第42話 怪熊退治

ep.8-1 November / 22 / T0059





_ビュゥオォォォォォォ!!



 外は未だに猛吹雪だ。


 俺とウウクは朝一緒に起きてからはいつもどおりイチャイチャしてた。


 その後は一緒にお勉強して、常備食のトルティーヤを作り置きすることにした。

 

 テーブルの上で練った生地をウウクが薄く伸ばし、俺が焼いている。

 ウウクは手で練ったり、作る作業を喜んでやりたがる。

 

 かまどの台に乗った平鍋に、忙しく次々と生地が乗せられ、焼かれる。


 このかまどにはオーブンのような料理を窯に入れて焼く機能が無いので、オーブンを使うよう料理が出来ない。

 折角だからピザなども作りたいのだが…。まぁ、今後考えよう。


 出来上がったトルティーヤは冷まして外の箱に入れた。寒い外なら冷蔵庫よりも確実なのだ。


 お昼ごはんには作ったトルティーヤと、鹿肉をナンプラーの様な調味料で甘辛く炒めたお惣菜を作って挟んで食べる。


 一緒に残り物も食べたのだが、俺は最近自分で作ったお箸を使った。


 ウウクは俺が使ったお箸に興味を持ち、お昼の後はお箸教室をした。


 日本の話しを交えてのお箸教室で、ウウクはお箸道を極めると言い出した。


 茶道や華道なら知っているが、お箸道は聞いたこともない。あるのだろうか?


 二人とも初めての外出できない冬にやる事もないので、とりあえずイチャイチャしてた。


 リア充って素晴らしいと感じた。 


 そして夜になり、夕食を考えていた時だった。


 

_ドンドンっ!!


 「ショウタぁっ!! 居るかっ!?」



 誰かが来た。勢い良くドアをノックしている。



 「? 誰かな?」


 「開けてくるね」



 ウウクが玄関の扉を開けると、雪は止んでいた。


 そこにはスコットが居た。



 「スコット? どうしたの?」


 「夜分に悪いなウウク。二人とも、集合だ。ベンリーのハンターは全員ギルドに来てくれ」



 スコットは防寒装備で俺とウウクにそう言った。


 その顔は笑っていなかった。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 「全員揃ったか?」


 「いや、後は組合長達だ」



 俺とウウクを連れてきたスコットは、いつもの席に座るスティーブと話し始めた。


 “ベルウッドの街”にツンクラト怪熊が出たそうだ。


 港町のカリィタウンから一番西に離れた街がベルウッド。

 一番北に離れた街がウーベント。

 その間にあるのがハッサリー。ここウーベントとベルウッドは一番離れている。


 怪熊は恐ろしく、殺す必要がある。

 確実に殺すためにこの街のハンターにも声がかかった。


 この街でも用心のために守備隊とハンターで警戒させ、大物のハントに長けた人物がベルウッドに赴くらしい。


 ギルドの中にはベンリーの中でもハンターを主にする、区分の高い人物があちこちに居た。


 その中にはウウクの友達の“デイジー・クーツ”と言う女性ハンターも居た。

 かなりの美人だ。ウウクが紹介してくれる。



 「初めまして。ショウタです。ウウクがいつもお世話になってます。言葉でご迷惑を掛けてませんか?」


 「デイジーです。こちらこそ初めまして。ウウクは良い奴よ。明るくて器用で。迷惑なんて何もないわ」


 「デイジーさんもハンターを?」


 「そうよ。区分は4だから簡単なのしかしないし、便利屋のほうが多いけど。相談事なら言って。力になるわ」


 「ありがとうございます」



 そのまま話を交えていると、玄関から各組合長が入ってきた。

 その中にはティーゼルさんも混じっている。


 各組合長達がギルド内の壁沿いに立ち並んだその時だ。



 「そろそろ始めたい」


 

