第20話 経緯の説明
ep.4-2 May / 3 /T0059
ギルドの受付の黒人:ベフさんは、皮の紙に調書を書き、説明を終えると事務室へ向かった。上司に報告と連絡をするらしい。
罪人:ハデムについてはハッサリーへの確認と、俺達が伝えた湖にも調査に行くと言われた。
それらが全部完了し、問題がなければ賠償金の支払いが行われる。数日を要するらしい。
この確認作業と調査費用の手間賃は賠償金から差し引かれ、虚偽の報告だった場合はその費用の請求をすると伝えられ、その了承確認をされたが俺は迷わず了解した。
黒人男性のベフさんが俺の目を見ながら説明する表情と眼差し、その整えられた顎ヒゲと迷わず行うその仕事ぶりは一流のビジネスマンの様だった。
職場のホテルに来るお客様もああいった方は多く、そんな人達に俺は憧れていた。
そこまでの手続きを終えると、保護官で兵士のフセインさんは俺達を連れてウーベント守備隊の基地へ向かうと説明してくれた。
外に待たせていたガッハ達を引き連れ、来た時と同じようにフセインさんを先頭に、俺とウウク達は石畳の上を歩いて行く。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
守備隊基地は街の真ん中に大きく構えていた。
フセインさんによると、この街を作る前の最初の開発拠点だったらしく、ここを拠点に街の設計や塀を作ったらしい。
基地に到着するとギルドと同じようにガッハを屋外の柵に繋ぐ。
そして守備隊基地の中に入るとギルドのようなサルーンではなく、板張りのロビーが広がり、その正面にはカウンターで仕切りが作られていた。全て木造だ。
カウンターの奥は事務所と言った感じではなく、作業台や地図、鎧や書類が見え隠れしており、フセインさんと同じ格好の兵士達が仕事をしていた。
地球で見た光景の中では、大きく広い厨房や、軍隊の野営地が近いかもしれない。日本の警察署とは似ても似つかない。事務的な雰囲気は無く、パソコンなんて皆無だ。
フセインさんに二階へ案内され、扉が幾つもある廊下の奥へ進むと、その中の唯一の両開きの扉に案内された。
フセインさんはその扉をノックし、名前を名乗ると中から「入ってくれ」と声がした。ムッサウィルさんだ。
扉を開けて中へ入ると、部屋の奥で光沢のある大きな机を挟んでムッサウィルさんが座っている。俺達を待っていたのだ。
ムッサウィルさんの背後には大きな窓があり、雨戸が開かれていたが、ガラス戸は閉まっていた。
部屋に明かりを取り込む日光が逆光となり、後光のような輝きをムッサウィルさんに与える。威厳を演出する為に設計された部屋だろう。
部屋の中は本棚と地図が壁に掛けられ、金属製の鎧と兜が木製のモニュメントに掛けられている。
反対側の壁には、木と布で出来たカウチ(大きなソファ)があり、部屋の中央のムッサウィルさんの机の前には肘掛け椅子が2脚。
目立つのはそれくらいで、後は部屋の隅に花が花瓶に入って生けられている程度だ。
見れば分かる。ムッサウィルさんはここの隊長だったんだ。話が早い訳だ。
「終わったかフセイン? 問題は?」
中に入ると俺達を連れてきたフセインさんは敬礼をしながらムッサウィルさんの言葉を聞き、前に出る。
「はい。問題はありません。スコットが担当してくれるそうです。調査は数日、賠償金もあの様子なら出ると思います」
「どれくらいか目星はつくか?」
「スコットなら早いですから、三日から四日くらいだと思います」
「そうか。ありがとう。下がって持ち場に戻ってくれ」
「はい。失礼致します」
フセインさんは再び敬礼をし、退室する。後ろで扉の閉まる音が聞こえた。
そして彼が出ていくと椅子に座ったままのムッサウィルさんが砕けた笑みを見せた。
「こっちに来てくれ。椅子に座って話そう」
ムッサウィルさんは机の正面の肘掛け椅子を示し、俺が前に出るとウウクもそれに付き従う。
俺が指定された椅子に座るとウウクも隣の椅子に座る。正面のムッサウィルさんと比較しても、ウウクがこの中で一番タッパがある。
