第19話 おまけ パーティーへ

 暗黒の渦巻く魔界の大地。

 長かった戦いも終わり、王国と和平が結ばれ、エミレールの元には数日後にパーティーを開くとレオーナから招待状が来ていた。

 来たのはそれだけでは無かった。エミレールが部屋に戻ると父から荷物が届いていたのだ。

「父様から荷物が届くなんて初めてだ。何が入っているんだろう」

 エミレールがドキドキしながら箱を開けると、中に入っていたのはドレスだった。一緒に入っていた手紙にはパーティーにはこれを着ていきなさいと書かれていた。

「父様、ありがとうございます。着させてもらいます」

 エミレールは今も世界のどこかにいるだろう父の事を思った。


 勇希にも元の日常が戻ってきていた。父に続いて母も旅に出てしまって、行ってきますを言う相手がいないのは寂しかったが。

 朝の登校の道を歩いていく。いつもの道が随分懐かしく感じる。

「早く学校の遅れを取り戻さないとな」

 勇希は走って登校することにした。


 久しぶりに学校に来たのは勇希だけではなかった。教室の前で向こうの世界では会ったばかりの少年が声を掛けてきた。

「こっちの世界で会うのは随分と久しぶりになるな、勇希」

「境夜、もう警察から戻ってきたんだ」

 セリネやレオーナと相談し、勇希の意見で境夜の身柄は警察に渡すことにしたのだった。

「あんなファンタジーな出来事をどう説明しろってんだ。上手い方法があるなら教えて欲しいぜ」

 境夜は近づいてくると勇希の胸に拳を当てた。

「俺はまだ世界をあきらめたわけじゃないからな」

「君がその気なら僕は何度だって世界を守ってみせるよ」

「フッ」

 境夜は拳を引いて踵を返した。片手を振って言う。

「また喧嘩しようぜ」

「その前に勉強をね」


 日常は何事もなく進む。勇希が下校すると家の前でセリネが待っていた。

「セリネさん、どうしたの?」

「勇希様、お久しぶりです。今日はレオーナ様から招待状を預かってきたのです」

「招待状?」

 受け取ると、それは数日後に開かれるパーティーの招待状だった。

「僕なんかが出席していいのかな」

「いやいや、勇希様に来ていただけないと困ります!」

「分かった。行くって伝えておいて」

「はい!」

 セリネは笑顔で去っていった。勇希は懐かしい人達を思って空を見上げた。


 日は瞬く間に過ぎていって、当日になった。

 エミレールがドレスを着て魔王城の広間に行くと、集まっていたザメクと配下の悪魔達は目を点にして凍り付いた。

 その反応にエミレールは困惑して訊ねた。

「父から贈られたドレスを着てみたのだが、何か変だったか? 自分ではこういうのはよく分からないんだ。ザメク、お前はどう思う?」

「は……はい、あまりにも似合いすぎていて驚いていたのです。さすが先代の魔王様のセンス。それを着こなすエミレール様です」

 ザメクの言葉に配下の悪魔達も賛同してうんうんと頷いた。エミレールは安心して息を吐いた。

「そうか、変でないならよかった」

 そして、魔王として宣言する。

「パーティーに行く。デスヴレイズを出す。お前達も出発の準備をしろ」


 勇希が召喚されて王国の城に着くと、城ではすでにパーティーの準備が出来ていた。

 レオーナが礼をして勇者を出迎える。

「ようこそいらっしゃいました、勇希様」

「久しぶり、レオーナさん。他のみんなも」

「後は魔王が来るのを待つばかりじゃな」

 王様は少し緊張している。レオーナは安心させるように微笑んだ。

「大丈夫ですよ。エミレールさんとはもう仲良くなったんですから」

 そんな彼女にデイビットが訊ねる。

「私は実はエミレールとはあったことが無いのだ。本当に裂けた口はマグマとなって全てを呑み尽くし~とかじゃないのか?」

「普通の可愛い女の子ですよ。ねえ、お父様」

「ふむ、そうじゃったかの~」

 そんなことを話し合っていると、のんびりとしていたパーティー会場に兵士が息せききって駆け込んできた。

「大変です! 王様!」

「何が大変なのじゃ!」

「魔王が……魔王が攻めてきたのですうううう!」

「えええええええええ!?」

 その場の誰もが驚きで素っ頓狂な声を上げていた。


 みんなが城の前の広場に行くと、魔界の大軍勢が空を飛んで迫ってくるのが見えた。

 王様はつばを飛ばして叫んだ。

「ロイヤルナイツじゃ! ロイヤルナイツを出すんじゃ!」

「駄目です! ロイヤルナイツでは魔王に勝てません! 修理代が嵩むだけです!」

 兵士の言葉に王様は地団駄を踏んだ。

「ああもう! 勇者よ!」

「大丈夫だよ。エミレールとはもう和平を結んだんでしょ」

「エミレールさんは約束を破ることはしませんわ」

 勇希とレオーナの言葉に王様も深呼吸して態度を落ち着けることにした。空を飛んで迫ってくる魔王軍を見つめた。

「若い者を信じるか」


 魔王軍が迫って来るのを町の人達も見上げていた。今度は止まることなく町の上空まで来たことで騒ぎはより大きくなった。

「魔王軍がまた攻めてくるなんて、この国はどうなるんだ」

「和平を結んだって話じゃなかったのか?」

「王様はどうなさるおつもりなんだろう」

「ロイヤルナイツでも勝てなかったって話だぜ」

「勇者様がおられるから大丈夫だろう」

「そうだな、勇者様がおられるもんな」

 人々は不安に思いながらも、勇者がいるし事態の推移を見届けたかったので城に向かうことにした。


 城の前の広場はすでに大勢の人達で賑わっていた。勇希は戦いの心配はしていなかったが、みんなを安心させるためにゴッドジャスティスを待機させておいた。

