幕間 『Meteor』
「おーいティア! いつまで寝てんだーっ、大将達が迎えに来てんぞーっ」
まるで自分の耳元で呼び掛けているのではと思う程響く声に、ティアは重たい瞼を再び開けた。薄っすら記憶に残っている、天井の微妙に異なる光景が現実で間違いが無いのなら、これで三回目だった。昨日の晩、ベルスに店の開店前に起こしてくれと頼み、彼女のお願い通りベルスが声を掛けに来た時が一回目。二回目は朝食が出来たから起きろと体を揺すられた時。二度寝を超え、三度も寝なおしてしまった事を気にもせず、この国へ来てからすっかり見慣れてしまった天井を暫く呆けて見つめた。
これ以上の惰眠はいくらなんでも非生産的すぎる、と重力に逆らうことを嫌がる肉体を全勢力を持って起こしあげ、ティアは窓から街を見下ろした。既に中央街の往来は朝の忙しさを乗り越えており、道端で談笑する集団や、噴水に寄りかかり従者が家畜を休ませて水を飲ませている。少し視線を上げて見えたここ連日続く曇天の空のせいで気分が下がり、無理に起きなければよかったとティアは少し後悔した。
「お前、寝坊助にも程があるぞ。夜更かしでもしてたのか?」
部屋の入口から聞こえた声に気だるげに振り向くと、そこには赤い髪の少年、リオが手に水の入った桶を持ち、ボサボサになった髪を見て呆れたようにため息をついていた。
「そら起きろ。ここに座れ」
半覚醒状態の足元の覚束ないティアを化粧台の前に座らせたリオは、濡らした手拭いで顔を丁寧に拭い始める。冷えた手拭いが肌に心地よく、なされるがままに身を任せるティア。
顔から冷たい感触が消えると、今度は髪を軽く引っ張られる。鏡を見れば、リオが髪を鋤いている。元々うねり気味な髪が寝癖によって遊び放題跳ねているが、リオは櫛に引っ掻ける事無く丁寧に、時折香油のようなものを薄くつけながら伸ばす。頭皮を軽く引かれるような刺激は、まるで優しく頭を撫でられているかのようで、ティアは再び眠りの世界へ、夢の世界へ誘われた。
「終わったぞ。下で待ってっから、着替えたら降りて来いよ」
そう言って離れようとするリオの服をティアは掴んだ。どうして止めてしまうのか。この至福の一時を、もっと体感させて欲しい。何故なら、それはティアが赤子の頃より望んだものだからだ。
(もう少し甘えたい。頭を撫でて欲しい。触れて欲しい)
世界に生まれ落ちた者が得る温もり。それを与える父と母。だが父は、ただの一度と触れることの無くこの世を去った。唯一残った母だけが与えてくれる筈だったそれを、ティアは要求した。
「駄目だ。そのぐらいは自分でやれ」
『そんなことぐらい自分でやりなさい』
だが、拒絶された。過去の辛い記憶をなぞりながら、冷たい濁流のように悲しみが押し寄せ心を傷つけ、瞳の防波堤を崩し、流れ落ちてゆく。
「おい……はぁ、ったくよ。アリン! 来てくれ!」
凍るような水の中へ沈む感覚がティアを震わせていると、それに被さるように、顔中を何かが覆った。不思議な鼓動が頬を伝い、内から鼓膜を揺らす。また髪を引かれるような刺激が、今度ははっきりとしたティアの頭を撫でる感触が伝わる。ティアは目の前に確かに存在する温もりを掴み直し、離さないと強く握った。
「リオ、どうし……ぁ、えっと、あう、お取り込み……中、ですか?」
「……どこでそんな言葉を覚えたのかは聞かないでおく。ティアの服を着替えさせてくれ。もう子供同士だからって言える年じゃねえからな」
「リオはワタシの、全部見ました」
「見られたいならまた見てやってもいいぞ?」
「ぁぅぁぅ……恥ずかしい、です」
幕間 『Meteor』
街の外。乗り心地のいいとは言えない丸太に乗って、平原の真ん中を横切る。ティアの目の前で銀の尾をふわふわと揺すり、遠くを眺めているスコール。その首に提げられた鈍く輝く鍵が目に入った。