ムッサウィルさんは一度立ち上がると、卓上の水差しからグラスに水を注ぎ、俺達に差し出してくれる。
「さて、まず改めて自己紹介をしよう。私は“ムッサウィル・ガーランド”。この街の守備隊長をしている。疲れただろう?」
「いえ、大丈夫です。お心遣いありがとうございます。わたしはショウタ・サイトウです。隣がウウクです」
謝辞を述べ、座ったまま礼をして自己紹介をする。ウウクの顔には「?」が浮かんでいる。
「申し訳ありません、彼女はこの土地の言葉が分からないので、失礼ですがわたしがお話をさせて頂きます」
「大丈夫だ気にするな。この土地では珍しくない。楽にしなさい。フードも取って構わないよ」
ムッサウィルさんは親しげに声を掛けてくれる。
かなり優しい。ウウクのかぶったフードを気にしてくれているが、遠回しに取れと言っているのだろう。
隠すのも印象が悪いので、俺はウウクにフードを取るように耳打ちする。
するとウウクは灰色のパーカーのフードを引っ張るように取る。すると黄色く長い髪が流れ出る。
その隠されていた頭髪と顔を見ると、ムッサウィルさんの表情が少し輝く。
「ほぉ。これは素敵なレディだ。取ってもらった後で悪いが、かぶらなければならない決まりやルールはあるかい?」
「いえ、それは無いのですが、この髪が理由で狙われたので隠していました」
「ふむ。そうだろうな。それは良い対策だ。体格よりも美貌と髪の毛が目立つ。襲われた理由も分かるよ」
そう言うとムッサウィルさんは椅子に座り直して俺に顔を向け、話し始めた。
「何度も説明させてすまないが、改めて聞いても良いかな? 偶然来たとか?」
「あ、はい。変な男にわたしとウウクは連れさらわれて、船に乗せられたんです。目的地に近づいたと言われた後に別の船に襲われて、気が付いたらこの土地に居て…」
嘘は言って無い。
本当のことは説明の仕様が無いから、ざっくり説明して後は知らぬ存ぜぬを通すしか無い。地球と同じ星なら、なんとかなると願う。
「変な男? 人さらいか?」
「分かりません。帰宅途中に気が付いたら知らない部屋に居て、彼女と出会いました」
「まぁ、彼女ならあり得る。金髪の人間は珍しい。それに君も珍しい人種だ。出身はどこだ?」
「…日本と言う国なんですが…」
「ニホン? どこの国だね?」
「場所は知りません。ですが、わたしの国は海に囲まれていて世界の東の外れにあるそうです」
「島なのか? …未開の地で捕まったのか。彼女もそうか?」
「そうです。彼女はホルトスという国の出身で、すぐ隣の島です。」
宇宙規模なら距離なんかどうでもいいよな? どうせ分からないし。
「そうか。君達は話せるんだな?」
「はい。大丈夫です」
「彼女はダメで、君はこの土地の言葉が話せるのか?」
「わたしの島では、国の学校で言葉を習ったんです。黒人の先生に。異国から来たその先生から、海外の外国の存在は聞いてました。そして今のこの言語が一番ポピュラーだから覚えたほうが良いと言われました」
「そうか。非常に良い国で、良い先生が居たんだな。素晴らしい。その先生の国は聞いているかい?」
「はい。ニュージーランドから来たそうです」
ELTで…。
「残念だ、その国も私は知らない。だが、運命だな。その経験がこうして活きるんだ。そんな国々と出会い、知るために、我々は開拓と冒険をしているのだ」
ムッサウィルさんは感嘆し、感動している。なんだか申し訳ない気分になる。
「あの、それでわたし達は国に帰れそうにないので、困っているんです。どうすればいいでしょうか?」
ムッサウィルさんは少し目線を下げ、手の指を鼻の下に置いたポーズを取った。
「…そうだな。この土地の事はどこまで知っている?」
「陸の孤島のツンクトラの東部で、寒い所。とだけ…。どこにあるのかすらサッパリです」
「分かった。説明しよう」
ムッサウィルさんは力強く笑ってくれた。
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