第6話 勇者の帰還と魔王軍襲来
追っ手が掛かることもなく、勇希は無事に王国の城に帰還することが出来た。
ゴッドジャスティスに城の座標がインプットされていたので、迷うことは無かった。
帰ってきた勇希をみんなが喜んで迎えてくれた。
レオーナが安心の息を吐き、セリネは緊張に強張らせていた肩の力を抜いた。
「勇者様、よくぞご無事で」
「みんなで救出作戦を考えていたのですが、実行する前に帰られるとはさすがは勇者様ですね。自分もそうありたいものです」
「それでこそ伝説の勇者じゃ!」
王様も力強い声を掛けてくれた。勇者が帰ってきて慌ただしかった城の中にも平穏な空気が広がっていった。
勇希も安心の心地に浸っていると、見覚えのない青年が声を掛けてきた。
とても爽やかな笑みを浮かべたイケメンで落ち着いた雰囲気を持った背の高い青年だった。
「あなたが異世界から来られた勇者様ですか。会えるのを楽しみにしていました」
「あなたは?」
実に堂々として礼儀正しく嫌味を感じさせない、まさに王族といった風格を感じさせる青年だった。レオーナが彼を紹介してくれた。
「お兄様ですわ。このたび遠征からお帰りになられたのです」
「レオーナの兄のデイビットです」
「勇希です」
お互いに固く握手する。彼の瞳は真摯で優しく、とても力強く頼りになりそうだと思えた。王様が口を開く。
「こうして勇者様も戻られた今、いよいよ魔王に決戦を挑む時じゃ!」
「決戦を挑むの!?」
勇希はちょっと驚いた。王様の決意は固かった。
「うむ、勇者様が戻られ、我が国の戦力も整った。今決戦を挑まずしていつ挑むというのじゃろう!」
言われてみればそうかもしれない。勇希は少し自信が無かったのだが、デイビットの意思も強かった。
優しい顔をしたまま真剣な目をして言った。
「勇者様にはまだ話していないことですが、実は我々は前線で魔王の新たな情報を入手することに成功したのです」
「え? それは何?」
魔王と戦うことを決意していた勇希にとっても興味のある情報だ。身を乗り出すように訊くと、デイビットは爽やかな笑みと堂々とした態度で答えてくれた。
「魔王の名前はエミレールというそうです」
勇希は思わずずっこけそうになってしまった。デイビットは少し驚いたように目を見開いた。
「どうかされましたか、勇者様?」
「いや、知っている名前と同じだったので、つい」
「何ともう魔王の名前をご存知だったとは。さすが勇者と呼ばれるだけのことはある」
「いや、そんなたいしたことでは。本当にエミレールが魔王なの?」
「はい、もっともエミレールという名前だけでは魔王の正体まで計ることは出来ませんが……」
デイビットは少し落胆している様子だったが、レオーナが自信を持って言葉を繋いだ。
「そんなことはありませんわ。魔王の名前が知れただけでもわたし達は戦いやすくなります」
「うむ、敵は魔王エミレール! 奴こそがわしらの倒すべき敵じゃ!」
レオーナと王様はノリノリだったが、勇希は少し居心地の悪さを感じていた。
「エミレールが魔王なのか……」
前に会った少女のことを思い出すとどうにも戦いにくい物を感じてしまう。
でも、これは考えようによっては朗報かもしれない。あのエミレールが魔王なら軽くやっつければ帰ってくれるかもしれない。
少女を相手に勇希は負ける気はしなかった。
勇希が考えていると、デイビットが力強い声で会議を締めくくった。
「作戦は明日実行します。勇者様は今日のところは休んでください」
「はい」
デイビットに言われ、勇希は今日のところは休むことにした。
自分に与えられた部屋のベッドで寝転んで明日のことを考える。
「あのエミレールと戦うんだよな……」
月明かりが窓から差し込んでいる。
少女とはいえ魔王と呼ばれる相手と戦うとなるとやはり少し緊張してしまう。
寝付けないかと思ったが城のベッドは気持ちよくて、勇希はすぐに眠りの世界へ落ちていった。
城は朝から騒がしかった。いよいよ魔王に決戦を挑むのだ。それも当然だろう。
勇希が謁見の間に行くとすでに主なメンバーは全員揃っていた。
「おはよう、勇者殿。昨日はよく眠れたかね?」
「はい、おかげさまで」
王様はさすがに堂々としている。魔王との戦いにも全く不安は抱いていないようだ。
「いよいよ、決戦ですね」
セリネは少し落ち着きがなかった。魔王と戦うのだ。それが自然な態度のように思えた。
「勇者様とお兄様がいるんですもの。何も心配はありませんわ」
レオーナは穏やかなお日様のような笑みを浮かべている。頼りにされて勇希も気を引き締めなければと心構えを正した。
「勇者様、作戦の前にこの周辺の地理をおさらいしておきましょう」
「はい」
デイビットが机に地図を広げたので、勇希もそれを覗きこむように見たのだが。
その時、兵士が慌てた様子で駆け込んできた。
「王様! 大変です!」
「なんじゃ! 今作戦会議中じゃぞ!」
王様はどなるが、兵士は倒れそうになりながらひざまづいて言った。
「それが魔王が……魔王が攻めてきたんですううう!」
「なんじゃとおおお!!?」
王様が目を見開いて驚く。王様だけではない。その場の誰もが驚きに声を失っていた。
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