「スコール、ちょっとでいいから貸して?」
「駄目」
何度ティアが頼もうとスコールは鍵を渡す気は一切無いらしく、歯牙にもかけない様子だった。
亡き父が昔、親友と共に過ごしたという、現在リオ達と共に過ごす基地を開く鍵。それが父との唯一の接点とも言える場所の鍵と考えると、ティアにとっては喉から手が出る程に欲しいものであった。だが仲間達の帰る場所だと言い張り、それを守るのは自分だとまるで番犬のように死守するスコールを見て、さすがに奪おうとまでは考えなかった。
ならば早く起きてスコールよりも先に鍵を借りればいいと思いたったティア。偶然にも鍵を管理する場所は今間借りさせて貰っているベルスの店。圧倒的に有利だとティアは高を括っていたが、残念ながらティアは朝がひどく苦手だった。居眠りばかりしている祖父に似てしまったらしい。それでも以前一度だけティアにとって快挙とも言える程の早朝に目を覚ましたのだが、既にスコールが持っていってしまっていた。スコールが鍵を借りに来るのは何時なのかとベルスに問えば、日が顔を出す頃だと聞う。とてもじゃ無いがそんな時刻に起きることは無理だと、ティアは諦めることにした。
だが早起きはした方がいいかもしれない。今日は寝ぼけて見られたくない姿をとある男の子に見られてしまったからだ。
「だあああっ、きっつい。もう無理ポ、動けねぇ」
「んだよ、あと半分ぐらい根性で行けよ。馬車馬のように引くことだけ考えてりゃ行けるって」
「無茶言うな。腰をいわしちまうっつーの」
当の本人は気にしているのかいないのか。朝……と言うには少々遅い時間だが、その時の事を聞かず、何時ものように破天荒でいて全力だ。リオは体に巻き付けていた太いしめ縄を放り投げた。
ティア達五人を乗せた丸太の動きが止まる。リオが丸太を引くのを止めて草原に身を投げたからだ。いつも依頼をこなしその日を過ごすリオ一行。今日はアリネイアの祖父母からの要望で、備長黒木という木の一種を探しに森の中へ入った。特段苦労することも無くその木を六人は見つけ出し、石の様に硬い黒色のそれを何とか切り倒し、リオが鍛錬の一環と称して自分以外を備長黒木の大きな丸太に乗せ、一人で平原まで運んできたのだ。
魔法を一切使用せず身体能力のみをもってここまで運んだリオの力、と言うよりも激しい肉体の酷使という苦痛をものともしない精神力。ティア自身も竜化すれば恐らく運ぶことは出来るだろうが、そういった特別な能力も魔力もリオは持っていない。ベルスからもっと小さいの頃のリオの話を聞いたことがある。魔力が無い事で、同じ魔人族からはかなりの迫害を受けているだろうにも拘わらず、その事を笑い飛ばすほど芯の強い、どんな困難にも負けない心を持った子だったらしく、今もそれは変わらない。
起き上がり丸太を背もたれ替わりに座り直したリオに、アリンが水の入った革袋を渡した。一気に飲み干したそれを取ってまた新しい革袋を渡す。二シシシと笑うヤイヴァは自分の飲み水をリオの頭から全身に降り掛けている。頭から湯気を立たせるリオの姿にヤイヴァは面白がっているだけのようだが、アリンは濡れた上着を脱がし、リオの身体の汗を拭いてと甲斐甲斐しく世話をしている。
どうしてこんなにも彼を慕っているのか。以前、リオの事が好きだからなのかと問うたことがあったが、そうではないと首を振られた。では何故と改めたが、そういう存在だからとアリンは答えた。アリンの言葉の意味をティアは理解することが出来なかったが、背筋を伸ばしてリオのすぐ傍に佇むその姿が、年下の筈の女の子が、一瞬大人の女性のように見えた気がした。
「…………っ」
「
どうやらスコールが
「こっから狙ってみようぜ。ヴァン、あの魔法使ってみろよ」
「上手くいくかどうか分かんないよ? まだ練習中なんだ」
半裸のリオが丸太に肘を置いて、ヴァンへ何やら提案をする。これほど離れた所へ魔法をどうやって当てるのだと、ティアはリオの無茶ぶりに眉をひそめた。よしと気合をいれたヴァンは右手の親指を上に立て薬指と小指を握り、人差し指と中指を揃えて真っ直ぐ伸ばし、二本の指先に魔法陣を展開。だがそれだけでは終わらず、左手で右の手首を掴み、右手首を中心にもう一つの魔法陣を展開した。二重の魔法陣は共鳴し合い乱れるが、ヴァンがゆっくりと深呼吸を何度かすると、揺れが収まった。
「目標視認。座標設定。出力は……このくらいでいいかな? ……じゃあいくよっ、【
二つの魔法陣から放たれた魔法の弾丸は、発射された瞬間の独特な音のみをその場に残し、とても目で捉えることは出来ない速度で空を飛び、遠くの赤黒い点へと衝突し、靄のように瘴気が上がった。
「倒した」
【
だがティアだけは何も言わず、ただはしゃぎ合う五人を見つめた。いつもならこんな気持ちに、疎外感を感じることなどない。これも全部天気が悪いせいねと、ティアは曇天の空を睨みつけた。
夕方になって解散し、ティアは部屋に籠りヴァンが編み出した二重魔法陣を再現しようと両手に魔法陣を作った。技そのものはリオが考え付いたらしく、それをヴァンが実用出来るように何度も練習したのだと話していた。見様見真似で発動させようとしたが、どう頑張っても陣そのものが不安定で式が乱れ、とてもではないがアタシには使えないとティアは振り払うように魔法陣を消した。
布団に身を投げ出し、天井を見つめ、心の中で五人の仲間達を思い浮かべる。優れた知覚で常に周囲を把握し、速さを活かして駆け回り仲間を守るスコール。ずば抜けた魔法への才能、それに加えて頭脳明晰なヴァン。出会った頃は弱々しい、なんの変哲も無かった筈の自身を変え急成長したアリン。幾百年と地下に閉じ込められ記憶も何もかも失ったというのに、笑顔を絶やさないヤイヴァ。そして、不思議な存在のリオ。子供のようで子供で無く、大人のようで大人で無い。魔力が無いから弱いはずなのに、強い。彼なら何でも出来てしまうと思わされる。
「みんな、特別なのね……」
竜人の姫と称され、同年代の子達とも遊ばず大人達に囲まれて過ごしてきたティア。自分は強いのだ、偉いのだ。だから普通の人とは違う。自分と同じ子供とは違う。事実そのはずだ。だというのに、仲間と見比べると、自分が劣っているように見えるのだった。
生まれる半年前に、ティアの父は死んだ。父は誰よりも勇敢で立派な竜人だったと、同族達は口々にそう言う。そんな父を、母は心の底から愛していた。いや、今なお愛している。歴代の竜人達が眠る墓所、毎日毎日父の墓前で黙祷を捧げる母。お父さんの様に強く在りなさい、お父さんの様に強く成りなさい。母が娘に言い聞かせる言葉はそればかりだった。
顔すら知らない父のように強くなるため、ティアは
ティアは父が昔使用していた部屋に忍び込み探った。もっと父に近づけば、母が振り向いてくれるかもしれない。そう思ったからだ。書棚から一冊だけ飛び出した本、父の私書と思われるものが目に入り、気になったティアはその本を手に取り読み始める。とある少年が世界を冒険する話を綴ったものだった。他の本も手を出してみれば、どれも同じような本ばかり。それからティアは何度も忍び込み、父が筆を走らせた数々の物語に目を通した。父はどんな人だったのだろうか。父はどんなことをしていたのだろうか。本を通じて父の気持ちを読み取ろうとした。次第に本に描かれた数々の冒険は、ティアの憧れになった。
父が小説家だったからか、書棚には空想劇ばかりではなく他にも色々な書が収まっており、その中には魔法書も混じっていた。その魔法書に手を伸ばしたことを、ティアは激しく後悔することになる。
