第21話 神に対して
偉そうにふんぞり返っている神は放っておいて。
レオーナが勇希を引っ張り込んで、エミレールとも顔を突き合わせて、部屋の隅で緊急の小会議が開かれた。
「あれが本当に神様なんですか? 勇希様」
レオーナはずっと神を信仰していて、偉そうにベッドの上に立ってふんぞり返っている少女が神と聞かされて随分と混乱しているようだった。
勇希はレオーナの世界の神と会ったことがあったので、正直に答えた。
「いや、レオーナさんの世界の神様はもっとこう……しっかりとした威厳のある感じの人だったよ。あの子は多分、別の世界……天空世界と言ったっけ。とにかく別の世界の神様なんだと思う」
その言葉にレオーナは安堵したようだった。
「良かった。わたしが信じていたことは間違いでは無かったのですね」
エミレールの方は何だか不安の面持ちの様子だった。
「父と神は長い時を争ってきた。わたしもあれと長い時を争うのだろうか」
「大丈夫だよ。だって、エミレールにはもう争うつもりは無いんでしょ?」
「そうだな。わたしは父の犯した唯一の過ちを繰り返すつもりはない。きっと神とも仲良くなってみせる」
「それじゃあ、あの子と友達になれたら一緒に焼肉でも食べに行こうか」
「うん、お前が応援してくれるなら頑張れるよ」
話が纏まったところで勇希は偉そうにベッドの上でふんぞり返ったままの自称神様の少女を振り返った。
ソアラは待っていたようだ。話が終わったことを察すると瞑っていた目を開いた。
「話は纏まったようじゃな。わらわは神だからな。待っていてやったぞ!」
「そりゃどうも。それで君のことを訊かせて欲しいんだけど」
「あなたはなぜ追われていたんですか?」
勇希の言葉をレオーナが引き継いで訪ねた。ソアラは偉そうに腕組して一つ頷いてから答えた。
「この神のことを聞きたいのか。良いだろう。教えてやる。他ならぬ人の頼みだからな。わらわの優しさに感謝せよ。わらわを追ってきたのは魔王の手の者だ。奴はこの神のことが憎くて攻撃を仕掛けてきたのじゃ!」
「「魔王!?」」
勇希とレオーナの声が揃ってハモってしまった。揃ってエミレールの方を向く。エミレールは知らないと少し身を引いて片手を小さく振った。
自称神様の少女の眉がぴくりと訝し気に顰められた。
「なんじゃ? お前達は魔王を知っているのか?」
「えーと……」
勇希は迷ったが紹介することにした。エミレールも決断したと頷いた。
「この子が魔王……です」
「わたしが魔王エミレール……だ!」
神に敵だと言われては勇希も紹介するのに緊張したが、エミレールの方はもっと緊張していた。名乗る時に言葉を詰まらせるエミレールなんて始めて見た。相手が神でこれから長きに渡る戦いに発展するのかもしれないのだから当然かもしれないが。
だが、友達になるには隠し事は出来ない。エミレールはよく頑張った。勇希は内心で彼女にエールを送った。
ソアラの方はたいして何も気にしていない様子だった。
「いや、わらわの言っているのはそんなチンチクリンな魔王じゃなくてだなあ」
「チンチクリンな魔王!?」
「もっとちゃんとした恐ろしい魔王なのじゃ!」
「もっとちゃんとした恐ろしい魔王うううう」
言葉の二連撃を受けてエミレールはふらついてうつむいてしゃがみこんで膝を抱えてしまった。
いろいろあって彼女も随分と感情を表すようになってきていたが、このような姿を見ては勇希は悪い気分になってしまう。
エミレールは膝を抱えてうつむいたまま、目だけを勇希に向けて言ってきた。
「わたしはちゃんとした魔王になれていないのだろうか」
「いや、エミレールはちゃんとした魔王だよ」
「神様、話の続きをどうぞ」
「ふむ」
レオーナに促され、ソアラは続きを話すことにした。
「わらわを襲ってきたのがその魔王の手先、魔女のアリサとその使い魔達じゃ」
「あのコウモリのロボットを動かしていたのは魔女の使い魔だったんですね」
「その通りじゃ、お前達ももう交戦したのじゃったな。この魔女というのが許せん奴でな。とても頭の良い奴で、その策略と美貌でわらわの民達を虜にしてしまったのじゃ」
「そんなことを」
虜にしたことの無いレオーナは自分の恰好を気にして言った。神様の話は続く。
「奴はとてつもなく計算高い奴じゃ。わらわがこの世界に逃げたと知ったら、すぐに力押しで攻めてくることはせず、まずはこの世界を知ろうとこの世界の知識の集まる場所に向かうはずじゃ」
「知識の集まる場所……何らかの研究機関でしょうか」
「大学か図書館……? よく分からないな」
エミレールが落ち込んでいるので、レオーナと勇希は二人で推測した。
「いずれにしても慎重な奴がすぐに行動を起こすことは無いじゃろう。戦いは明日以降になるはずじゃ。わらわはもう寝る」
ソアラは自分の言いたいことは言い終わったとばかりに蒲団を被って寝てしまった。
「魔女アリサとその使い魔達か。今どこにいるんだろう」
「勇希様、こんな時に申し訳ないのですが。わたし達はそろそろ」
「あ、レオーナさん達は向こうの世界に帰らないといけないんだっけ」
「エミレールさんも」
レオーナは膝を抱えてうつむいたままのエミレールにも声を掛けるのだが、彼女は小さく首を横に振った。
「わたしにはやることがあるんだ。神と友達になれないまま帰るわけにはいかない」
その瞳は落ち込んでいても強い前向きの意思を宿していた。その決意を勇希もレオーナも受け取った。
「レオーナさん、エミレールの面倒は僕が見るから安心して」
「はい、二人ともくれぐれも気を付けて」
レオーナは少し強く念押しして帰っていった。
暗い夜の空をアリサはコウモリの翼を広げた悪魔の女性型のロボット、サキュバスに乗って飛行していた。
使い魔達の乗る四機のコウモリ型のロボット、バットを左右に従えている。
下に広がるのは来たことのない世界の光景だが、従える使い魔を利用してある程度の情報はすでに集めていた。
だが、この世界で作戦を実行するとなったらもっと詳しいこの世界に合った知識が必要になる。
アリサはそれを求めていた。使い魔の一人が合図を送る。着いたようだ。
空で停止し、地上を見下ろす。そこには黄色い看板を掲げたある建物があった。
「あそこにわたし好みの知識がたくさんあるのですね」
「はい、アリサ様」
「では、参りましょうか」
アリサは夜に紛れ、使い魔達とともに静かに誰にも見つからないように機体を地上へと着陸させた。
これから始めるのは知の探究だ。この場をうるさくすることを魔女は好まなかった。
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