黄金色の鳥編

第20話 新たなる敵の襲来

 澄み切った青空を黄金色に煌めく鳥が横切っていく。それを見上げていたら、そこから少女が落ちてきた。

 勇希はゴッドジャスティスに乗って空へ飛び立った。ロボットの両手を前に出し、上手く少女を受け止めた。

 手の平で眠る金髪の少女はまだ幼い子供だった。怪我をしている様子はなく、こんな状況でも呑気と言えるほどに安らかな寝息を立てていた。

 勇希もほっと安堵する。鳥の飛び去った方向を見るが、その姿はもう空のどこにも見えなかった。

 いつまでもこうして飛んでいるわけにはいかない。

 地上の人々は空を指さして騒ぎ始めた。当然だろう。目立つことをしてロボットまで現れたのだから。

 勇希はすぐに隠れようと飛び去ろうとしたのだが、その前にゴッドジャスティスが警告を発してきた。

『勇希、何か来るぞ!』

「何かって何?」

『分からない。この機体はデータに無いものだ』

「機体?」

 訝しんだのも束の間、ゴッドジャスティスが機体と呼んだそのロボット達はすぐに現れた。無骨なコウモリのような形をしたロボット達だ。

 数は四機。そのコウモリ型のロボット達はすぐにゴッドジャスティスを包囲した。勇希は周囲を警戒する。

「こいつらは何者なんだ? この少女と関係があるのかな」

『分からない。データが何も無い』

 こちらが警戒しているように相手も警戒しているのか、すぐに掛かってくる様子は無い。だが、どうも友好的といえるような雰囲気ではない。

 勇希にはこちらから攻撃するつもりは無かったが、相手は行動を決めたようだ。一斉に飛びかかってきた。

「やっぱり敵か!」

 勇希は慌てず冷静に対処する。今までに数々の戦いをしてきた勇希にとっては強敵と言えるようなレベルの相手では無い。

 だが、少女を手に抱えたままでは剣を抜くことも派手に動くことも出来ない。地上には町があって人々も集まっているので撃ち落とすのも論外だ。

 勇希は最小限の動きだけで敵をかわす。

 たいしたことのない相手とはいえ、このままでは状況の解決にならない。勇希はゴッドジャスティスに訊ねた。

「何とかこの場から逃げる方法は無いかな」

『それならゴッドフラッシュだ』

「よし、ゴッドフラッシュ!」

 勇希は数々の戦いの中で常に適切な手段を選んでくれたゴッドジャスティスの指示を信頼していた。迷うことなくそれを発動する。

 ゴッドジャスティスが片手をかざした額が光る。その眩しい輝きにコウモリ型のロボット達も地上の人々も目を眩まされた。

「よし、コウモリにも効いたぞ。今のうちに」

 勇希はその隙にゴッドジャスティスを地上に下ろし、ビルの陰に隠れた。

 コウモリロボ達はしばらく周囲を伺っていたが、諦めたのか鳥の追跡に行ったのか、空の向こうへと飛び去っていった。


 周囲に揺らめく炎が暗い部屋を照らしている。

 その中心に黒いローブを纏った少女が立ち、床に映された地上世界の様子を見つめていた。

 そこで行われているのはゴッドジャスティスとコウモリのロボット達との戦いだ。

「我が使い魔達をこうも容易くあしらうとは何者?」

『勇者と呼ばれる存在かもしれないな』

 少女の声に暗がりからの厳かな声が答えた。少女は顔を上げて訊ね返した。

「勇者……ですか? 勇者とはいったい何者なのですか?」

『勇者とは人を助けずにはいられない存在だ。そして、魔王に挑みかからずにはいられない物好きな性格の奴のことをいう。余にとっては懐かしい存在だが、今の時代にもいたとはな』

「それは危険な存在では?」

『うむ、だがまずは黄金の鳥だ。奴こそ余を脅かす最大の脅威。奴が勇者を味方に付ければ事態は思ったより厄介になるかもしれぬ』

「分かりました。こうなってはこの私自らがあの世界へ出向き、黄金の鳥の駆逐、そして勇者の籠絡をも成し遂げてご覧に入れましょう」

『行ってくれるか、アリサよ』

「はい、この魔女と呼ばれた私の知略をどうかここからご覧になっていてくださいませ、魔王様」

 少女はローブを翻し、形の良い唇に笑みを浮かべてその場を後にした。


 勇希が背負って家に連れ帰った金髪の少女は気持ちよさそうにベッドで寝息を立てていた。その無邪気な子供のような姿からは追われていたという緊張感は何も感じられなかった。

 勇希は少女の寝顔を眺めてから、家まで心配して付いてきたレオーナとエミレールの方を振り返って訊ねた。

「この女の子は何者なんだろう。レオーナさんとエミレールは何か知ってる?」

「さあ、わたしには何も。そもそもこの世界の事もまだあまりよく知りませんし」

「そうか。そうだよね」

「本人を起こして訊くのが一番早いんじゃないか?」

 エミレールの意見はもっともだった。

「起きるまで待つしかないか」

 それはいつになるだろう。勇希は今後のことを思ったのだが、レオーナとエミレールが驚いたような顔を見せて、不思議に首を傾げた。

 何か訊こうかと思ったその時、

「わらわは目覚めたぞーーーーー!」

 背後からいきなりうるさい声がして、びっくりして跳び離れて振り返った。

 金髪の少女がベッドの上に立っていた。さっきまで寝ていたのにもう元気いっぱいの様子で腰に手を当ててふんぞり返っていた。これが若さというものなのだろうか。

 幼い体を偉そうにそらして目に強い意思を漲らせて彼女は堂々と言った。

「わらわが何者か知りたいと言ったな。教えてやろう、下の世界の者達よ。わらわは神! 天空世界の神ソアラである! 崇め奉り褒め称えるがよい!」

「「「え……ええーーーー!!」」」

 少女が神だと聞いて、勇希とレオーナとエミレールはそれぞれに驚きの声を上げてしまった。

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