第32話 我ら帰宅部 2
帰宅部のメンバー達は足音を忍ばせ、誰にも見つからないように気を付けながら人気のない廊下を進んでいく。校舎内は静かだ。
この時間帯はみんな部活に行っている。自由に行動しているのは彼ら帰宅部だけだろう。
窓の多い場所は身を屈め、壁に隠れるようにして進んでいく。
頭の良い雪菜は前もって学校を脱出するルートを算出していた。
高志は周囲の気配を探りながら呟いた。
「人がいないな」
「いない道を選んでいるのよ。止まって」
雪菜の指示でみんなは止まる。目で合図され、高志は廊下の突き当たりのドアからそっと外の様子を伺ってから顔を戻した。
「誰もいないみたいだぜ」
「計算通りね」
当然の報告を聞いたとばかりに雪菜は短く答え、膝の上に置いたノートパソコンに付近の地図を表示させ、みんなにそれを見せた。
「ここから出て、給食室の前を通って裏門を出るのが、この時間帯では一番安全のはずよ」
「周囲に人の姿は無いな」
「みんな今頃は部活をしているはずだぜ」
「では、今がチャンスですね」
「行きましょう」
警戒しながら身を顰め、廊下を出る。
今日の天気は快晴で南の日当たりは良好だが、北の裏口に当たるこの場所は太陽を校舎が遮っていて薄暗い。
校庭や表の玄関からも離れた人気のない場所だ。だが、前もって調べておいた比較的安全なルートとはいえ、開けた外を歩くのはやはり緊張するものだ。
高志は敏感に周囲の気配をサーチする。
「大丈夫。人が近づいてくる様子は無い」
「いざとなったら逃げることも考えないとな」
「足には自信があります」
駿の意見にミアは力強く答えるが、雪菜は消極的だった。
「わたしは無いわ。見つからないようにしてよね」
言われるまでもなく見つからないならそれが一番良いに決まっている。四人は慎重に進んでいく。
遠く部活をしている者達の喧騒が聞こえる。だが、そこに帰宅部のメンバー達の声が混ざることは無い。
密かに学校の敷地内を横切り、閉まったままの裏門を乗り越えることに成功した。
高志はほっと安堵の息を吐いた。
「よし、ここまで来れば」
大丈夫だと思い、いつもの通学路へ向かおうとするのだが、そんな彼を雪菜は呼び止めた。
「待って。人のいる道を行くのは危険よ」
「まさか学校の手は外にまで及んでくるのか?」
高志と駿とミアの間に緊張が走る。学校の外まで出れば安心だとみんなが思っていたのだ。
雪菜は顔を強張らせながら頷いた。みんなは驚愕した。雪菜はクールに自分の意見を述べた。
「通学路には生徒達の登下校を見守る大人達がいるわ。見つかったら学校に連絡されるでしょうね。私達は学校の制服を着ているから言い逃れは出来ないわ」
「でも、まだみんな部活をやっている時間だ。帰る時間じゃなければ見守りは行われていないだろう」
スポーツマンタイプの駿が熱く自分の意見を述べるが、雪菜のクールな表情は動かなかった。
「その時間にならないと人は現れないという保証はある?」
「通学路はいつも人が多いです」
いつも笑顔で周りをよく見ているミアが答える。高志は考えた。
「危険は避けるべきか」
「だが、人のいない帰れる道なんて分かるか? 俺はいつも通る通学路しか知らないぞ」
「俺もだ」
「わたしも。いつも通る道しか分からないです」
「調べるわ」
雪菜は静かにノートパソコンのキーボードに指を走らせる。画面に付近の立体的な地図を表示させ、最適の道を弾き出す。
「この道なら」
「よし、行こう」
そして、みんなでそこへ向かった。
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