第12話 ラブパワー半端ない

ep.2-7 day / 2



 真夜中のテントの中は濃密な空気で満たされていた。


 二人はずっと魚になっていた。


 相手を褒め、愛をささやき合い、ただひたすら愛し合った。


 ショウタは自分がただピストンをするだけの機械になってしまったかのような錯覚を感じた。


 でもそれは違う。


 こんなに自分の好意を受け入れてくれた女性は今まで一人も居なかった。


 同じように相手からこれほどまで求められていると感じるのも初めてだ。


 好きだ。そう言えば、私も。と素直に返してくれる。


 彼女からもたっぷりの愛を込めて好きだと言ってくれる。それに同じように答える。


 それを繰り返しながら水の中でイルカがじゃれ合うように身を寄せて抱き合った。


 触れ合うことが心地よい。


 唇同士の接触が耐え難いほどの快感。


 彼女の大きな胸を揉むと、今までとは違う心地良さを表す反応で応えてくれる。


 それがまたショウタを喜ばせ、ウウクも虜にした。


 そしてショウタは最後の力を使い果たすと、荒い呼吸をしながらウウクの背中に倒れこんだ。


 ウウクも度重なる愛の営みに疲れて崩れ落ちるが、懸命に体をひねってショウタの方を向く。



「はっ はっ はっ はっ…」



 フルマラソンをしたかのようなその表情とやりきった脱力感を彼女は体で感じると、彼をギュぅッっと抱きしめた。


 いつの間にか胸の先からは花の蜜のような芳醇な香りと、優しい甘さの透明な液体が滲み出ており、胸のつぼみはそれを吹き出す火山のように隆起していた。


 しかし、それでもやっとのことで自己主張する程度だった。一生懸命で、可愛らしく甘い魅力を醸し出すピンク色のデザートを、ウウクはショウタの口元に運んだ。


 もちろん、そんな経験はショウタと出会うまでは一度もなかった。お乳をあげる行為など、せいぜい哺乳類型の動物が行う行為の一つという認識しかなかった。


 でも、それを与えることが今最も求められていることであることを、ウウクの本能は理解していた。


 口の中に入ってきた異物をショウタは無意識に吸っていた。無意識の中の意識が求めていた。


 ショウタは目を閉じ、汗で湿った黒髪は乱れている。

 それをウウクは優しく撫で、その額にキスをする。


 ショウタもその慈しみを受け止めながらウウクの胸を吸って、胸の先から滲み出る甘味をゆっくりと味わう。


 口の中に広がる味はサルビアの蜜よりも後を引き、バニラの如く惹きつけられる。白桃さながらの濃厚さ。


 そんな母性あふれる味わいと、彼女のしっとりと柔らかな肌とフェロモンの中で、ショウタは静かに眠りに落ちた。


 しかし眠りに落ちるほどまで疲れ切ったショウタの体は、眠りながら次第に活力がみなぎり始めた。


 荒い息を吐いていたショウタは何事もないようにスヤスヤと眠っていた。


 そんな彼を抱きしめて彼女も眠った。 


 その霊薬エリクサーは間違いなく超流動体エーテルだった。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 day / 3





