平気だ。体に鞭打ってでも行く」
我儘だからな。最後まで貫き通すさ。
「分かりやした。ディード! 手伝ってくれ!」
ディードさんとヨーナスさんは二人を抱え、飛ぶように街へ戻った。やっぱ兵士となるとそれだけ力もあるし、素早く動けるか。後ろを見れば、目に見えない速度で剣を振り合い、打ち合う合間に魔法陣まで展開しじゃれ合う親父と爺ちゃん。二人ならウルレイトライガーを一撃で仕留めるんだろうな。
改めて倒した
謎が多い存在だ。“死ぬと普通の生物に変体”するなんてな。生物は死ぬとあの世に行くと言うが、コイツらは殺すとこの世に来る。なんてな。
……俺も似たようなもんか?
「全く……あの糞ジジイ」
親父が悪態をつきながら隣に立ち、体は平気かと労いながら俺の頭に手を置いた。素の親父は言葉遣い悪いんだな。
「御爺様は何処へ?」
「アローネに城へ連れ戻された。倉庫に置かれたジジイの怪しい物品に使用人達が困っているから何とかしろと」
あぁ、あの埴輪みたいなキモい人形のことだな。触るとキェーって耳障りな悲鳴を上げるやつだ。あれ呪いが掛かってるとかなんとか。
あ、そっか。爺ちゃん、俺に呪い効かねぇの分かってたから止めなかったのか。
「私達も城へ帰るぞ。後始末は他の者に預けろ」
「まだです。ヴァンとスコールの両親に、今日のことを話します」
「それも手配する。お前は帰って傷の手当てを……」
「それに、まだ二人に礼を言っていません。二人は僕の為に戦ってくれました。僕達の戦いを、最後の最後でかっさるつもりですか?」
「……疲労困憊で立ってるのもやっとだろうに、親の心知らずな仕方のない息子だ。奔放さは祖父譲り。頑固さは母譲り。少しは私の性格ぐらい持ってくれたっていいだろう」
三百歳の大人が何拗ねてんだ。
「持っていますよ」
「何をだ?」
「身内が傷付く事に、我慢出来ません」
正確には、俺のモンが、だが。
「……早く行って来なさい」
今度は恥ずかしがる親父だった。
悲鳴を上げるあんよをひいこら引きずり、何とか診療所まで辿り着いた。ああ~意識飛びそ~。
「申し訳ございません、本日の診察は……っ!? リオ君!?」
「こんにちは、マーリオンさん」
「挨拶はいいから、早くあがってリオ君。ボロボロじゃない」
俺を見て慌てふためくマーリオンさんに抱えられ、診察室に連れていかれた。そこには、両手足に包帯を巻かれすやすやと眠るスコール。その傍らに立つのはスコールの両親、リーマスさんとメリッサさん。外傷は無いが、同じく静かに眠るヴァンを、ヴェンツェルさんは魔法で診察している。部屋の端で、ディードさんとヨーナスさんが静かに佇んでいた。
「……呪いの類は残っていない。健康そのものだ。うちの息子より……あぁリオ君、ヴァンもスコール君も支障は……っ!?」
「どうも、お邪魔してます。ヴェンツェルさん」
ヴェンツェルさんは俺を見るなり走り寄り、瞼を広げたり、服を剥いだり肌を押したりと、頭からつま先まで素早く俺の状態を確認し、わなわなと震えた。
「リオ君が……リオ君が一番重症じゃないか!! どういうことだそこの兵士二人!! 君達は飾りか!!? その腰の剣は誰の為にあると思っているんだ!!」
激怒するヴェンツェルさんに、言い返す言葉も無いと目を閉じるディードさんとヨーナスさん。仕方ないよなぁ、爺ちゃんが止めんだもん。
「ヴェンツェルさん、僕は平気ですから。二人を責めないで下さい」
「リオ君には悪いがこれが責めずにいられるか! 考える事すらおぞましい。深淵の焔を全身に浴びたのだろう? 耐え難い苦痛だったはず。生きているのが不思議なくらいだ」
「!? それは本当かリオ様!」
「大丈夫ですかリオ様? 痛いところはありませんか? 辛くはないですか? お腹は減っていませんか?」
俺を心配し過剰に反応するファンレロ夫妻。メリッサさん、俺はスコール程食いしん坊じゃないですよ? またポケットからお菓子がポロポロ落ちてますよ?
「先程、何があったのか全てお話しますから、皆さん聞いていただけますか?」
そう言うとようやく全員落ち着いた。よかった、もうあんま起きてらんなかったんよ。
「……信じられん。リオ様と、ヴァン君と、スコールの三人だけでウルレイト級を仕留めたのか」
説明し終え暫く沈黙が漂った後、最初に口を開いたのはリーマスさんだった。
「それもライガー。数あるウルレイト級の中で最も獰猛と言われる
「本当だよ」
「リオ、すごかった」
いつの間にかヴァンとスコールが目を覚ましていた。
「ヴァンっ」
「ヴァン、体に痛みとか、変な感じがするとかは無い?」
「うん。全然平気だよ。疲れてるだけ」
「手足は問題無く動かせるかスコール?」
「スコール、お腹は平気? ご飯は食べられる?」
「動く。お腹減った」
二人とも元気そうだ。スコールは包帯が痛々しいが、貰ったお菓子をモリモリ食ってるとこを見るに、心配は無いようだ。
「ヴァン、スコール」
二人を呼ぶ。これだけは、どうしても言っておきたかった。
「……ありがとな。お前らが居てくれなかったら、俺の冒険はあそこで終わってた」
そう。俺一人だったら護衛に助けられて死にはしなかっただろうが、国の外へ出ることは禁止されたはずだ。二人が俺の我儘を支えてくれた。
「違う。皆のでっかい冒険」
スコールが首を振って訂正してきた。
「はははっ、そうだよ! 僕達三人揃っての冒険でしょ! リオだってそう言ったよ!」
……そういやそうだ。っとにしょうがねえな俺も。こいつらだってあんなにガクガク震えてたってのによ。
「ああ、そうだな。その通りだ」
認めてやるよ。もう二人とも、俺の人生に随分食い込んでんだって。
「でも、今日は失敗しちゃったね」
「そうだよチクショー。後はもって帰るだけだったってのによ。あの糞ライガー、マジで俺達に汚点垂らしやがった」
「……ざんねん」
「しょうがねえ。命あっての物種だ。本に書く最初のモンが失敗ってのは残念だが、それもまた乙があって……」
「……リオ?」
背中がやたらともこもこする。手を突っ込んで引っ張り、出てきたのは、
「お猿さん」
すっかり忘れてた。ていうかお前無口だな。うっきーぐらい言えよ。
「あ!? リオリオ! その尾手猿が尻尾に持ってるの!」
「ん? おいおい、まさか」
寝台からヴァンとスコールが飛び起き尾手猿に近寄り、尻尾にぶら下がる袋を見つめる。
「返して貰える?」
ヴァンが優しくお願いすると、尾手猿はヴァンの手のひらに袋を置いた。二人が袋の中を覗く。
「一、二の……八、九、十! ちゃんと全部いるよ!」
「リオ」
「ああ」
いやはや、まさかこんなどんでん返しが待ってるとはな。
「王子様達はいるかい!?」
診察室に飛び込んで来たのはミリヤムさん。と、その後ろでおどおどしているのは、オレーシャさんか。丁度いい。
「お、王子様! すまねぇ! ほんとにすまねぇ! あちきったらとんでもねえこと……あれ? ロヴィー?」
土下座しようとするオレーシャさんは、俺の肩に乗る猿を見て静止し目が点になった。やっぱりこの猿が探してる猿だったか。スコールに尾手猿を渡し、二人と肩を組む。
「ヴァン、スコール。報告だ」
「うん! オレーシャさん!」
「な、何だ?」
「真珠海老、十尾捕まえました!!」
「お猿さんも見つけた」
二人は袋と猿をオレーシャさんに差し出した。
「お……お、おう」
「クックック……あっはっはっは! 今日の冒険の〆は決まったな」
「大勝利」
スコールが満面の笑顔でVサインを大人達へ送る。最後に笑えんなら、こんな経験も悪くねぇな。
「そうだな。ヴァン、大勝利って丸々一枚にでっかく書いとけ」
「うん!!」
死ぬような目に会ったというのに喜ぶ俺ら。ミリヤムさんとオレーシャさんは何が何だかと困惑気味。ディードさんとヨーナスさんが顔を見合わせ静かに笑い、エイスクレピア夫妻、ファンレロ夫妻が、はしゃぐ息子達に呆れながらも微笑んでいた。
「もう無理。おやすみ~」
「リオ!?」
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