 その声に振り向くと、ギルドの二階から初老の男性が降りてきた。

 顔に傷を持った、白いヒゲを口の周りに生やした、短髪の男性だ。かなり威厳に満ちている。



 「わざわざ集まって頂いて申し訳ない。初めての方も居るだろうから、自己紹介からしましょう。

  ワシはここのウーベントのベンリーギルドマスターのモルテザ・ノコラエヴィッチ・トルストイ。

 今回のハンター、各関係者に集まって頂きましたのは、ベルウッドがツンクラト怪熊に襲撃にされたとの知らせが届いたからです」



 ギルドマスターのモルテザさんは、階段の上から皆に聞こえるように話し始める。



 「ツンクラト怪熊はこの時期は冬眠中ですが、なぜ目を覚ましたかは分かりません。しかし、目覚めたのなら凶暴でしょう。春の目覚めなら山の幸に恵まれるが、今は餌が無いので人里に降りたと見るべきです。

 ここにまで来る確率は低いですが、可能性はある。また、目覚めた原因が争いなら、他のクリーチャーの被害も発生する可能性もあります。用心しましょう。

  その上でギルドとして行うことは2つ。警戒と、討伐です。目覚めた熊はベルウッドの街ですが、闇夜に紛れて襲ってくる怪熊は発見が難しい。

なので、こちらからも手練の増援を送り、確実に殺します。人間の縄張りを教える必要があります。

 残った者は街の内外を守備隊と一緒に警戒と防衛に専念します」



 概要をマスター:モルテザさんは説明すると、室内ではそこかしこでが話しがささやかれた。


 みんな声は大きくないが、心配している。


 するとスコットが部屋の真ん中まで歩いてきた。


 スコットは軽く周りを見渡すと話し始める。



 「話しは後だ。ベルウッドへの出兵メンバーは俺が決めた。呼ばれたメンツは準備をしろ。

 俺とジョー。ハッジャ、アブド、アキニィ、ムワイ。

 ショウタ、ウウク。以上の8人だ。

 少数精鋭で至急向かう。残りは街の警戒だ。リーダー代理はロバートがやる。ロバートから班構成が発表される。質問は各班長がまとめろ」



 ………?


 今メンバーに呼ばれた?