中に記載されていた魔法を一つ、ティアは真似た。本来ならば周囲を照らす光球が出来る魔法だったのだが、なぜか作り出した光球は大爆発を起こした。後に調べられて分かったことだったが、その魔法書は中身が幾つか破けて無くなっており、書かれた式と効果が見開きであべこべになっていたのだ。爆発音に駆けつけた衛兵達。幸いにもティアは作った光球が危険だと本能的に察知し、寝台の下へ咄嗟に隠れたので難を逃れたものの、父の遺品の殆どが粉々に散るという始末。その惨状を見た母の顔はティアの記憶に深く刻まれ、忘たくとも忘れらなかった……
「おい、起きろ。起きろティア」
自分を揺すり、掛けられた声でティアは目を覚ますと、自身を覗き込むように見ているリオと目が合う。あの後何時の間にか寝てしまっていたらしく、自信が揺らいでしまったからか、思い出したくない過去を夢で見てしまった。衣服が透けてしまう程に全身は汗でびっしょりと濡れ、額に髪がべとべとと張り付いている。それでいて口の中はカラカラに乾燥していて、あべこべな自分の身体にティアは更に不快な気持ちになった。
背中に何かが潜り込む感触ののち、上半身が持ち上がった。リオが背中を腕で支えている。飲めと湯呑を渡され、その液体を口に流し込むと、それは果実の搾り汁だった。乾いた喉と胸の内を潤す為に、一気に飲み干す。
「落ち着いたか?」
リオにそう聞かれ頷いたが、それは嘘だった。胸に渦巻く鉛のように重く泥のように苦い感情。どうして母は振り向いてくれない。どうしてこうもうまくいかない。どうしてこんなにも悲しい。ヴァンやスコールのように才能に溢れていれば、母は認めてくれただろうか。アリンのように大人らしくあれば、もっとうまく立ち回れただろうか。リオやヤイヴァの様に強い心があれば、こんな悲しい気持ちに、あの日の母の、全てを否定した瞳と言葉に耐えられるのだろうか。
「……」
リオは無言のまま布団へ腰掛け、腕を組んでじっと見詰めている。ここから出ていって。何もアタシの事を知らない癖に。そう口にしたいが、言葉は喉に詰まったまま。
何度も何度も謝ったのだ。父のモノを壊してしまったことを。母の大切なモノを壊してしまったことを。縋りつくように母の服を掴み泣きじゃくる自分に、母が言ったのだ。
『どうして、あんたなの?』
母の言いたいことは直ぐに理解出来た。どうして生きているのが父では無く、自分なのかと母は言ったのだ。母は最初から自分の存在を望んでいなかった。時たまに母が自分を見ていたように感じていたのも、半分だけ自分の体に父の血が流れているから。母が望んだのはアタシではなく、アタシの中に残る父の面影。
「……どうして、あんたなの?」
母と同じ言葉をリオに向けて呟いた。どうして母じゃなくリオなのか。どうしてこんなにも優しくしてくれるのはリオなのか。願ったのは母の温もりなのに、どうしてリオがそれを与える。どうしてそれが……こんなにも心地よいのか。
「お前が、雲一つ無い青空を俺に見せたからだ」
『何処までも続く空のような竜』。リオの答えから、以前見せた竜の姿を見たリオの言葉をティアは思い出した。ティアを美しいと恥ずかしげもなく言い切ったリオ。どうせおべっかなんでしょと後々思い直していたのだが、リオはまだ竜となったティアをはっきりと覚えているようだった。
「だが最近のティアは曇ってやがる。それが気に入らねえ。外を見てみろ。お前と一緒で雲ばっかで、空なんか見えやしねえ」
リオに釣られ、ティアも外を見る。今日も曇天の空が広がり、ティアを暗い気持ちにさせる。リオに視線を戻せば、雲を見て不愉快だと睨みつけている。リオもティアと同じだった。青空が見えないことが気に入らないと、ティアが落ち込んでいるのが気に入らないと言っている。
「ティア。俺に青空を見せてくれ」
空色の竜がその背に少年を乗せ、空を目指し翼を羽ばたかせる。どうしてこうなったのか。なかばやけになっているのかもしれない。だが空を見たいのはティアも一緒だった。この暗い世界から飛び出したかった。