 魔王軍は上空で停止した。代表してデスヴレイズが降りてくる。

「魔王だ」

「魔王が来たぞ」

 人々は緊張して身を一歩引いた。だが、その魔王のロボットから降りてきたのがドレスを着た少女だったことに今度は困惑の空気が広がった。

 エミレールは以前に勇希とレオーナとした話でもう事情を察していたので、今度は自分から説明することにした。

「父が来ると思って期待していたなら済まない。今はわたしが魔王なんだ。魔王エミレールだ」

「あの子が今の魔王なんだ」

「娘さんか」

「俺、ファンになるかも」

 エミレールが友好的な挨拶をしたことで、町のみんなにも安堵の息が広がっていった。

 勇希は歩みを進めて訊ねた。

「久しぶり、エミレール。ドレス似合ってるよ」

「ありがとう。父が贈ってくれたんだ」

「そうか。あのお父さんが」

 勇希は前に会った黒鎧の人物を思い出し、自分の父の事も思い出した。

「それでこれは何なんだい?」

 空の大軍勢を見上げる。エミレールは何でもないことのように答えた。

「みんなでパーティーに来たんだ。だが、どこに降ろせばいいんだろう。今日は人が多くて降ろす場所が見つからないんだ。教えてくれると助かる」

「あ、それならこちらに。セリネ、案内してあげなさい」

「はい、姫様」

 レオーナに言われて、セリネが魔王軍を誘導することにした。王様はつばを飛ばして叫んだ。

「驚かせるでないわーーーーー!!」


 パーティーは城内で賑やかに行われていた。レオーナはドレスを着て料理に手を出しているエミレールに話しかけた。

「エミレールさん、今日はわたしとしっかり話しましょうね」

「わたしは別にお前と話すことはないのだが」

「わたしにはあるんです! さあ、あっちに行きましょう!」

「あ……」

 レオーナはエミレールの腕をがっしりと掴んで移動した。

 ザメクはデイビットと乾杯していた。

「まさかお前達とこんな関係になるとはな。今日はエミレール様の良さについてたっぷり語り明かそうではないか」

「フッ、違うだろう。レオーナについて語り明かすのだ」

「ならば勝負をしようではないか。王国のナイトよ。どちらがより多くを語れるかのな!」

「魔界の宰相に挑まれては受けぬわけにはいくまい!」

 二人はお互いに目を光らせて笑みを浮かべあった。

 ゴロウは料理をむしゃむしゃと食べながら会場の様子を眺めていた。

「これが勇者のもたらした平和ってやつか」

「そうじゃ。全ては勇者のおかげじゃ」

 王様が隣で料理を手に取っていた。

「話相手がいなくてわしは寂しい」

「俺で良ければ相手になるぜ」

「では、長い話をするか」

「土産話にはちょうどいいか」

 ゴロウは料理を手にしながら耳を傾けた。

 

 勇希は会場の喧騒を離れて、ゴッドジャスティスの留めてある地下に来ていた。

「ありがとう、ゴッドジャスティス。今日の平和はみんな君のおかげだよ」

 そこにセリネが階段を降りてやってきた。

「勇希様、みんなで写真を撮りますので会場の方にお越しください」

「うん、分かった」

「懐かしいですね。この手に乗って飛び立ったあの日のことを思い出します。わたしは一生忘れません」

「僕もだよ。この世界に来て本当に良かった。一生の宝物だよ」

「では、行きましょうか」

「うん、じゃあ行ってくるよ。ゴッドジャスティス」


 会場でみんなで集まる。

「じゃあ、撮るぞー」

 王様の自慢のカメラでみんなで撮ることになった。みんなはそれぞれに顔を引き締めたり、笑顔を作ったり、緊張したりリラックスしたりする。

 タイマーをセットして王様が走ってきた。

 写真はとてもよく撮れていた。だが、エミレールは何かが不満のようだった。顔を上げてその不満を口にした。

「わたしはゴッドジャスティスとも写真を撮りたい」

「じゃあ、みんなで集まろうか」


 そんな勇希の提案で、外に出てみんなで集まった。それぞれのロボットに乗って。

 広い場所もロボットが集まると狭く感じる。

 みんなはそれぞれにポーズを取った。

「ゴッドジャスティス!」

「デスヴレイズ!」

「ナイトセイバー!」

「パラディン!」

「マッドスパイダー!」

「キューティープリンセス!」

「ロックハンマー!」

「「ロイヤルナイツ!」」

「「魔族の名も無いロボ達!」」

 みんなでポーズを取る前で、王様だけ寂しそうにカメラの前でうつむいていた。

「わしだけロボが無い……」

「よろしければロイヤルナイツをお貸ししますよ」

「やだ、弱いもん」

「身も蓋も無い!」

 ロイヤルナイツのパイロットがショックを受ける前で、勇希は微笑んで手を差し伸べた。

「良ければ、ゴッドジャスティスに乗りませんか?」

「良いのか? おおーーー!」

 王様はゴッドジャスティスの手に乗って、そこから肩に移動した。

「高い! これがゴッドジャスティス!」

「今度の写真は俺が撮りますね」

 魔族の一人が名乗り出てくれた。みんなで写真を撮る。

 その写真はとてもよく撮れていた。エミレールはしばらく見つめ、顔を上げて微笑んだ。

「ありがとう、大事にするよ」

 その笑顔はとても可愛くて、その場の誰もが見惚れてしまった。

 ザメクが肘で突いてくるのを、デイビットは肘で突き返した。

 王様は城に向かって歩いていく。

「では、パーティーを続けるぞ。今夜は寝かさんからな!」

 みんなも後に続いた。

 そんな平和な光景だった。 

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