第40話 夜の時間

 買い物を終えてスーパーを出て、今度は出かける時よりも暗くなってきた道を家に向かって三人で歩いていく。

 今回はソアラも素直に離れずに歩いてくれた。その足取りはウキウキ気分のようで軽かったが。

 ソアラが笑顔で楽しそうに話すゲームのコツの話に適当な相槌を打ちながら歩いていき、帰宅する頃には夜になった。

「ゲームじゃゲーム~」

 玄関をくぐるなり、ソアラは早速靴を脱ぎ捨てて飛びこむようにリビングへ入っていく。

「靴並べなよー。まったく」

 勇希は仕方なく、脱ぎ捨てられて片方がひっくり返っているソアラの靴をきちんと並べて置いてやる。

 エミレールは自分の靴をきちんと並べてくれた。

「エミレールは偉いね」

「別に。褒められるようなことじゃない」

 確かにそうかもしれないが。神があんな性格だと助かるのは確かだ。

「エミレールがいてくれて助かるよ」

「そうか」

 正直に伝えてやると、魔王の少女は短く答えて、足をリビングの方へと向けた。


 勇希がエミレールと一緒に部屋に入った時には、すでに部屋のテレビは付いていて、ソアラはその前でコントローラーを握って座っていた。

 行動の早い神様である。その彼女が素早く振り向いて話しかけてくる。

「勇希はこれから晩御飯の支度をするのだったな。魔王、早く来い。2Pで始めるぞ」

「分かった」

 エミレールは頷き、勇希の方を振り返って言った。

「勇希、将棋は後で教えてもらう」

「うん」

 友達の隣に向かうエミレールを見送って、勇希は自分の仕事をするために買ってきた中身の詰まったスーパーの重い袋をテーブルに置いて、中の物を取り出していった。


 夜になって、やっと部長から解放されたアリサはぐったりしてベッドに倒れこんだ。

 このベッドのある一室は昼のうちに使い魔に用意させたホテルの最上階にある。

 高そうな部屋だが、今までも使い魔を信頼して仕事を任せてきたアリサが今更手下の仕事ぶりを気にしたりはしない。

 もう疲れてしまって、気にしたい気分でもない。

 アリサの使い魔達は彼女が学校にいた間に何もしていなかったわけではなく、ちゃんとこの世界の下調べをしたり、いろいろ用意したり、立ち寄ったゲーセンで遊んだり情報収集したりしていたのだ。

 今は疲れて使い魔達からの報告を聞く気分でもない。アリサは枕に顔をうずめて呟いた。

「銀将よ、なぜ真後ろに進めないのか」

 あの局面で銀が真後ろに進めていれば勝てたかもしれないのだ。部長も駒の動きを知っているからそのように打っているのだが。まあ、ルールをねじまげてもしょうがない。

 使い魔がお嬢様に仕える執事のように気を使いながら礼儀正しく訊ねてくる。

「アリサ様、ご飯にしますかお風呂にしますかそれとも」

「ご飯はもう食べてきたので結構です」

 あれから部長に誘われて部のみんなで食べに行ったもんじゃ焼きはおいしかった。

 前に学食で泣いてしまった失態があったので、今度は驚かないように気を付けながら食べたのだが、それでも感動を抑えるのに苦労した。

 良美が楽しい話をして、部のみんなが盛り上がる中、アリサはもくもくともんじゃ焼きミックスを食べてきたのだった。

 まあ、食べ物の話はどうでもいい。果たすべき大事な使命がある。

「お風呂にしましょう」

 アリサは思考を断ち切って顔を上げて起き上がった。長い髪を片手で払う。

 今日は余計なことに頭を使いすぎた。リラックスして頭を休め、明日に備えようと思った。

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