「ティアの昔の親父さんは、強がりで、意地っ張りで、その癖泣いてばかり。親友のベルスさん達が一緒にいるぞって言ってんのに、一人勝手に抱え込んでうじうじしてる、まどろっこしい奴だったんだってよ」
一体何処で知ったのか、背に乗ったリオが父の話をし始める。昔の父の情けない様子、どれもがティアにとって信じがたい。何故なら、父は竜人族の王で、竜人族の理想で、竜人族で誰よりも立派だったと、大人達が、母がそうティアに言い聞かせていたからだ。
「今のティアも親父さんと同じだな。つうか、ベルスさんがそっくりだって言ってたぜ」
今の自分が父とそっくり。ずっと追い続けていた父の姿が形を変え、自分に似た幼い男の子の竜人が、顔を顰めながら泣いている姿が思い浮かんだ。
「昔のティアの話を聞いた。お袋さんに認められたくて、親父さんのようになるために努力し続けたんだってな。だが、もう一度見たいとお袋さんが願ったのはティアじゃなく、親父さんだった」
雲の中に突っ込む。どこを見ても灰色に視界は包まれ、どこを飛んでいるのかも分からない。冷たい風が体を叩く。もう母は自分を見ない。どれだけ似ていようと、自分は父ではないのだから。
「飛び続けろ。諦めるな。俺が望む空は、もう一度見たいと願ったティアはそこにいる。俺が見たいのはティアの親父さんじゃねえんだ」
背中に乗るリオから熱が伝わる。冷たい風を跳ねのけて、冷たい心を暖める。もっと大きく翼を広げ、もっと強く羽ばたかせる。この雲を切り裂くために。背に乗る仲間の願いを叶えるために。一緒に青空を見るために。
周囲の灰色の雲が白く変わる。もう少し、もう少しと、疲労と痛みで震える翼を必死に動かし……目の前から雲が消えた。
「俺はどれだけ空を渇望しても、努力しても、決して届かない。だが、届いた。ティアと同じ俺が望んだ青空が、今こうして俺達の視界を埋め尽くしている」
何処までも何処までも、青空が広がっている。あの曇天の向こう側にも、こうして青空があったのだと、ティアは心の中の薄暗い雲を見下ろした。この辛い記憶が消えたわけではないが、こんなにも心はこの世界のように穏やかだ。
「ティアの名前は、親父さんが付けたってのは知ってるか?」
唐突な事実に驚く。一体何処まで自分のことを知っているのか。どうしてそこまでして自分を知ろうとしたのか。リオが自分を心配して奔走したのかと思うと、顔が赤くなる。
「竜人族の一人一人が持つ、本当の名前。お前の本当の名前は、
それはティアも見た事があるモノ。輝きながら空を駆ける神秘的な光。見たものに幸運を与えると言われる空の軌跡。
「流れ星に願い事をすると、その願いを叶えてくれる。ティアは、俺の願いを叶えてくれた。俺に青空を、本当のティアを見せてくれた。ありがとう、ティア」
次の日の朝は、昨日までの天気が嘘だったかのように快晴であった。
「さあ! 依頼をこなすわよ!」
「おうおう、今日の竜のお姫さんは随分とゴキゲンじゃねえか」
「元気になってよかった」
「昨日までずっと暗い顔してから心配だったんだけど、もう大丈夫そうだね」
「今のティア、すごく素敵です」
仲間達は口々にティアのよく通る声に笑顔を綻ばせた。リオだけでなく、彼らも自分の事を案じていたのだ。望んでいた暖かい温もりがティアの心を満たし、心の雲を払いより晴れ晴れと空のように透き通る。
「今回はなかなかにきついぞ。依頼主は結婚指輪に使う石に、朔日の石をご所望だ。月に一度しか取れねえ希少な石。場所は足の踏み場がまともにない崖っぷち。それでも行くか、ティア?」
「当然でしょ! アタシは願いを叶える
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