第15話 再会
境夜は幼い頃から札付きの悪だった。
近所の不良たちと喧嘩したとかガキ大将をやっつけたとか武勇伝は枚挙にいとまが無かった。
正義として戦うヒーローに憧れながらも無駄な喧嘩はしてこなかった勇希とは縁の無い存在だと思えた。そんな彼だったが、不思議と学校では話しかけてくることが多かった。
勇希は迷惑には思わなかった。勇希は誰にでも手を差し伸べる優しい少年だった。そんな勇希に境夜も優しい笑顔を見せることもあった。
ある日、境夜がぱったりと学校に姿を見せなくなった。別に珍しいことではない。噂ではまたどこかの学校に喧嘩を吹っ掛けに行ったとまことしやかに囁かれていた。
それが、まさか異世界に来ていたなんて。境夜は喧嘩をしていた時と同じ、不敵で好戦的な笑みを浮かべる。
「俺は前々から思っていたんだぜ、勇希。お前は普段は誰にでも良い顔を見せる優等生面をしてやがるが、やる気になれば誰よりも強い男だってことをな。あの時は誘う機会が無かったが、今誘ってやるよ。俺は今、お前の力を必要としているんだ。俺の部下になれ! 一緒に世界で暴れまわろうぜ!」
「僕は君の悪事に加担するつもりは無いよ」
「俺はお前のそういうところが理解出来ないんだ。お前は力を持ってるんだぜ。その力があれば近所の不良どころじゃねえ。軍隊とだって戦える。一緒に世界を取る気はないのか?」
「僕にだって分からないよ。君のその力があればスポーツで良い成績を残すことだって出来るし、みんなの助けにもなれる。みんなを守ろうとは思わないの?」
「平行線だな。なら、俺は一人で世界を取ることにするぜ!」
「僕は世界を守る!」
クリムゾンレッドは双剣を振りかぶって襲い掛かってくる。勇希はゴッドジャスティスの剣で受け止めた。
前回は凄まじい速さとパワーの斬撃のように思えたが、数々の戦いを経て今の勇希は反応出来るようになっていた。
「腕を上げたな、勇希! やっぱお前は喧嘩の才能があるぜ。今からでも俺の部下に付けよ!」
「僕の力はみんなを守るためにあるんだ! みんなを傷つける君には従わない!」
「守ってどうする? 上を目指せよ! みんな叩きのめして俺達が頂点を取るんだ!」
「僕はみんなと笑顔になれる方が嬉しい!」
「くだらねえな。お前はくだらねえ人間だぜ!」
「君の方こそ!」
勇希は繰り出される斬撃を全て弾き返し、クリムゾンレッドを押し返した。クリムゾンレッドは距離を取って滞空した。
「やるじゃねえか。お前は今までに戦ってきた誰よりも強いぜ。だが、このスピードについてこれるか?」
クリムゾンレッドは人型から竜の戦闘機へと変形し、凄まじい速さで周囲を駆け巡った。赤い風に包囲されても勇希は取り乱さなかった。
「デイビットさんが言っていた。どんなやっかいな攻撃でも来ると分かっている攻撃なら!」
勇希は精神を集中して戦場を意識した。
「動くことも出来ないか? 終わらせてやるぜ。クリムゾンストライク!!」
「今!!」
勇希は赤い風を纏ったドリルとなって突っ込んできたクリムゾンレッドに向かって剣を振り下ろした。
腕に力をこめる。
どれほど高速だろうと、来ると分かっていれば後はタイミングを合わせて剣を振るだけだ。
クリムゾンレッドのドリルとゴッドジャスティスの剣がせめぎ合う。
「なに!?」
「うわああ! ジャスティスソード!!」
ゴッドジャスティスの剣はデスヴレイズの剣とも打ち合えるほどの高性能の剣だ。クリムゾンレッドになど負けるはずがない。
しっかり握り、どっしりと構えて振り下ろす。勇希の決意をも込めた渾身の一撃。
打ち負けたクリムゾンレッドは押される勢いのままに地上へと墜落した。
「はあはあ、これでセリネさんの借りも返せたかな」
「やるな、勇希。ここまでやるとは……思っていたかな。お前は俺の認めた男だ。今その認識を強くしたぜ」
「なに?」
クリムゾンレッドのダメージが回復していく。まるで周囲のエネルギーを取り込んでいるかのように。
「クリムゾンレッドは父の作ったロボット。魔界の大地が力を与えている」
戸惑う勇希に近づいてきて隣に来たエミレールが教えてくれる。
「その通りだぜ、エミレール。お前はよく知っている。利巧な奴だ」
復活したクリムゾンレッドは再び飛びあがって二人の前に立った。勇希とエミレールは警戒する。
境夜は攻撃には出ずに言った。
「そして、ここにはお前の持ってきたもっと大きな魔界のエネルギーがある。それをただ地上に垂れ流すだけではもったいないと思わないか?」
「え……?」
エミレールは言葉を失っていた。境夜の言ったことが理解出来ないようだった。境夜は笑った。
「俺が有効活用してやるぜ。お前の持ってきた特大のエネルギーをな!!」
クリムゾンレッドは竜の姿へと変形する。勇希は身構えたが、境夜は向かっては来なかった。
赤い竜の行く先には巨大な魔界の大樹があった。その中に姿を消していく。
「エミレール、境夜はいったい何をするつもりなんだ?」
「分からない。わたしには何も……」
エミレールは恐れるように自分の体を抱きしめていた。
魔界の大地が色あせていく。魔界化の波が止まったのだ。そして、巨大な大樹も生気を失って枯れていく。
町一帯に境夜の声が鳴り響く。
「俺には理解出来ないぜ! これほどのエネルギーがあるのに……なぜ攻撃に使わないのかがな!」
その声とともに乾ききった大樹の上部から巨大な赤い六本の腕が飛び出した。
大樹を引き裂いて巨大な物体が現れてくる。圧倒的で異質な存在感を持っていた魔界の大樹が崩れ落ちていく。
エミレールは言葉を失っていた。勇希も動くことが出来ず、見ていることしか出来なかった。
巨大なロボットが四本の足で大地を踏みしめる。振られる尻尾が大樹の残骸を全て吹き飛ばしてしまった。
六本の腕が広げられ複数の瞳が光を灯す。背に悪魔の翼が広がった。
鋭い牙の立ち並ぶモンスターの口のある頭部の上にはクリムゾンレッドの上半身があった。
そのロボットはもう人型でも竜型でも無かった。異形の邪神としか呼べない姿がそこにはあった。
勇希もエミレールも自分達をも圧倒的に凌ぐスケールのその巨大なロボットを見上げることしか出来なかった。
境夜は冷たく笑う。
「感謝するぜ、二人とも。お前達がいなければ俺もここまで来ることは出来なかっただろう。ありがとう。そして、ここで死ね!!」
異形のロボ、クリムゾンヘルドラシルの六本の腕がそれぞれにエネルギーを収束させて集め、口から放たれるエネルギー波とともにそれは一本の極大のレーザーとなって発射された。
世界を焼き尽くすほどの大破壊力の輝きの中に、ゴッドジャスティスもデスヴレイズもどうすることも出来ず、ただ呑み込まれていった。
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