第7話 魔王の宣言
いつまでも驚いてはいられない。一同は見晴らしのいい城のバルコニーに移動した。
城は町よりも高い場所に建っている。
そこからは城下町の広い街並みが一望でき、遠くの山々まで見渡すことが出来た。
そして、町はずれの荒野の上空を飛ぶ悪魔のようなロボットの群れも見えていた。
彼らは町まで入っては来なかった。その手前の荒野の上空で止まり、先頭の中央にいる黒い凶悪さと威厳を感じさせる地獄の悪魔のようなロボットが声を発した。
その正体が誰かなど図る必要も無かった。勇希にとってはついこの前に聞いたばかりの声だった。
「わたしは魔王エミレール。わたしの望みは王女の持つ召喚の杖だ。わたしはそれが欲しい。おとなしく渡すのならすぐにこの場を去ることを約束しよう。3分の時間をやる。それまでに自分達の望む最良と思える決断をするがいい」
町の中では騒ぎになった。宣言などどうでもいい、魔王がやってきたという事実が何よりも重かった。
「魔王が現れるなんて!」
「国王はどうなさるおつもりなんだ!」
「戦うんだろう。勇者様がいるんだぜ!」
「そのための準備を昨日からしてたって話だぜ!」
「だが、町を戦場には出来ないだろう。一度要求を呑むのでは」
町の人々は様々に噂しあう。
その時、酒場から酔っ払いの爺さんが歩み出てきた。彼は酒瓶を手に、遠くの空を飛ぶ魔王のロボットへと手を振った。
「あれは魔王のロボット、デスヴレイズじゃ。まさかこの目で再び見ることが出来るとはのう。おーい、わしじゃー。昔お前さんに一撃だけ当てたことのある爺さんじゃー」
「爺さん、危ないぜ。今は建物の中に引っ込んでおとなしくしてな」
ごろつきのゴロウが彼の襟首を掴んで引っ張っていく。
地上でよく知らない爺さんが手を振っていたので、エミレールが機内で小さく手を振り返していると隣のザメクが通信で話しかけてきた。
「エミレール様、奴らは要求を呑むでしょうか」
問われてエミレールは手を下ろしていつもの真っ直ぐな瞳をして答えた。
「渡さなければ取りにいく。今は返事を待つ」
「待たなくても一発ぶちかませば奴らはすぐに震えあがって言うことを訊くだろうさ」
ドラゴンがクリムゾンレッドの手に炎を出すのを、エミレールはデスヴレイズの剣を向けて止めさせた。
「わたしは待つと約束した。わたしは父から約束を破るのは神のやる悪い行為だと教えられている。ドラゴン、余計なことはするな」
「また父ですか……魔王様の意向に従いましょう」
ドラゴンが渋々言う事を聞かされるのを見て、ザメクはしめしめと笑みを浮かべた。良い気分で戦場で戦えそうだった。
エミレールは操縦席の前に時計を置いた。
「3分を計ろう」
古風なアンティークさを感じさせる置き時計の秒針が時を刻み始める。
エミレールはそれをじっと見つめた。
城の中に戻って、王様は焦った様子で玉座の前をうろうろと往復していた。
「魔王の奴め! 3分しか時間を与えぬとは、これでは実質何も考えずに差し出せと言っているのと同じではないか!」
「その杖を渡すわけにはいかないのでしょうか?」
勇希は訊ねる。
「この杖は神から授かった大切な物。勇者様の召喚にも使う国宝です。渡すわけにはいきません」
レオーナは杖を大事に抱きしめ不安そうにしながらもその答えははっきりとしていた。国王も力強く頷く。
「うむ、杖を渡すなどとんでもない!」
「父上とレオーナの言う通りです」
デイビットの答えもはっきりしていた。彼の態度はこんな時でも落ち着いて堂々としていた。
「そして、策を考えるのに3分も必要ありません」
「まさかもう策があるのか!」
王様が驚いた声を上げる。
「はい、何せこちらにはもう切り札である勇者様がおられるのですから」
デイビットは勇希の方をちらりと見つめてから、みんなの前で作戦を説明した。
「魔王を相手にいたずらに戦力を出しても消耗するばかりか勇者様の邪魔になるだけでしょう。ですから、ここは限られた戦力、私と勇者様とセリネで短期決戦を挑むことにします」
「自分も出るのですか!」
セリネは驚いて顔を上げた。デイビットは優しい目を向けた。
「あなたは自分に自信が無いのかもしれませんが、あなたの実力は確かな物ですよ。だから私も騎士長をあなたに任せたのです。自分に自信を持ちなさい」
「頼りにしてるよ、セリネ」
「はい、今度こそ頑張らせてもらいます!」
デイビットと勇希に信頼されて、セリネも覚悟を決めたようだった。びしっと敬礼する。
「じゃが、勇者が現れたとして魔王は戦いに乗ってくるだろうか」
王様は半信半疑のようだった。デイビットは涼しく答えた。
「不意打ちを仕掛けましょう」
「と言うと?」
「幸いなことに魔王は今中央の最前列に位置しています。おそらく時間が来るまで動くつもりは無いのでしょう。そこを我ら三人で」
「3分が来る前に勝負を仕掛けようというのか」
「それって卑怯じゃない?」
勇希はそう思ったのだが、デイビットは思わなかったようだ。
「3分というのはあくまで向こうが仕掛けた勝手なルールに過ぎません。こちらが馬鹿正直に待つ必要など全く無いのです。要は魔王を倒せればいいのです」
「そっかあ」
そう言われればそうなのかもしれない。
「さすがは我が息子。策士よのう」
作戦はまとまったようだ。だが、勇希はまだ主張したいことがあった。挙手をする。
「あの、一ついいですか?」
「何ですか?」
デイビットは誰にでも優しい笑みを向ける。勇希は少し緊張しながら発言した。
「魔王とは僕一人で戦わせて欲しいんです」
敵があのエミレールならやはり正々堂々と勝負をしたい。誰にも邪魔されずに自分の望む結果を出したい。勇希はそう思ったのだが。
「勇者様のゴッドジャスティスは特別です。自分も魔王とは勇者様自身で戦われて、自分達はサポートに徹するのが得策だと思います」
セリネは純粋な強さからそう同調した。デイビットは少し考えて、
「勇者様は魔王と戦うためにこの地に来られた特別な存在。神もそう望まれている……そうだね。では、そうしよう。勇者様、魔王の相手を任せてもいいですか?」
「もちろんです」
「では、出撃じゃ!」
王様が号令を掛けて、みんなはそれぞれのロボットのところに向かった。
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