 今まで経験したことが無いような快適な睡眠と開放感と、爽やかな目覚めだった。


 そこにはウウクが当たり前のように俺を抱きしめて寝ていた。

 横になり、向き合いながら俺よりも体の大きいウウクはいつもみたいにその胸で俺を抱えていた。


 今が何時かはもはや気にならないが、どれくらい寝たんだろう。


 朝に間違いはないと思うが、テントの外の明るさそれほどでもないから夜明けだろう。


 昨日は丸一日ひたすら愛を語り合った。


 もう何もできないくらいまで体を酷使したのに、今じゃハツラツとしている。

 むしろ普段以上に元気でスッキリしていると感じる。


 その無意味な程の元気さは中学の頃など目じゃないくらいだ。

 素敵な彼女が出来るとこんなにまでなるのかと、自分自身に驚く。



 「ショウタ、起きた?」



 ウウクが甘ったれるように慈しむ声を俺に掛けてきた。それだけで胸が高鳴った。



 「うん。起きたよ。昨日はやり過ぎてごめんね」


 「ううん。そんな事無いよ。最初は正直辛かったけど、最後はあんなに気持ち良いこと出来て嬉しいって感じたし…いつでもしようね」


 「……。あのさ、 …今からでも平気?」


 「…いらっしゃい♪」





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 そしていつの間にかまた外がずいぶん明るくなっていた。


 愛の行為もお互いを求め合う行為から、お互いの愛情を確かめ合うような行為に変わっていった。


 ウウクの好きな胸のマッサージをしてキスをする。


 今度は小さな動物がじゃれ合うように互いの肌をこすらせる。


 テントの中で水を飲み、キスをしてまた抱きしめた。


 不思議にも空腹感が湧いてこなかった。


 ウウクの胸の不思議な甘い蜜だけで満ち足りる気分だった。


 彼女も平気そうにしていた。


 彼女は俺の全身にキスをし、俺の体を清めてくれる。

  

 それで十分だという。


 ウウクはキスと体液の交換をしながら俺の名前を呼び続ける。


 求められる声に心の躍動と鼓動に火が点き、抱きしめる腕に力が入る。


 俺たちはもう離れられない。ただそれだけを感じた。


 その高揚感は俺の限界をあっという間に終わらせた。


 噴火を続ける快感と、ウウクの喜びのフレーズが耳元に響く。


 二人の呼吸までシンクロし、心臓の鼓動も共鳴するのが感じられた。


 この愛の営みは心に染み渡る魅力があると感じられた。



 「「…んっ・・・…」」



 どちらからとも無くキスをする。


 優しく、思いを伝えるようにただ唇を合わせ、唇同士を舐ねぶらせてデートに誘い合う。


 甘いデートを続けながら横になって密着させていた肌を離した。


 唇も離れる。 


 するとウウクが俺の腰に両手を回す。


 気持ちよさとくすぐったさに、逃げるようにウウクに抱きつく。


 ウウクはそんな俺を見つめながら言ってくれた。



 「もうちょっと…しよう…」



 それからしばらくまたウウクと愛し合った。


 抱きあってキスも繰り返す。


 ウウクは俺に悪戯もするようになった。


 くすぐったくも気持ち良い。


 俺はウウクが胸のマッサージを好むのが良く分かったので頻繁に揉んだ。


 ウウクも俺にマッサージなどをしてくれるようになったし、俺の好む行為をこちらから教えなくても俺の意図や要求を察してくれるようになった。


 先輩や上司と風俗に行ったことは何度かあるが、あんなのとは違う。


 もっと根本的な…野性的で、心や本能をくすぐるように愛してくれる。


 ソクラテスは文字を使ったらアホになるから使わないほうが良いと言ったらしい。

 文字を持たない文化のウウクは、人の心や行動を汲み取るEQや本能の力が高いのだろうか?


 そんなどうでもいい事が何故か脳裏をかすめた。

 それだけ感動したのだろう。


 ウウクが俺にキスを求める。

 二人の大好きなキス。

 お互いの唇が近づき、触れ合う。


 また、ウウクはその口で俺を愛してもくれた。

 猛る俺自身を慰め、昂ぶりを鎮め、可愛がるように。

 普通なら嫌がるのに、ウウクは別に気にならないと言った。


 なんとも感じないという。


 彼女とのキスは俺の味がするけど、俺も気になんかならないと唇でそれを伝える。


 彼女の舌の感触。


 ウウクの味がする。

 そして口の中に俺の味の名残も広がる。


 確かに俺の知っている自分の体液とはなにか違う。

 少なくとも全く気持ち悪い味がしなかった。



 これが愛の力なのだろう。




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