 「すごいねショウタ、ウウク!! クマ退治だって!! やるねぇ!」



 隣りにいたデイジーが俺とウウクの肩を叩く。



 「熊?」



 ウウクも困った表情だ。 


 なぜ…? 俺はスコットの下に行く。



 「スコット! お、俺もクマ退治なんですか?」


 「ショウタか。そうだ。エイイェイも、人喰い山猫も倒したのなら足手まといじゃないだろう。俺達のバックアップで来い」


 「マジっすか…」


 「心配するな。俺とジョーがメインだ。ハッジャとアブド達も狩猟経験がある。安心しろ」


 「ちょっと良いかスコット?」



 俺とスコットが話していると、ティーゼルさんが寄って来た。


 組合長達も緊急事態の時は説明の為に呼ばれるのだろう。



 「ティーゼルさん。どうかしましたか?」


 「俺も行きたいんだが。付いて行ってもいいか?」


 「ティーゼルさんが?」



 スコットは顔をしかめる。



 「ああ。俺もベルウッドが心配だ。知り合いが多いしな。それにチャンスが有るなら怪熊は仕留めたかったんだ」


 「ありがたい申し出ですが、大丈夫ですか? 生半可な武装じゃ太刀打ち出来ないですよ?」


 「心配するな。 おい!! ロバート!! ちょっと来てくれ!!」



 ティーゼルさんは反対側で仕事をしているロバートさんを呼ぶ。


 彼は防寒着の中でいつもの赤いスカーフを首に巻き、各班のハンター達に指示を出していた。


 俺はまだロバートさんとはちゃんと話したことがない。あまりギルドに居ないからだ。

 だから、“さん”を付けないで呼ぶのは慣れない。


 呼ばれたロバートさんは、隣のスティーブに引き継いでこっちに歩いてくる。


 俺よりも背が低いが、貫禄がある。



 「どうしました、おやっさん?」


 「俺もクマ退治に行く。悪いがアイツを貸してくれ」


 「……ハッハッハ♪ 相変わらずですね。手加減してくださいよ? おやっさんの料理みたいになったら、奥さんみたいに怒られますよ?」


 「良いんだよ。焦げてたって作ってもらって喜んでるんだ。ありゃ照れ隠しだよ」



 ロバートさんは笑いながら背中に背負っていた袋をティーゼルさんへ手渡す。中々の大きさだ。


 受け取ったティーゼルさんに俺達の方へ向き直り、渡された袋を背中に担ぐ。



 「さあ、スコット。さっさと準備をしよう」


 「ヒュ〜♪ 了解」



 スコットは両手を広げてそう言った。


 そして約一時間後にウーベントの正門に集合となった。


 俺とウウクは準備をするために家に向かっている。



 「ショウタ」



 俺達と一緒に移動中のティーゼルさんが俺を呼ぶ。



 「ショウタ。試作品の弾丸は何発残ってる?」


 「弾はそのままです。3発ずつで、6発」


 「そうか。これも持っていけ。ここに来る前にもらってきた」



 ティーゼルさんがポケットから出したのは単三乾電池サイズの紫色と、灰色に色付けされた弾だ。


 紫が2発。灰色が3発。



 「アキュテック商会の製品サンプルだ。紫は硬質弾。灰色は軟質弾で当たると弾頭が潰れる」


 「ありがとうございます!」


 「今はこれしかまともなのがない。それと、現地に付いたら俺とチームを組むことにしろ。そうすればバレない」


 「分かりました。よろしくお願いします」


 

 ティーゼルさんの店の近くで別れ、俺とウウクは家に戻った。



 「さて。どうしようかウウク?」


 「えへへ♪ 熊狩りなんてワクワクするね♪」


 「呑気でいいな…熊なんかヤだよ…ただでさえこっちの世界の生き物って無闇に大きいし…」


 「良いの♪ さあさあ! 準備しましょ♪」



 ウウクは槍を二本と新調したボウガンの用意を始めた。


 俺も覚悟を決め、二人分の防寒着とバイオパックの準備を始める。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 正門では守備隊の兵士とハンター達が入り乱れて持ち場の相談をしていた。


 ティーゼルさんが連れて来てくれた俺達のガッハ達にも、寒くないように毛皮を掛けて鞍を取り付ける。


 ガッハ達も何か感じているのか、落ち着かない感じだ。

 

 9人全員が揃うと、スコットの合図で夜の道を歩き始めた。


 雪は止み、風も穏やかだ。

 この星の見える晴れた夜なら安全に進めるとスコットは説明し、俺達はガッハを走らせる。


 スコットは自身よりも大きな、布に包まれた巨大な槍を積んでいた。


 ベルウッドまではハッサリーを経由して二日掛かる。


 長い夜になる。





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 「また出たのか!?」


 「四日間も連続だ!! おかしいだろ!?」


 「塀と罠で思うように食事が取れないんだろう。しつこい奴だ」


 

 男達はベルウッドの守備隊基地の中で集まっていた。


 現地の守備隊兵士とハンター達、さらにハッサリーからも来た応援も集まっている。



 「お前の鼻で探せないのか?」


 「今晩からなら平気だ。吹雪が止んでる」


 「でも相手の熊だって同じだろう? 囮を用意したほうが早くないか?」


 「それが一番だ。ただ警戒心も高いからな…壊された塀の補修作業を優先して、森に近い所に囮を置いて待ち構えよう」

 

 「とにかく相手は腹ペコだ。人の味を覚えられるのが一番怖い。その前に殺そう」





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 November / 24 / T0059





 ハッサリーの街ではギルドが用意した宿に泊まった。



 ウーベントの街からハッサリーの街への道中、大きな川が流れており、大きな石橋を渡った。


 大きな橋を始めてみたウウクはちょっと感動していた。


 23日の午前中にハッサリーへ着き、休憩と仮眠を取り、その日の午後に出発。


 そして24日の夕方。ベルウッドに付いた。

 ここは畜産業がメインにされているそうだ。


 到着した街の外壁は、車が衝突事故でも起こしたかのように崩れていた。


 その壁には血が付着し、油を撒いて焼けた後と、煙がくすぶっていた。


 とてもじゃないが、クマ退治の光景には見えない。


 ウウクは真剣な表情で見ており、俺はドン引きだった。

 

 到着後間もなく、スコットとティーゼルさんは門の近く居たそれぞれの知り合いと挨拶もそこそこに話しを始めた。


 俺は驚いた。

 ハッサリーでもそうだった。

 人も多いが、ゴッズさんの様な獣族がとても多い。


 犬や猫、ウサギの耳とかを生やした人達だらけだ。

 フサフサの毛並みも良く、コーンフレークのコマーシャルみたいな人がいっぱい居る。


 ウウクも俺と一緒になって驚いていた。


 暫く眺めながら待っていると、スコットが全員を呼んだ。

 

 案内され、付いて行くと二人の獣族を紹介された。

 

 ライオンの獣族と、犬のような獣族の男性だ。

 二人とも背が高く、ウウクと同じくらいはある。


 ライオンの獣族の男性は毛皮の防寒着を着込み、一歩前に出て自己紹介を始めた。



 「初めまして皆さん。私がここの守備隊長の“ガンブー”です。後ろの狼は“ウットゥルサ”。この街のベンリーでハンターです。応援に駆けつけて頂き、ありがとうございます」



 そう述べた守備隊長は頭を深く下げた。とても礼儀正しい人だ。 

 だがその顔は疲労を抱えつつも、油断をしない真剣な面持ちだ。


 高く丈夫な外壁を破壊され、焼いて追い払おうとしながらも追い払えず、仕留めようにも仕留め切れずにここまで戦い続けたのだろう。


 ガンブーさんは悲痛な面持ちで説明をしてくれた。


 大型の雌熊で、傷を負っているそうだ。ツンクラト怪熊の特徴である独特な毛皮を有し、昼間は地味で目立たない色だが、その毛皮は夜間は光を吸収する特別な働きをして視認しにくい。

 その特徴を活かして夜間帯に奇襲を繰り返し、一撃離脱戦法のヒットアンドアウェイでこちらの疲労を狙う。


 本来は臆病であまり人里には来ないが、今回は違う。

 完全に人間とその家畜を獲物として狙っている。


 足が早く、人間の足では追いつけず、深追いすると誘い込まれて食われる。


 見つけられず、追えず、致命傷を与えられていない。毒の餌には見向きもしない。用心深く、執念深い。

 そして何よりもの圧倒的なパワーと強靱な肉体と分厚く丈夫な毛皮。

 熱した油にも怯まなかった。


 ガンブーさんは賢く、恐ろしいツンクラト怪熊をそのように説明してくれた。

 

 隣の狼人:ウットゥルサさんは続けて言う。



 「とにかく奴は餌を欲しています。腹を満たせばその場は去りますが、繰り返し来ることになります。ハッサリーとカリィタウンのハンターと協力して、夜間の襲撃に来た時にカウンターを狙っていますが、相手は常に先にこちらを発見し、撹乱してきます。

  奴の嗅覚と目の良さ、耳の良さは私達、獣人族以上です。囮の餌を用意しても見向きもしません。なので網を張っていち早く発見し、一撃で倒したいと考えています」 

   

 「分かりました。夜も間もなくでしょう。直ぐに指示をお願いします」



 スコットは直ぐに持ち場を受けるつもりだ。

 その言葉に獅子人:ガンブーさんと狼人:ウットゥルサさんは頷く。



 「分かりました。奴の襲撃は雪の降る夜か、吹雪の日に集中します。この二日間は大きな襲撃はありませんでした。今夜は雪が振りそうなので、間違いなく来るでしょう」

  


 ガンブーさんはそう説明した。


 その後には兵士の各班長、応援のハンター達との挨拶が続いた。


 そしてスコットが参加した会議を経て決まった警備体制は、ベルウッドの街を四方から取り囲み、警戒する陣形だった。


 西をベルウッド、北をハッサリー、南をカリィタウン、東をウーベントのハンターが囲い、守備隊が正門と高台から見張り、罠と迎撃体制を取っている。

 

 応援に来ている各ハンターのチームには、サポートとしてこの街のベルウッドのハンターが一緒に付くこととなり、俺達ウーベントには狼の獣人族:ウットゥルサさんが付いた。

 

 スコットとは何度も一緒に仕事をした人らしい。


 ツンクラト怪熊は北西の山から来た。なので北東にウットゥルサ、スコット、ジョー、ハッジャ、アブドが位置した。


 俺とウウク、ティーゼルさんはその後方。

 アキニィ、ムワイはさらに後方の南東に位置する事となった。


 お互いのチームがギリギリ見える距離に位置し、熊を見つけたら笛を鳴らす。


 倒す、倒さない以前に、まずは捕捉する。それが一番の目的だった。








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