第37話 子供達とゲームをする

 パンを食べ終わってテレビの前に座って、ソアラとエミレールは一緒にゲームを始めた。

 ゲームは朝やっていたのと同じマリオカートだ。それしか渡していないからそれをやるのが当然かもしれないが、特に他のゲームをやりたいとも言わなかったので、勇希は黙って二人にそれをやらせておいた。押入れから他のゲームを探してくる必要は無さそうだ。

 コントローラーを手にそれぞれのカートを操作する二人の様子を勇希は後ろからそっと見ていた。

 ソアラは元気にはしゃぎながら、エミレールは行儀よく座って黙々と操作している。

 朝からずっと同じゲームをして飽きないのだろうか。勇希は疑問に思ったが、ソアラの態度からは飽きるという文字など何も感じられなかった。

 エミレールも黙って遊びに付き合っている。

 二人は良い勝負をしていた。抜きつ抜かれつ、何かある度にソアラは声を上げて騒いだが、エミレールは静かに自分の操作をしていた。

 最終ラップに入り、ソアラのカートが一位に出た。エミレールが二位に付けたが、ゴールは目前。勝負は決したかに見えて、ソアラは前のめりになって目を煌めかせて喜びを表現した。

「わらわがいっちばーん、じゃー!」

 言いながらゴールをしようとしたのだが、

「フッ」

 その時、エミレールの発射した甲羅がソアラのカートを直撃した。ソアラはスピンしてその横を駆け抜けたエミレールが一着になっていた。

 ソアラは加速するまでの間に次々と抜かれて体当たりもされて五位でゴールした。

 さっきまでご機嫌だった神の少女は涙目になって、隣に座っていたエミレールの肩を揺さぶった。

「お前狙っていたなあ! わらわを狙っていたなあ!」

「わたしはただボタンを押しただけ。お前も緑の甲羅を当てられる物なら、当ててみればいい」

 落ち着いて座っているように見えてエミレールもやはりゲームにエキサイトしていたようだ。言葉がいつもより挑発的だった。

 勇希が二人を見守っていると、ソアラがいきなり振り返った。ムキになった猿のように言う。

「ぐぬぬ。勇希! 今度はお前がわらわの相手をするのじゃ!」

「え!? 僕!?」

 指を突きつけられて挑戦されてしまった。神である少女からの挑戦を受けて勇希は戸惑ってしまう。

「お前の力で神をへこましてやるといい」

 エミレールがいつになく強気な言葉でコントローラーを差し出してきて、座る場所を変わってくれたので、勇希はソアラと並んで座って勝負することになった。

「僕なんかに出来るかなあ」

 言いながらも昔は結構やり込んだゲームだ。負けるつもりは勇希には無かった。

 でも、本気でやるのは大人気が無いし、あまり実力の差を見せつけてしまうとソアラは機嫌を悪くして拗ねてしまうだろう。

 だからと言って手を抜くと、それでもソアラは機嫌を悪くするだろうし、エミレールにかっこ悪いところは見せたくない。

「まあ、お手柔らかに頼むよ。フフン」

 軽く遊んでやるかと。軽い気持ちでゲームスタート。

 そして、数分後にゴールしていた。

 勇希にはわけが分からなかった。頭の中を疑問符が飛んでいた。

「あれ? マリオカートってこんなに難しかったっけ?」

「勇希、お前は下手だな」

 隣に座るソアラが呆れた視線と言葉を向けてくる。

 ソアラは一位だった。勇希は最下位だった。返す言葉が無かった。

 エミレールの吐く息にも呆れが混じっていた。

「勇希がこんなに下手だったなんて」

「違うんだよ! 僕は150CCでゴールドを取ったことだってあるんだよ!」

「本当かのう」

「150は結構難しい」

「なら、もう一度だ。今度こそ僕の本気を見せてやるよ!」

 物知らずな子供達に大人の尊厳を見せるべく、勇希は再びレースに身を投じるのだった。

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