第45話 炎の力
サイリスとソアラは旅を続けていく。
過酷な旅だというのに勇者は泣きごと一つ漏らさずに人々に幸せを与えていった。ともに旅をする神もそうした人の優しさと誇らしさに救われた一人だった。
サイリスは魔物の軍勢を物ともせずに斬り伏せ、やがて魔王のいる国が近づいてきた。
遠くの空に暗い雲が渦巻いているのが見える。
決戦に挑む前に、サイリスは胸の内にある思いをソアラに告げた。ソアラはびっくりしてその意見を聞き、迷った。
「精霊の試練を受けるというのか? 言っておくが、精霊の長フェニックスはわらわの知る時代よりも前から生きていて、その実力も神であるわらわですら知らないものなのだぞ。いかにお前が勇者といえどどうなることか」
「ですが、フェニックスの加護を得られれば勝利を万全の物に出来ます。魔王に挑むには必要な試練です」
「分かった。お前が決めているのなら導こう」
サイリスの覚悟は決まっていた。ソアラも信じると決めていた。ならば早いうちに行動を起こすのが最善だった。
ソアラはそう信じ、神の力で霊的な道を開いた。そして、精霊の長フェニックスの住む火山へと赴いた。
試練は当然のことに過酷を極めた。
精霊の長フェニックスの力は容赦なく、火の鳥のはばたきとともに全てを焼き尽くすかのような熱が襲い掛かった。
その力は神であるソアラでさえも身を竦ませるほどの強大なものだ。
だが、勇者であるサイリスはどこまでも真っ直ぐに折れずに挑み続けた。
その勇気のある強く美しい剣技に、天空世界の精霊の長フェニックスもついに負けを認めることになった。
「認めましょう、あなたを。そして、この最強の精霊フェニックスの加護をあなたに授けましょう。あなたは不死に限りなく近い再生能力と、火山の岩をも溶かす激しい炎の力を得ることになるでしょう」
「ありがとうございます。これで魔王を倒してみんなを救えます」
「私の役目は終わりました。これからの世界をあなたに……人に託しましたよ」
「はい」
無限の炎の力を少女に与え、フェニックスは燃え尽きて昇天するかのように消滅していった。役目を終えたのだ。これからの世界を託して。
ソアラは訊ねる。新たな力を手にした勇者に向かって。
「これで世界を救えるのか? サイリス」
「はい、必ずこの力で。みんなの喜べる世界を取り戻してみせます」
使命感に溢れる少女は炎を宿した拳を握りしめ、強い眼差しをしていた。
次の目的地へと向かう。
もう目指す方向に人の住んでいる町は無い。
魔王の支配する闇の大地へと向かって。
ソアラは勇者とともに歩いていった。
魔王の君臨する闇の大地に勇者はついに足を踏み入れた。
迎えるのは魔族の大軍勢。相手にならなかった。
この時のために万全の準備を整えてきたのだ。
サイリスの手に入れた無限の炎の力はどんな敵も焼き尽くし、限りなく高い再生能力は身に受けたどんな毒や傷をも立ちどころに癒していった。
炎を抜けて向かってきた敵は剣で斬殺する。サイリスの剣には迷いが無い。
どんな敵も瞬く間に斬り伏せられていった。
魔族の町を火の海へと変え、サイリスは魔王の城へと足を踏み入れた。
その足を止めることもなく向かってくる敵を次々と切り伏せ、炎の海へと沈めていく。
階段を昇り、魔王の待つ広間へと続く吹き抜けの渡り廊下に足を踏み入れた。
「魔王様のために! ぐわああ!」
魔王の側近を務める騎士団長の美青年も全くサイリスを止める敵にはならなかった。瞬く間に斬り伏せ、焼き尽くし、底の見えない横の崖下へと投げ捨てた。
その圧倒的な強さは、神であるソアラさえも脅えを感じるほどだった。
「なあ、サイリス? これが本当にわらわ達の目指している世界なのか?」
魔族達の町が炎で赤く燃えている。サイリスは振り返り、始めて会った時と変わらない優しい笑顔を見せてくれた。
赤い炎が照らす中で少女は答える。
「はい、そうですよ。後は魔王を倒せば、みんなの喜べる幸せの世界がやって来ます」
「そ……そうじゃな」
「神様はわたしの勝利を信じてはくれないのですか?」
「いや、そんなことはない」
「心配させたのならわたしの責任ですね。大丈夫。わたしは勝ちますよ」
そうして、魔王城の廊下を歩いていった少女は大広間に繋がる扉を押し開けた。
もう邪魔する敵は誰もいなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます