第9話 対決マッドスパイダー

 勇希がいくら操縦桿を動かしてもロボットに巻き付いた糸は取れなかった。それはセリネのナイトセイバーやデイビットのパラディンも同じだった。

 動けない三人を前にザメクは悠々と配下の悪魔達に向かって宣言した。

「お前達はよおく見ておけよ。この私がたった一人でこいつらを全滅させるところをな!」

「ハッ、見させていただきます!」

「そして、私の働きをよおく宣伝するのだぞ。エミレール様の耳にも入るようにな!」

「ハッ、了解いたしました!」

「では、料理に掛かるか」

 マッドスパイダーが手の爪を打ち鳴らして近づいてくる。勇希は慌ててゴッドジャスティスに訊いた。

「この糸なんとか出来ないの!?」

『出来るぞ。超音波を使うんだ』

「よし、超音波―!」

 勇希の指示とともにゴッドジャスティスの全身が振動して微弱な超音波が発射され、糸は断ち切られた。ゴッドジャスティスは立ち上がる。

 ザメクは驚いて打ち鳴らしていた爪と前進を止めた。

「立ち上がっただと!?」

「よし、セリネさんとデイビットさんも」

「させるか!」

 勇希は二人の糸も切ろうとするのだが、背後を向いた隙にマッドスパイダーのタックルを食らわされて倒された。

「驚いたぞ。このマッドスパイダーの糸を断ち切る奴がいるとはな。さすがは神のロボットということか」

「こいつ、邪魔する気か!」

「当然だろう!」

 ザメクの目がぎらつき、蜘蛛の爪が振り上げられる。

「勇希、私達のことはいい。目の前の敵に集中するんだ!」

「でも、助けないと! それに魔王が城に!」

「大丈夫だ。君には話していなかったが、城には我が国最強のロイヤルナイツが控えているんだ。きっと時間を稼いでくれる。だから今は目の前の敵に集中するんだ!」

「そういうことなら」

 勇希はデイビットに助言され、目の前の敵に集中することにした。マッドスパイダーの爪を振り返り様に剣で打ち返す。

 ザメクは腕を振り上げられながら、ジャンプして後退した。

「神のロボット、糸は効かぬしパワーもあるか。ならばこの金属をも溶かす魔界の毒液ならどうだ!」

「なんだ!?」

 マッドスパイダーは口から毒液の塊を吐き出した。それは空中で弾けてシャワーとなって三体のロボットに降り注ぐ。

「うわああ!」

『大丈夫だ。神のロボットに魔界の毒液は通用しない!』

「そうなの!?」

 ゴッドジャスティスの言う通り、神のロボットには毒液は通用していなかった。それは全て染みることもなく流れ落ちる。

 ゴッドジャスティスの装甲はピカピカだった。

『神は魔界の対策をいろいろと考えていた。その一つに魔界の毒への耐性があったのだ』

「そうなのか」

 ゴッドジャスティスは無事だった。だが、セリネとデイビットは、

「キャアアア! わたしのナイトセイバーが!」

「くっ、私のパラディンが溶かされる!」

 二体のロボットには毒の侵食が進んでいた。糸が巻き付いていて逃げることも出来なかった。

「どうすれば二人を助けられるんだ」

『毒を止めるには戦場から離脱するか、敵を倒すしかないぞ!』

「それで毒を止めることが出来るの!?」

『うむ、魔界の毒は魔界でしか効かない。神の世界では浄化されるからだ。だが、マッドスパイダーのコンピューターはその効力をここで維持しているようだ。だから敵を倒すか制御の届かない場所まで離れれば止めることが出来るはずだ』

「よし」

 勇希は戦う決意をして剣をマッドスパイダーへと向けた。


 予期せず勇者と1対1の形となって、ザメクは舌なめずりをした。

 勇者を倒した未来の自分を想像してみる。エミレールはきっとその黒い瞳に尊敬の煌めきを湛えて褒めてくれるだろう。

「ザメク、勇者を倒すとはお前はなんて凄い奴なんだ。ドラゴンなんて始めからいらなかったのだ。我が軍には……いや、わたしにはお前だけがいてくれればいい。お前はわたしの誇りだ。ずっとわたしの傍にいてくれ」

「はい、エミレール様。私はずっとあなた様のお傍に。ふふ、勇者よ。私の栄光のために死ねええ!」

 明確な殺意を持って掛かっていくマッドスパイダーの爪を勇希はゴッドジャスティスの剣で弾く。デスヴレイズのような一撃の重さこそ無いが、八本の腕から次々と繰り出される攻撃はやっかいだ。

「くらえ!」

「超音波だ!」

 吐かれる糸をすぐに超音波で消し飛ばす。

「やっかいな奴め。糸も毒液も通用しないとは、そんなロボットはありなのか!?」

「やっかいなのはお互いさまだ!」

 勇希は敵を倒すべく剣を振る。こうしている間にも二人への毒の侵食は進んでいく。

「デイビット様! 毒が止まりません!」

「まずいな、このままでは……」

 セリネは少しでも毒から離れようと操縦桿を動かすがロボットは動かない。デイビットの声にも不安があった。

 早く倒さないと二人がやばい。勇希は踏み出して剣を振るうが、マッドスパイダーは巧みな動きで後退しながら全てを受け流していく。

「二人を助けなくていいのか? 今すぐ駆け寄ってもいいんだぞ」

「お前を倒すのが一番の特効薬だ!」

 勇希は剣を振る。マッドスパイダーは跳躍して岩場の上に飛び乗った。

「もう毒の特性を見抜いているのか?」

「逃げ足の速い奴!」

「頑丈な奴め!」

 マッドスパイダーは腕からミサイルを発射する。飛んでくる複数の物体に勇希は驚いた。

 クリムゾンレッドと戦った時のように剣で斬り払おうと構えるが、ミサイルは空中で分解して無数の小さなミサイルとなって飛来してきた。

「あんなのあり!?」

『勇希! バリアーだ!』

「よし、バリアー」

 ゴッドジャスティスの指示とともにバリアーを張り、ミサイルを全て防ぎきった。ミサイルは小さいだけあって威力自体はクリムゾンレッドの物ほどでは無かった。

 今度驚いたのはザメクの方だった。

「そんな物まで使えるのか! そんなのありか!?」

「ありだ!」

『勇希、バリアはエネルギーを消費するから使いどころに気を付けろ』

「分かった」

 跳びかかってくるマッドスパイダーの蹴りを勇希は剣で防ぐ。戦いは長引きそうに思えた。

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