第8話 出撃
町の上空へ三機のロボットが飛び立つ。
勇希はセリネのナイトセイバーは見たことはあったが、デイビットのロボットを見たのは始めてだった。
「それがデイビットさんのロボットですか」
「はい、私のロボット、パラディンです」
王者の如く強そうな槍と聖なる盾を備えた格式の高さを感じさせるロボットだった。セリネが自分の自慢のように説明してくれる。
「デイビット様は王国最強の実力者なんですよ」
「それでも神のロボットには敵いませんよ」
デイビットは笑うように爽やかに答えた。
みんなは凄いと言ってくれるけど、勇希はいまいち自分の実力に自信が持てないでいた。
その不安を見透かしたかのようにゴッドジャスティスが言う。
『敵の戦闘データもある程度集まってきた。お前の操縦の腕も上がっている。自信を持って戦いに望め、勇希』
「うん、頼りにしてるよ。ゴッドジャスティス」
目標とした敵の姿が近づいてくる。勇希も戦う覚悟を決めた。
三機のロボットが空を飛んで近づいてくる姿は遠くの魔王軍からも見えていた。
「奴らまさかたった三機で攻撃を仕掛けるつもりなのでしょうか?」
ザメクが疑問に思うのも当然だった。あまりにも堂々と隠れる様子もなく近づいてくるからだ。町から不意打ちを仕掛けてくる様子は無い。
「杖を届けに来たのかもしれない。お前達は下がっていろ。わたしが迎える」
エミレールはそう判断して前に出た。
ザメクは命令に従うしかなかった。ドラゴンも動く様子は無い。こんな時は余計なことをしないのが余計なことのように思えた。
戦場とはままならない物だ。
三機はそのまま近づいてくるかと思えた。だが、急に先頭の一機がスピードを上げた。剣を抜いて魔王に掛かっていったのはゴッドジャスティスだ。
振り下ろす正義の剣をエミレールはデスヴレイズの棘と邪気の渦巻く魔界の剣を振り上げて受け止めた。
「エミレール! 君が本当に魔王なのか!?」
「わたしは始めからそう言っている」
「なら、僕は……勇者として君を倒さなければならない!」
「お前はわたしを倒すために来たのだったな。だが、わたしの目的はお前とは違う」
「君に召喚の杖は渡さない!」
勇希はさらにゴッドジャスティスの剣を振るが、エミレールのデスヴレイズの剣はその全てを受けきった。
「強い!」
勇希はエミレールの強さを甘く見ていた。少し打ち合えば分かり合えて帰ってくれるんじゃないかと希望を持っていた。だが、相手は魔王だ。勇希は認識を改めることになる。
「貴様、よくもエミレール様に剣を!」
ザメクが怒鳴り込もうとするが、エミレールはデスヴレイズの剣を持っていない方の手を向けて制した。
「お前は動くな」
「は……」
エミレールに命令されればザメクは黙るしか無かった。怒りの瞳は勇希とゴッドジャスティスに向けたままで。
エミレールは次にデスヴレイズの手をゴッドジャスティスに向けた。
「お前もだ」
勇希は動けなくなった。封じられたのではなく、斬りかかる隙が見つからなかった。
物理的にも精神的にもデスヴレイズに掛かる手段が見つけられなかった。勇希は完全に魔王の気に呑まれていた。
「勇者様……」
「むうう……」
セリネとデイビットも戦場に付け入る隙を見つけられなかった。勇者と魔王が1対1で戦う理想の状況は整っているはずなのに、なぜこうも不利を感じてしまうのか。
時だけが過ぎていく。秒針が頂点を通り過ぎ、エミレールは出していた時計をしまった。
「三分が経ったな。ザメク、この戦場を任せていいか?」
「ハッ、エミレール様のご命令とあれば何なりと!」
自分への信頼を感じて、ザメクは喜々として答えた。
「わたしは王女の杖を取りにいく。後は任せる」
デスヴレイズは急上昇する。勇希は見上げることしか出来なかった。彼女は一瞬帰るのかと思ったが、その機体は上空から城に向かって突っ込んでいった。
いつの間にか赤い風もその後に付き従っていた。
勇希もセリネもデイビットもその動きを止めることが出来なかった。我に返った時には遅かった。
「しまった!」
「奴ら城に!」
「止めなければ!」
追おうとして出来なかった。見ると、機体に白い糸が巻き付いていて動きが封じられていた。
注意が魔王に奪われていた隙を突かれてしまった。
三人の前に魔界の蜘蛛の姿を模したザメクのロボット、マッドスパイダーが立ちはだかる。
「エミレール様が私に任せてくださったのだ。お前達の誰一人としてこの場から逃げられると思うなよ!」
不気味に八本の腕を打ち鳴らし、異形のロボットが近づいてくる。
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